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ランゴー、天体の音楽。 [2010]

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8月になりました!てか、まだ8月じゃなかったの?!って、感じです。6月末には、すでに夏本番で、7月は、どこか違う国の夏本番状態で、もうどうなってしまうのかと... その後、少し落ち着きましたが、早く秋が来て欲しい!なんて、8月1日から言っていることに、先が思いやられる。そこで、音楽だけでも、避暑... 音楽は、空気を震わせて、存在するもの。普段、あまり意識しないけれど、空気と音楽は切っても切り離せない。ならば、作曲とは、空気を五線譜に記録する作業とも言えるのかも... 音楽には、作曲者を包んでいた空気感も籠められているのかも... でもって、音楽を聴くことで、その空気感を解き放つ!北欧の音楽を聴いて、涼しい空気感を、この暑い日本に呼び込む!と、いつもながらの安易な思い付きではありますが、8月は、"北欧"をテーマに、いろいろ聴いてみたいなと... いや、今年は、北極圏も30度越えとかあり得ない事態らしいけれど、北欧で涼む!
ということで、デンマークを代表するマエストロ、トマス・ダウスゴー率いたデンマーク国立交響楽団の演奏と、デンマーク国立合唱団らの歌で、北欧、デンマークの作曲家、ランゴー(1893-1952)の代表作、『天体の音楽』(DACAPO/6.220535)を聴く。

ルーズ・ランゴー(1893-1952)。
父、ジークフリートは、リストにも学んだピアニストで、作曲家。王立デンマーク音楽院のピアノ科の教授を務めた後、宮廷音楽家となった人物。で、母、エマもまたピアニスト... いや、まさにデンマーク楽壇のサラブレット、ランゴーは、カタルーニャのモンポウ(1893-1987)、フランスのリリ・ブーランジェ(1893-1918)と同じ、1893年に、コペンハーゲンで生まれている。そして、幼い頃から母にピアノを、父からは音楽の基礎を学び、7歳で作曲を始め、10歳になるとオルガンを学び始め、11歳で、オルガニストとしてデビュー。12歳になると、ホーネマン(アカデミックな王立デンマーク音楽院とは違う、新しい音楽のための教育を模索し、精力的に活動した作曲家... )らに音楽理論を学び始め、13歳で、自ら作曲したピアノの小品と歌曲を出版。さらに、ニールセンに付いて対位法も学び、1908年、15歳の時には、カンタータ「勝利する女神たち」をコンサートで披露。その早熟さに、コペンハーゲンの音楽シーンを驚かせた。一方で、ランゴーの才能(ワーグナーやリヒャルト・シュトラウスの影響を受けていた... )と、デンマークのアカデミズム(その中心にいたゲーゼは、メンデルスゾーンに師事、後継者とも目されていた... )の間に齟齬も生まれ始めたか、ランゴーは、1911年に完成させた1番の交響曲を、デンマークでは受け入れられないだろうと、ドイツへ持ち込み、1913年、ベルリン・フィルによる初演に漕ぎ着ける。が、デンマーク国内での評価はなかなか得られず、デンマーク楽壇のサラブレットだったはずが、いつの間にか疎まれる存在に... きちんとしたポストにも就けず、オルガニスト助手として生計を立てながら、静かに作曲を続けた。
そんなランゴーが、25歳の時、1918年に作曲されのが、15のパートからなる『天体の音楽』(track.1-15)。2群のオーケストラを巧みに用い、オルガンも鳴らして、見事にスペイシーに響かせる。さらに、ソプラノが歌い、コーラスも歌い、スペイシーさに、星々が想起させるロマンティックさも盛り込み、ポエティックでもある佳作!の一方で、デンマーク楽壇がランゴーを疎んじたのもわからなくはない。始まり、「甘く香る花で飾られた棺の上の陽の光のように」の冒頭、無音の宇宙空間を思わせる、微かに聴こえる弦楽セクションによるクラスター... そこに、弦楽器による信号音のようなサウンドが響き、遥か遠くの恒星の光を表現するのか?そんな星のささやかな光を数えていると、弦楽セクションが奏でるクラスターは勢いを増し、ティンパニーの轟きに後押しされ、まるで星雲のように広がり、美しいパースペクティヴを描き出す。それは、まさに天体の音楽!という音楽は、第1次大戦、終戦の年に書かれたわけだけれど、その音楽、明らかに第2次大戦後を先取りしている。リゲティのクラスター、ミニマル・ミュージックの反復、スペクトル楽派の音響... 近代音楽を通り越して、現代音楽が響き出していることに驚かされる。保守的だったデンマーク楽壇からすれば、まさにわけのわからない音楽だったろう。が、いわゆる"ゲンダイオンガク"の感覚とは違って、聴く者の耳に挑戦するような尖がった印象は無く、時としてロマンティックでもあり... ソプラノが歌う「花の福音―遠く離れたところから」(track.13)は、リヒャルト・シュトラウスを思わせて、ブルーミン!美しい音響の中に、夢見るように芳しい花が開く。そこからの「新しい日」(track.14)、「終末、反キリスト―キリスト」(track.15)の前半に掛けては、アイヴズのようにイメージが重ねられ、壮麗な音楽がうわっと湧き上がり、やがて、次元を越えて行くようなイメージに集約され... 思い出すのは、『2001年、宇宙の旅』のワープ・シーン。そこには、デンマーク楽壇から疎外されるランゴーの閉塞感と、第一次大戦を経験したヨーロッパの痛みが反映されているようで、ただ美しいだけでない、様々な感情が渦巻いて、ただならぬカタルシスを生み出す。
さて、ランゴーは、1940年、46歳にして、初めて正式なポストを得る。デンマーク西部、由緒あるリーベ大聖堂のオルガニストに就任。そして、その年に書かれたのが、次に聴く『終末の時』(track.16-19)。メッゾ・ソプラノ、テノール、バリトンの3人のソリストとコーラスで歌われる作品は、タイトルの通り、黙示録の終末を描いて、オラトリオのような作品。で、おもしろいのが、『天体の音楽』の音楽を素材にしており、何だか続編のような印象も受けるのだけれど、終末を描くだけに、エモーショナル!ワーグナーの記憶を残しつつ、シュレーカーやツェムリンスキーのオペラを思わせる音楽が展開され、『天体の音楽』とはまた一味違う濃密さを見せる。この作品が作曲される前年、1939年、第二次大戦が勃発。デンマークは瞬く間にナチス・ドイツに占領され、まさに終末感が漂っていただろう。が、ランゴーの音楽は、思いの外、息衝いていることが興味深い。ナチス・ドイツの占領で、デンマークの権威が失墜したことは、ランゴーを勇気付けたか?そして、最後に取り上げられるのは、第二次大戦、終結から5年後、1950年の作品、聖書の詩篇をコーラスで歌う「深き淵より」(track.20)。ショスタコーヴィチの戦争交響曲を思わせる力強い序奏の後で、教会音楽らしい清らかなハーモニーが許しを請う祈りを歌い出す。そこから、ランゴーを疎んじたデンマーク楽壇の重鎮たちのスタイル、ドイツ・ロマン主義風の音楽へとつながり、感動的に閉じる。何だろう?ランゴー、晩年の境地だろうか?これは、ある種の和解なのかも...
という、ランゴーの人生を追うようにアルバムを展開するダウスゴー、デンマーク国立響。故国の、隠れた逸材を、どこか慈しむように演奏しているのが印象的。なればこそ、ランゴーの繊細さ、何か鬱積から生まれるようなパワフルさまで、見事に捉え、最後は、深い感動をもたらしてくれる。そうした中で、大活躍なのが、デンマーク国立合唱団!『天体の音楽』(track.1-15)では、音響の一部になるように歌い、『終末の時』(track.16-19)では、ドラマティックに、スペクタキュラーに歌い上げ、「深き淵より」(track.20)では、北欧のコーラスらしい清廉さも見せ、器用に、3作品、それぞれの作風を引き立て、このアルバムのおもしろさを際立たせる。一方で、ダウスゴー、デンマーク国立響は、『天体の音楽』(track.1-15)が、とにかくすばらしい!けして簡単ではないだろう抽象的な音響を、精緻に、繊細に響かせて、瑞々しく宇宙の神秘的な壮麗さを編み上げて行く。そんな演奏に包まれると、何だかプラネタリウムにでも行ったような心地になる。月蝕に、金星の大接近と、天体ショーが目白押しの今日この頃だけに、余計に感じるのかも... いや、星空を見上げたくなる音楽!そして、ランゴーはおもしろい!もっともっと取り上げられたら... と、星に願いを掛けて...

RUED LANGGAARD Music of the spheres

ランゴー : 『天体の音楽』 BVN 128 *
ランゴー : 『終末の時』 BVN 243 ***
ランゴー : 「深き淵より」 BVN 414

インガー・ダム・イエンセン(ソプラノ) *
エトナ・レジツェ・ブルーン(メッゾ・ソプラノ) *
ペーター・ロダール(テノール) *
ヨハン・ロイター(バリトン) *
デンマーク国立声楽アンサンブル
デンマーク国立合唱団
トマス・ダウスゴー/デンマーク国立交響楽団

DACAPO/6.220535




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