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ホルスト、惑星。 [2010]

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さて、明日は、ハロウィンです。一部、すでに、大騒ぎになっているようですが... 今や、大騒ぎするほど根付いてしまったことが凄い!日本人の柔軟性に、改めて感じ入ってしまう。一方で、ハロウィンの起源(キリスト教以前に遡る、ケルトの大晦日... )を紐解いてみると、何となくお盆に通じるものがあって、日本で大騒ぎするほど受け入れられた素地もあったのかなと、興味深く思う。ところで、万霊節(リヒャルト・シュトラウスの歌曲で知られる... )って、ハロウィンのことだったのですね。近頃、巷で人気の5歳児から教えていただきました(これまで、何とボーッと「万霊節」を聴いて来たことか... )。それはともかく、ハロウィンにクラシックに因んだ仮装をするとしたら、あなたは何になりますか?ワタクシは、山高帽を被って、丸メガネで、サティ(何か、妖怪っぽいし... )!で、よりハロウィンっぽく、雰囲気を出すなら、幻想交響曲のサバトの幻想に溺れるイっちゃったお兄さんかな... いや、みんなで仮装して、幻想交響曲を聴くとか、そういうコンサートがあってもいいような気がする。
ということで、幻想交響曲を聴く?いや、聴かない... 前回、平均律クラヴィーア曲集に宇宙を感じたので、宇宙へと飛び出します!ウラディーミル・ユロフスキ率いる、ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団の演奏で、ホルストの『惑星』(London Philharmonic Orchestra/LPO 0047)!てか、『惑星』は、占星術に基づく作品だから、実は、ハロウィンこそ、しっくり、来る?

ホルストの継母、メアリー(ホルストの生母、クララは、ホルストが7歳の時に亡くなっている。父、アドルフは、クララの死から2年を経た1885年、メアリーと結婚している... )は、神智学(宗教の枠組みに囚われることなく、より広い視点に立ち、神秘に真理を求めようとする... みたいな... 現代のスピリチュアリズムの源流... という認識で、よろしかったでしょうか?)に傾倒した人だったらしい。傾倒のあまり、こどもたちはほったらかしだったとか... そういう時代でした。ホルスト(1874-1934)が生きた時代、19世紀後半から20世紀初頭に掛けて、交霊会は大流行りで、オカルトはおもしろいことに科学的に研究がなされ、市民権を得ていた時代。ホルストが、継母から影響を受けたかどうかはわからないけれど、ホルストもやがてそうした世界へと惹かれて行く... 学生時代は、熱狂的なワグネリアン(世紀末、ワグネリズムも、オカルティズムに結び付けられる傾向があった... )で、詩人、ウィリアム・モリス(イギリスにおける象徴主義の先駆者... )に大きな影響を受けたホルストは、時代の申し子であったと言えるのかもしれない。特に、晩年のウィリアム・モリスと交流(モリス家では、後に妻となるソプラノ、イザベル・ハリソンと出会っている... )を持ったことで、インドの文学や哲学を知る機会を得て、より異教的な神秘に関心を持ち、エキゾティックな題材による作品をいろいろ作曲している。1913年(第1次大戦開戦の前年で、『春の祭典』が初演された年... )には、友人の作曲家、アーノルド・バックスの弟で、劇作家のクリフォード・バックスから占星術の話しを聞き、すっかり感化されると、ホルストの神秘の関心は星へと移り、かの『惑星』へと至る。
1914年、第1次大戦の勃発前、40歳を目前としたホルストは、後に『惑星』となる7曲の内、「海王星」を除いた6曲を、ピアノ・デュオのための作品として作曲し始める。で、最初に完成されたのが、第1曲、戦争をもたらす者、「火星」。占星術に基づく音楽ならではの、時代を読む鋭さの反映だろうか?『惑星』の顔とも言える、まるで戦車が進軍して来るような、あるいは、『スター・ウォーズ』でも始まりそうな、あのインパクトある音楽が、第1次大戦が始まろうとしていたその時に書かれていたとは、なかなか感慨深いものがある。そうして、戦火が世界中へと飛び火して行く中、「金星」、「木星」が完成され、戦況が膠着状態に陥る1915年、「土星」、「天王星」が完成。さらに、オルガンのための作品として「海王星」も完成。1916年の初めには、残る「水星」も完成し、1917年、オーケストレーションが施されて、管弦楽のための組曲『惑星』は現在の形となる。こうして見つめると、第1次大戦とともにあった音楽と言える。星の様々な性格を巧みに音楽として表現し、表情に富んだ組曲を織り成しながらも、あらゆる場面に戦争の影は窺えるように思う。始まりの「火星」はもちろん、第5曲、「土星」(track.5)の、警鐘を思わせる中間部、第6曲、「天王星」(track.6)の黙示録的な冒頭と、その後の悪魔的な進軍マーチは、まさに戦争の悪夢のカリカチュアか... 一方、第2曲、「金星」(track.2)の厭世的な気分、そして、女声コーラスのやわらかなヴォカリーズが印象的な、最後の「海王星」(track.7)の諦念は、第1次大戦の悲惨を静かに物語るかのよう。そんな『惑星』は、1918年、第1次大戦終結を目前にして、ロンドンで非公式に初演された。
それから、100年目に聴く『惑星』です。ユロフスキ+ロンドン・フィルの演奏(2009年の録音)で聴くのだけれど、いやー、21世紀の演奏です。第1曲、「火星」の、息急き駆けて行くあたりは、中てられるやら、圧倒されるやら... 「火星」に限らず、全てが驚くようなテンポで、ハイ・テンションで、捲くし立てられるように演奏されて、宇宙のロマンを壮大に描くようなイメージに留まっていると、火傷します。が、単に勢いで押し切るだけではないのが、次世代マエストロ、ユロフスキの凄いところ。そのスピード感に慣れてしまえば、驚くほど新鮮な『惑星』が浮かび上がって来る。何より、そのスピード感は、この名曲に付き纏う、ロマンティックさを振り払う方便であって... ロマンティックさが振り払われて、聴こえて来るのは、見事な20世紀音楽!ホルストの娘で、音楽学者、指揮者、作曲家でもあったイモジェン(1907-84)は、ホルストが『惑星』を作曲するにあたり、シェーンベルク、ストラヴィンスキーの影響を受けていたと述べているのだけれど、納得。複雑なリズム、色彩的なオーケストレーション、同時代の近代音楽と、まったく遜色の無い、大胆な音楽が展開されていたことを、ユロフスキは、鮮烈に詳らかにしてくれる。そして、ユロフスキの大胆さに、前のめり気味に付いて行き、スリリングなサウンドを放つロンドン・フィル!大味な瞬間が一切無く、どこを切っても、全ての音が鮮やかに繰り出され、こんな音があったのか?!と、次々に発見がある。また、発見して、『惑星』の本当のおもしろさを、初めて味わえた気さえする。ウーン、現代っ子感覚による『惑星』の、恐るべき訴求力!覚醒した『惑星』がそこにある。

PÄRT Creator Spiritus THEATRE OF VOICES / ARS NOVA COPENHAGEN / HILLIER

ホルスト : 組曲 『惑星』 Op.32

ウラディーミル・ユロフスキ/ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団、同合唱団(女声)

London Philharmonic Orchestra/LPO 0047




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