18世紀への実験場、ボローニャ、聖ペトローニオ大聖堂の軌跡。 [before 2005]
さて、前回、ボローニャ楽派の父、カッツァーティのヴェスプロ、聖アンドレーアの晩祷を聴いたのだけれど、あれは、ボローニャのためのヴェスプロではなかったのが心残り... やっぱり、ボローニャ楽派に注目するのにあたって、彼らが活躍した場所、ボローニャのシンボル、サン・ペトローニオ大聖堂のために作曲された作品が聴いてみたい!何たって、ボローニャ楽派の音楽的特徴は、サン・ペトローニオ大聖堂の建築的特性(教会建築としては未完成に終わりながらも、結果的に、今となってはあまりに一般的な、シューボックス型コンサートホールの最初とも言えそうな形となる... )があってこそのもの。18世紀の音楽の扉を開いたとも言えるボローニャ楽派にとって、サン・ペトローニオ大聖堂は、新しい音楽を構築する実験場だったような気がする。またより大きな視点から見つめれば、サン・ペトローニオ大聖堂は、今に至るコンサート(この言葉の語源とも言えるコンチェルタート様式、器楽を伴奏に歌うスタイルを完成させたのはボローニャ楽派だったかなと... )の在り方、その方向性を決めた場所とすら思えて来る。いや、サン・ペトローニオ大聖堂は、音楽史において、極めて重要な場所だったのかも... ということで、ボローニャ楽派、ポスト・カッツァーティ世代によるサン・ペトローニオ大聖堂での音楽!
サン・ペトローニオ大聖堂の聖歌隊、楽隊である、カペラ・ムジカーレ・ディ・サン・ペトローニオの歌と演奏で、サン・ペトローニオ大聖堂でチェリストを務めたフランチェスキーニ、1676年のディキシット・ドミヌスを中心に、サン・ペトローニオ大聖堂での祝祭を再現する"VESPRI CONCERTATI DELLA SCUOLA BOLOGNESE"(TACTUS/TC 650001)と、後にサン・ペトローニオ大聖堂の楽長に就任するペルティの1687年の12声のミサ(DYNAMIC/CDS 707)の2タイトルを聴く。
サン・ペトローニオ大聖堂の聖歌隊、楽隊である、カペラ・ムジカーレ・ディ・サン・ペトローニオの歌と演奏で、サン・ペトローニオ大聖堂でチェリストを務めたフランチェスキーニ、1676年のディキシット・ドミヌスを中心に、サン・ペトローニオ大聖堂での祝祭を再現する"VESPRI CONCERTATI DELLA SCUOLA BOLOGNESE"(TACTUS/TC 650001)と、後にサン・ペトローニオ大聖堂の楽長に就任するペルティの1687年の12声のミサ(DYNAMIC/CDS 707)の2タイトルを聴く。
10月4日が、ボローニャの守護聖人、聖ペトローニオの祭日。その日は、サン・ペトローニオ大聖堂で、花やかな祝祭が催されたとのこと... そんな祝祭を再現する"VESPRI CONCERTATI DELLA SCUOLA BOLOGNESE"、まず耳に飛び込んでくるのは、高らかに響くトランペット!まるでファンファーレのような、トレッリ(1658-1709)の4つのトランペットのためのソナタ(バロック期、イタリアの教会では、教会ソナタが象徴するように、典礼ための音楽ばかりでなく、器楽曲もふんだんに演奏されていた... )。カッツァーティがサン・ペトローニオ大聖堂の楽長に就任(1657)して、最初に取り組んだのが、器楽奏者の増強。特に、サン・ペトローニオ大聖堂の縦に長い空間を貫いて、クリアに響く楽器、トランペット... ある意味、トランペットは、ボローニャ楽派を象徴する楽器とも言えのかもしれない。しかし、4つものトランペットが華麗に吹かれると、場がぱぁっと花やぐ!そんなソナタに導かれて始まるのが、カッツァーティがボローニャを離れて5年後、1676年の作品、フランチェスキーニ(1650-80)によるディキシット・ドミヌス(track.2)。やっぱりトランペットが活躍します!コーラスとトランペット、ソロとトランペット、声のやわらかさと、トランペットのヴィヴィットさが絶妙に相俟って、明るく、色彩に溢れ、サン・ペトローニオ大聖堂がふんわりとした空気に充たされて、ヘヴンリー。コントラストを強調して劇的に煽って来るのがバロックの特徴だけれど、フランチェスキーニの音楽は、声とトランペットを並べ、その対比によるバロック的な形を取るものの、そこにコントラストを際立たせようという素振りは見せず、まるでルネサンスへと還るように、全てを美しくまとめるあたりが興味深い。もちろん、ルネサンス・ポリフォニーを再現しようなんてことはしないのだけれど、ルネサンス・ポリフォニーを収斂した対位法を丁寧に用い、声とトランペットの性格を活かしたコンチェルタート様式を繰り出して来る。そしてそこには、カッツァーティ以上にポスト・バロック、古典主義を予感させる感覚を見出す。
という、かつてのサン・ペトローニオ大聖堂での祝祭を再現した音楽を、サン・ペトローニオ大聖堂で録音し、現在のサン・ペトローニオ大聖堂の聖歌隊、楽隊で聴くのだから、また感慨深い。で、現在のサン・ペトローニオ大聖堂の聖歌隊、楽隊、カペラ・ムジカーレ・サン・ペトローニオは、30年ほど前に再編され、ボローニャ生まれのチェンバリスト、セルジオ・ヴァルトロの下、ピリオドにも対応(ヴァルトロは、1996年に楽長に就任している... )。"VESPRI CONCERTATI DELLA SCUOLA BOLOGNESE"では、ヴァルトロの指揮により、ピリオドならではの素朴でやさしいサウンドを織り成し、ソロ、コーラスを支え、実に素直な演奏を繰り広げる。そんな演奏に乗って、ソロも、コーラス(テルツ少年合唱団のほのぼのとした歌声も、いい味、加えます... )も、明朗に歌い、かつてのサン・ペトローニオ大聖堂の祝祭の花やかさを聴かせてくれる。で、やっぱり印象的なのが、トランペット!すっきりとしていながら、温もりを感じさせる音色の伸びやかさたるや!そして、その伸びやかな響きに、サン・ペトローニオ大聖堂の空間が感じられ、とても印象的。いや、トランペットに限らず、全てが伸びやかなのがボローニャ・サウンドか... この空気感、魅了されずにいられない。
VESPRI CONCERTATI DELLA SCUOLA BOLOGNESE
P.Franceschini, G.Torelli, G. Gabrielli
■ トレッリ : 4つのトランペットのためのソナタ G.25
■ フランチェスキーニ : ディキシット・ドミヌス
■ ドメニコ・ガブリエリ : トランペット・ソナタ 第4番 ニ長調
■ フランチェスキーニ : ラウダーテ・プエリ
■ フランチェスキーニ : 2つのトランペットのための7声のソナタ ニ長調
テルツ少年合唱団
アンサンブル・ヴォーカル・ダヴィニョン
セルジオ・ヴァルトロ/カペラ・ムジカーレ・ディ・サン・ペトローニオ・イン・ボローニャ
TACTUS/TC 650001
P.Franceschini, G.Torelli, G. Gabrielli
■ トレッリ : 4つのトランペットのためのソナタ G.25
■ フランチェスキーニ : ディキシット・ドミヌス
■ ドメニコ・ガブリエリ : トランペット・ソナタ 第4番 ニ長調
■ フランチェスキーニ : ラウダーテ・プエリ
■ フランチェスキーニ : 2つのトランペットのための7声のソナタ ニ長調
テルツ少年合唱団
アンサンブル・ヴォーカル・ダヴィニョン
セルジオ・ヴァルトロ/カペラ・ムジカーレ・ディ・サン・ペトローニオ・イン・ボローニャ
TACTUS/TC 650001
フランチェスキーニのディキシット・ドミヌスから11年を経た、1687年、ペルティ(1661-1756)による12声のミサ(track.2-15)を聴く... の前に、サン・ペトローニオ大聖堂の楽長、カッツァーティの後任で、ペルティの前任にあたるコロンナ(1637-95)のラウダーテ・ドミヌムが取り上げられて、これがなかなか興味深い。コロンナは、ボローニャ生まれで、ボローニャで音楽を学び始めるも、やがてローマに出て、カリッシミらに師事。ということもあって、その音楽には、保守的だったローマの影響を見て取れる。で、カッツァーティの後任に選ばれたのも、革新に対する反動が影響したところもあったよう。とはいえ、ルネサンス・ポリフォニーを復興させよう、なんて愚かなことはしないコロンナ... サン・ペトローニオ大聖堂の建築的特性を踏まえ、カッツァーティの革新も受け継ぎ、ローマの伝統と融合させ、バランスの取れた音楽を繰り出す。それは、バロックを牽引した北イタリアと、ルネサンスの伝統が息衝く聖都、ローマを結ぶ交通の要衝としてのボローニャの性格を象徴するかのよう。また、名門、ボローニャ大学を擁する学問の街ならではのアカデミックさも反映されるのか、良い意味で真面目?ラウダーテ・ドミヌムの重厚感あるフーガには、バロックの革新に躍らない、ボローニャの真面目さが感じられ、印象深い(そうしたあたり、バッハに通じる感覚もあるのか?)。何より、その真面目さが生む聴き応えに魅了される。
そんなコロンナの後任として、1695年、サン・ペトローニオ大聖堂の楽長に就任するペルティ... ボローニャ生まれ(コロンナとは24歳の年の差、カッツァーティ楽長時代をまったく知らない世代... )で、ボローニャで学び、生粋のボローニャ楽派と言える存在。ここで聴く、12声のミサ(track.2-15)は、楽長に就任する8年前、26歳の時の作品。真面目なコロンナの後で聴くからか、若々しく、より花々しく感じられ、魅惑的!で、おもしろいのが、シンフォニア(序曲)付きなところ... 短いながらも、合奏協奏曲の形を作り出し、キャッチーなメロディーを奏でれば、やはり古典主義を予感させる。一方で、ミサそのものが始まれば、しっかりとコロンナの路線を引き継いで、華麗に対位法を繰り出して来る。のだけれど、その対位法、コロンナの重厚さとは一味違い、カッツァーティが響かせた明朗さにも通じるようで... 何より、新たな世代を意識させる軽やかな仕上がりが印象的。でもって、軽やかに複数の声部を綾なせば、ルネサンス・ポリフォニーを思い出させるところもあったりで... いや、伝統と革新を結んで、バロックを乗り越えて行くのがペルティの音楽か?このマジック、なかなかおもしろい!
という、ポスト・カッツァーティ、コロンナ、ペルティを指揮するのが、現在のカペラ・ムジカーレ・ディ・サン・ペトローニオの楽長、ヴァンネッリ。フランチェスキーニを指揮したヴァルトロの頃からすると、ピリオド・アプローチはより深化し、洗練されたサウンドが耳を捉える。そんな演奏に乗って、コーラスも明朗に歌い... 何と言っても、12声のミサ(track.2-15)!ヴァンネッリの巧みな指揮の下、3群のコーラス(4×3=12!)が綾なして、サン・ペトローニオ大聖堂の空間を輝きで充たすよう。で、この輝き、モーツァルトの誕生を待つ輝きだよな... いや、ボローニャ楽派って、おもしろい!でもって、素敵!
1687 MESSA A 12 G.A.PERTI
■ コロンナ : ラウダーテ・ドミヌム
■ ペルティ : 12声のミサ
■ ペルティ : シンフォニア・アヴァンティ・ラ・セレナータ
■ ペルティ : プラウディーテ・モルタレス
コロール・テンポリス・ヴォーカル・アンサンブル
コレギウム・ムジクム・アルマエ・マトリス室内合唱団
ミケーレ・ヴァンネッリ/カペラ・ムジカーレ・ディ・サン・ペトローニオ・イン・ボローニャ
■ コロンナ : ラウダーテ・ドミヌム
■ ペルティ : 12声のミサ
■ ペルティ : シンフォニア・アヴァンティ・ラ・セレナータ
■ ペルティ : プラウディーテ・モルタレス
コロール・テンポリス・ヴォーカル・アンサンブル
コレギウム・ムジクム・アルマエ・マトリス室内合唱団
ミケーレ・ヴァンネッリ/カペラ・ムジカーレ・ディ・サン・ペトローニオ・イン・ボローニャ
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