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グノー、ピアノ作品集。 [2018]

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近頃、あまりに陽が短く感じられて、びっくりしている。もちろん、冬至が近付けば、そういうものだろうけれど、いつもの年より余計に短く感じられるようで、不思議(もうすぐ、ひとつの時代としての平成が終わることを象徴しているのかな?なんて、漠然と解釈してみる... )。一方で、秋の夜長とは、まさに!その夜長を活かし、『パリ左岸のピアノ工房』という本を読み始めた。まだ、この先、どうなるかは、わからないけれど、ピアノの中身を描く物語(ピアノの修理工房の話し... )って、なぜか、穏やかな空気感に包まれていて、読んでいると、やさしい気持ちになれる(若き調律師の成長を描く『羊と鋼の森』にも通じるなと... )。ピアノという楽器は、極めて華麗なイメージに包まれ、クラシックの屋台骨を支えるマシーンとしての威容も誇るわけだけれど、その中身を覗けば、実に繊細な世界が広がっている。その繊細さに纏わる物語は、当然、穏やかなものに落ち着いて行くのかなと... いや、ひとつの楽器が、内と外で、こうも印象が変わるのが、おもしろい。いや、そのギャップこそが、より深い響きを生み出し、希有な存在感を与えるのだろうな... とか、思いを巡らす秋の夜長、ピアノを聴いてみたくなる。
そこで、パリ左岸生まれ、生誕200年のグノーのピアノ作品を聴く。ロベルト・プロセッダの弾く、グノーのピアノ作品集(DECCA/4816956)... いやー、今月は、第1次大戦だ、第2次大戦だ、ファシストだ、亡命だ、アンチ戦後「前衛」だ、検閲だと、ちょっとヘヴィーに音楽と向き合って来たものだから、無邪気にすら思えて来る19世紀の美しいピアノ響きが、やたら沁みる。

始まりのラ・ヴェネツィアーナの何という瑞々しさ!まるでシューベルトのよう... あの『ファウスト』からは、ちょっと想像の付かない音楽... いや、グノーの生誕100年ということで、改めてその音楽人生を見つめてみれば、オペラばかりでない、広がりのある創作活動が浮かび上がり、思い掛けなく新鮮な印象を受ける。ローマ賞受賞(1839)により、ローマ留学(1839-1842)を果たしたグノーは、まず、聖都、ローマに未だ息衝くパレストリーナ様式に感化され、ア・カペラによる教会音楽を作曲している。それは、古楽復興の先取りだったと言えるのかも... 一方で、ローマを訪れていたメンデルスゾーンの姉、ファニー・ヘンゼル(ピアニストであり、作曲家でもあった... )と知り合い、ドイツ―オーストリアの音楽にも興味を持つ。ローマ留学が終了すると、まずウィーンへ、さらにファニーのいたベルリンへ、そして、メンデルスゾーンの拠点、ライプツィヒへと赴き、当時、最先端にあったドイツ・ロマン主義の音楽に触れ、また、メンデルスゾーンからは、バッハの音楽を紹介されている。この遠回りの帰路が、グノーのピアノ作品に大きな影響を与えたのだろう。グノー・イヤーに合わせてリリースされたプロセッダによるピアノ作品集からは、ドイツ・ロマン主義とバッハがグノー流に咀嚼されて響き出し、実に興味深い。
で、ピアノ作品集、前半は、ドイツ・ロマン主義にインスパイアされての作品が並ぶ。シューベルトのような瑞々しさを湛えるラ・ヴェネツィアーナに続く、即興曲(track.2)、回想(track.3)には、シューマンを思わせるメランコリーが滲むのだけれど、シューマンのような起伏の激しさは見せず、絶妙に抑制が利いていて、このあたりにドイツ人とは違うフランス人のロマン主義に対する醒めた態度が感じられ、おもしろいなと... そして、6つの無言歌(track.5-10)では、メンデルスゾーンの無言歌(正しくは、グノーが"無言ロマンス"で、メンデルスゾーンは"無言リート"... )に通じるセンスを見出し、何気ないシンプルなメロディーをさり気なく紡ぎ出すグノー... こちらでは、フランス流のメローさで魅惑的な旋律線を描くのではなく、ドイツ的な素朴なメロディーをピアノに乗せて、ドイツ的であることで抑制を利かせる興味深さ。いや、このバランス感覚こそ、グノーの真骨頂か... さて、後半は、バッハをフィーチャー!あの、平均律の1番の前奏曲にメロディーを乗っけたアヴェ・マリアを、ピアノだけで奏でる瞑想曲(track.11)で始まるのだけれど、グノーによるメロディーの部分も弾いてしまうヴァージョンがあったのか?!と、ちょっと、ビックリ。で、見事にライトな仕上がり!これは、イージー・リスニングの隠れた名曲...
というのは、グノーによるバッハ・リスペクトのアペリティフ。メインは、バッハの平均律クラヴィーア曲集における予習のための前奏曲とフーガ(track.12-23)。これは、誰かのための練習曲なのか?それとも、そういう体裁をとって、グノー流にバッハをリヴァイヴァルしたのか?ちょっとわからないのだけれど、最初の前奏曲(track.12)こそフランス風の花やかさに彩られるものの、続く、フーガ(track)では、しっかりとバッハに倣っていて、手堅い音楽を繰り出す。その手堅さにグノーの実直さを見出し、『ファウスト』からの遠さを改めて思い知らされる。とはいえ、そこはかとなしにフランスならではの色彩も見え隠れして、なればこそ、バッハとはまた違った魅惑的な前奏曲とフーガに仕上がっているのが素敵。と、巡って来たところで、最後に、ローマ賞を受賞した1839年に作曲されただろう4手ピアノのためのソナタ(track.24-26)を聴くのだけれど、いやー、グノーのピアノ音楽の原点にして、もはや集大成のような充実感。軽佻浮華、オペラにバレエが花盛りだった当時のフランスに、こうも確かな絶対音楽が響いていたとは!モーツァルト、ベートーヴェン、シューベルトへとつながる系譜を巧みに自らの音楽に落とし込んでいて、若さからか、それまでに無くロマンティックでもあって、惹き込まれる!
そんなグノーのピアノ作品に、聴き手をますます惹き込む、プロセッダのクリアなタッチ!パリっとした一音一音が、グノーのピアノ作品の美しさを余すことなく引き出していて、見事。聴き込めば聴き込むほど、クラリティーの高い演奏に魅了されるばかり... で、単にクリアなだけでなく、一音一音に仄かに色彩が感じられて、何となしにポップ... このあたりが、グノーのフランスの作曲家であるDNAを詳らかにするようでもあり、印象的。また、4手ピアノのためのソナタ(track.24-26)では、ポンピーリが加わって、息もぴったりに音楽をスパークさせ、鮮やか!いや、グノーのピアノ作品のおもしろさに、今さら気付かされ、驚かされるやら、感服するやら、グノー・イヤー最大の収穫になったなと... というアルバムで、インパクトを放つのが、操り人形の葬送行進曲(track.4)。ヒッチコック監督のテーマとして知られる作品だけに、ちょっと浮いたイメージ... いや、その人を喰ったような表情と飄々と刻まれるリズムは、サティを予感させ、『ファウスト』に通じる良い意味での通俗性に彩られ、ある意味、極めてフランス的。で、このフランス的が、他のグノーのピアノ作品の瑞々しさを引き立たせ、アルバムにスパイスを加えるからおもしろい。何より、グノーの瑞々しさに魅了される。

CHARLES GOUNOD PIANO WORKS ROBERTO PROSSEDA

グノー : 舟歌 「ラ・ヴェネツィアーナ」 ト短調 CG 593
グノー : 即興曲 ト長調 CG 580
グノー : 夜想曲 「回想」 変ホ長調 CG 590
グノー : 操り人形の葬送行進曲 ニ短調 CG 583
グノー : 6つの無言歌
グノー : バッハの第1前奏曲による瞑想曲
グノー : 6つの前奏曲とフーガ CG 587 〔バッハの平均律クラヴィーア曲集における予習のための〕
グノー : 4手ピアノのためのソナタ 変ホ長調 CG 617 *

ロベルト・プロセッダ(ピアノ)
エンリコ・ポンピーリ *

DECCA/4816956




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