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ブリッジ、海、夏、 [before 2005]

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海の日は、ハッピー・マンデーでもって、7月、第3月曜に固定されているわけだけれど、そもそもは、本日、7月20日が海の日... ということで、海の音楽を聴く!海、行かないけど、海を聴く!で、改めてクラシックを見渡してみると、海の音楽、いろいろあるなと... ヴィヴァルディのコンチェルト、「海の嵐」に、シューベルトの歌曲「海の静けさ」(1815)、同じゲーテの詩によるベートーヴェンのカンタータ『静かな海と楽しい航海』(1815)、メンデルスゾーンの序曲「静かな海と楽しい航海」(1830)。フランスでは、ショーソンの歌曲集『愛と海の歌』(1893)があり、そして、何と言っても、この作品、ドビュッシーの交響詩『海』(1905)!ヨーロッパの周縁に目を向ければ、グラズノフの幻想曲「海」(1889)、シベリウスの交響詩「大洋の女神」(1914)、それから、エルガーの歌曲集『海の絵』(1899)に、ヴォーン・ウィリアムズの海の交響曲(1909)、ブリテンの4つの海の間奏曲(1945)などなど、海の広がりそのままに、様々な国で、ヴァラエティに富んだ作品が書かれている。一方で、イギリスは、特に海の作品が多いような... 7つの海を征した大英帝国だけに、海はより身近な題材だったか...
ということで、イギリスの海の音楽!イギリスのマエストロ、ジェイムズ・ジャッドが率いていた、ニュージーランド交響楽団の演奏で、ブリッジの交響組曲「海」(NAXOS/8.557167)。いや、ドビュッシーに負けてない!もうひとつの海、イギリスの海の魅力たるや!

イギリスの音楽は、17世紀半ば、ピューリタン革命によって、一度、壊滅するも、植民地の拡大に伴い、世界中の富がイギリスに集まるようになると、その経済力を背景に急成長を遂げ、18世紀、ロンドンは、ヨーロッパ屈指の国際音楽マーケットにのし上がる。が、19世紀に入るとパっとせず、ローカルな地位に甘んじ... いや、このローカル性にこそ、イギリス音楽の個性は静かに育まれたか... 19世紀末、エルガー(1857-1934)の活躍を皮切りに、一気に花開くイギリス音楽!大陸のロマン主義を、巧みにイギリスの感性に落とし込んだヴォーン・ウィリアムズ(1872-1958)、ホルスト(1874-1934)が続き、さらに、ウォルトン(1902-83)、ブリテン(1913-76)と、20世紀、近代音楽が隆盛を極める中、保守性に個性を打ち出して存在感を示したイギリス音楽。さて、ここで聴くブリッジ(1879-1941)は、ヴォーン・ウィリアムズ、ホルスト世代... で、ロンドンのロイヤル・カレッジ・オブ・ミュージックにて、ヴァイオリンと作曲(アイルランド出身の作曲家、スタンフォードに師事、ヴォーン・ウィリアムズ、ホルストは、同門の先輩にあたる... )を学び(1899-1903)、卒業後は、弦楽四重奏のヴィオラ奏者として活躍(ブラームスの盟友、ヴィルトゥオーゾ、ヨアヒムが率いたヨアヒム四重奏団のヴィオラ奏者を務めたことも... )。そうした経験を活かし、1905年、室内楽作品の作曲コンクール、コベット・チェンバー・ミュージック・コンペティション(実業家でアマチュアのヴァイオリニストだったコベットが主催する若手作曲家発掘のコンクール... )に参加、幻想弦楽四重奏曲で特別賞を獲得すると、作曲家としても注目を集め始める(1907年には、幻想ピアノ三重奏曲で1等!)。そんなブリッジが、1911年、32歳の時に完成させた、交響的組曲『海』(track.5-8)。
パリでドビュッシーの『海』が初演(1905)されてから6年、ブリッジの『海』は、やはりドビュッシーを意識するところもあったか... 「海景」(track.5)、「海の泡」(track.6)、「月の光」(track.7)、「嵐」(track.8)の4曲からなり、ドビュッシー同様、巧みに音楽で海の表情を描き出す。特に、始まりの「海景」(track.5)は、ドビュッシーの『海』を思わせる瞬間もチラホラ... けど、より具体的な形を描き出すのがイギリス流?海そのものをつぶさに観察し、その動きを音楽に落とし込むのがドビュッシーならば、ブリッジは、海のフォトジェニックなあたりを鮮やかに切り取って、次々にパノラマを展開する。月と、その光に輝く海原を静かに描き出す、ロマンティックな3曲目、「月の光」(track.7)、雷光が走り、雷鳴がとどろく、荒れ狂う海を描き出す、パワフルな4曲目、「嵐」(track.8)は、まさに絵画的!その整った構図には、メンデルスゾーンに遡るような感覚があって、端正で、堂々たるもの。またそこに、イギリス音楽ならではのキャッチーさが加わって、よりエンターテインな印象を生み出す。「嵐」(track.8)での、大波を船が乗り越えて進むようなダイナミックさは、絵画よりも映画を思わせて、勇壮で、またここぞというところで、カッコいいテーマを用いて、イギリス音楽の真骨頂!ホルストの『惑星』(1916)に通じるセンスを感じる。一方で、最も短い2曲目、「海の泡」(track.6)では、他と違って微視的に海を捉え、泡の動きが創り出す抽象的なイメージを音にするか... それは、『展覧会の絵』の「卵の殻をつけた雛の踊り」に似ていて、ちょこまかと動き回り、ユーモラス。ドビュッシーの『海』の2楽章、「波の戯れ」に通じるモダンニスティックさを見出す。
ブリッジの作品は、イギリスらしい保守性を見せつつも、同時代の大陸の動向も注視し、最新のスタイルを自らのパレットに引き込んで、センスのいい音楽を紡ぎ出す。で、『海』の前に取り上げる3つの作品が、まさにそうしたブリッジの魅力をより楽しませてくれる。『海』から3年を経た1914年の作品、交響詩「夏」(track.2)では、より明確に印象主義的なアプローチが試みられていて、輝かしい夏の空気感を、一音一音、点描のように並べ、表現し、瑞々しさを生み出す。その翌年、1915年に作曲された、19世紀、イギリスを生きたネイチャー・ライター、リチャード・ジェフリーズの著作にインスパイアされた2つの詩(track.3, 4)では、ひとつ目、「野外にて」(track.3)を、ドビュッシーを思わせるミステリアスさで、たゆたうように奏で、2つ目、「わが心の物語」(track.4)を、ラヴェルのようなカラフルさで彩って、印象的。そして、ブリッジが円熟期を迎える頃、1927年の作品、狂詩曲「春の訪れ」(track.1)では、その冒頭、表現主義的な表情も覗かせて、春の芽吹きの突飛さのようなものを巧みに捉え、次第に春が深まって来ると、リヒャルト・シュトラウスを思わせる豊潤さで全体を包み、まさに春の訪れを見事に描き切る。いや、惹き込まれる!大陸での最新の音楽は、あくまで手段でしかないブリッジの姿勢... なればこそ活きて来る春の風景であり、夏の表情であり、海のダイナミックさ、ドラマティックさなのだろう。
というブリッジの音楽を聴かせてくれた、ジャッド、ニュージーランド響。奇を衒うことなく、真っ直ぐにブリッジの音楽と向き合って、気持ちの良い音楽を繰り出す。ジャッドの、イギリスのマエストロならではの律儀さ... 律儀なればこそ活きるイギリス音楽の瑞々しさ... その瑞々しさの中に、大陸の最新のスタイルを器用に操るブリッジの巧さもしっかりと聴こえて来て、卒なくブリッジの魅力を展開する。ライトな仕上がりになりがちなイギリス音楽だけれど、ライトさも含め、ブリッジのおもしろさを丁寧に提示して来るジャッド... それに応えるニュージーランド響の音楽性がまた絶妙に効いていて... 南半球から、より壮大な自然を抱えるニュージーランドから、ブリッジが捉えた自然、風景を、よりスケールを以って響かせる!そのスケール感が、イギリス音楽のライトさを、良い意味で裏切ってくれる!いや、ヴォーン・ウィリアムズ、ホルストの陰に隠れがちなブリッジだけれど、ジャッド、ニュージーランド響は、改めて、この作曲家のおもしろさを教えてくれる。そして、イギリス音楽の広がりを、再認識させられる。ウーン、『惑星』ばかりじゃないわ、まったく...

BRIDGE: The Sea ・ Enter Spring

ブリッジ : 狂詩曲 「春の訪れ」
ブリッジ : 交響詩 「夏」
ブリッジ : 2つの詩 〔リチャード・ジェフリーズに基づく〕
ブリッジ : 交響的組曲 『海』

ジェイムズ・ジャッド/ニュージーランド交響楽団

NAXOS/8.557167




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