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ノイコム、ルイ16世を追悼するレクイエム。 [2017]

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さて、ワールド・カップが佳境です。明日は、フランスとクロアチアの決勝!でもって、本日は、フランス革命記念日、パリ祭!となると、フランスは、いつも以上にお祭り騒ぎなんだろうなァ。なんてことを思い浮かべつつ、革命後のフランスの歩みをおさらい... 現在のフランス共和国は、1789年のフランス革命に始まる。そんな風に思いがちなのだけれど、世界史を勉強すると、そうでないことが露わになります。第1共和政が成立するのは、フランス革命の3年後、1792年。翌年、王様をギロチンに掛けてみれば、絶対王政もドン引きするほどの独裁、恐怖政治に陥って、けど、そんなものは長続きせず、王制よりも威圧的な帝政となって、ヨーロッパ全体を戦争の渦に引き摺りこむ!けど、そんな無謀なことは長続きせず、王家が帰って来ての元の木阿弥。で、再び革命。株屋(つまりブルジョワたちに... )の王が乗っ取って、株価が下がれば、今度こそ共和政!のはずが、大統領は皇帝に変身、戦争やって、捕虜になって、パリは大混乱!の果てに、選挙やったら王党派圧勝!王政復古のはずが、本家と分家が喧嘩して、仕方なしに共和政という、トホホ... その後も、ナチスにあっさりと占領され、戦後、新たな共和政が成立するも、軍部に脅され、1958年、大統領の権限が強化された第5共和政が誕生し今に至る。フランスの長い歴史を振り返った時、フランス革命というのは、何だか混乱の種を蒔いただけのようにも思えて来る。もちろん、人権、平等、そして三権分立など、得られた高い理念も多いのだけれど... 革命後のフランスをつぶさに見つめれば、フランス革命記念日を祝うのが少し憚れる?ということで、本日、あえて、ルイ16世を追悼。
ジャン・クロード・マルゴワール率いる、ラ・グラン・エキュリ・エ・ラ・シャンブル・デュ・ロワの演奏、クレメンス・ティルカン(ソプラノ)、ヤスミナ・ファーヴル(メッゾ・ソプラノ)、ロバート・ゲッチェル(テノール)、アラン・ビュエ(バス)、ナミュール室内合唱団の歌で、1815年、ウィーンでのルイ16世追悼のミサのために書かれた、ノイコムのレクイエム(Alpha/Alpha 966)を聴く。

ジギスムント・ノイコム(1778-1858)。
2006年、モーツァルトの生誕250年のメモリアル、モーツァルトのレクイエム、リオ・デ・ジャネイロ版(1819年、ブラジル、リオにて、モーツァルトのレクイエムが取り上げられるにあたり、ノイコムが補筆した版... )がリリースされ、マニアックな界隈でブレイクを果たした作曲家!そんなイメージのノイコムなのだけれど、その足跡を追うと、なかなか興味深い。1778年、教師の父と、歌手だった母の下、モーツァルトの故郷、ザルツブルクで生まれると、早くから音楽の才能を示し、7歳でザルツブルク大聖堂のオルガニスト、ヴァイスザウアーに師事。その後、ザルツブルクの宮廷楽長だった、ハイドンの弟、ミヒャエルに弟子入りし、1796年には、ザルツブルクの劇場の合唱指揮者となる。翌、1797年、古典派の都、ウィーンに出て、今度はハイドンに弟子入り。そのアシスタントを7年間に務めた後、1804年、ロシアの帝都、サンクト・ペテルブルクへ... パイジェッロを始めとする、当時、名立たる作曲家たちが招聘されていたロシアのお雇い作曲家の列に、若きノイコムも加わることに... そこで4年間を過ごした後、1808年、ウィーンに戻る。が、ナポレオン戦争、真っ只中のウィーンは、もはや音楽どころではなく... ならばと、翌、1809年に、パリへ!フランス革命により、一度は雲散したパリの音楽シーンだったが、ケルビーニら、新たな世代が、グルックの記憶の延長線上にロマン主義の先駆けを繰り出し(ベートーヴェンにも影響を及ぼす!)、ノイコムもまた刺激を受け、古典主義を脱する感性を育んで行く。さて、ナポレオンが失墜すると、その後を話し合うウィーン会議が開催されることとなり、ノイコムは、フランス外相、タレーランの専属ピアニストとして、1814年、ウィーンへ!そして、1815年、ウィーンのシュテファン大聖堂にて、ギロチンの犠牲となったルイ16世の追悼のミサが行われることになると、そのためのレクイエムを書くことに... それが、ここで聴く、レクイエム。
さすが、フランス国王を追悼するミサ、実に荘重であります。で、レクイエムの前にブラスによる葬送行進曲とミゼレーレが歌われるのだけれど、ここからすでに惹き込まれる。シンプルな音楽ではあるのだけれど、葬送ならではのスローなテンポと、ブラスによる雄弁なメロディーは、実に、実にドラマティック!ズシリと哀しみを表現しながら、黙示録のラッパを思わせる鮮烈さを放って、聴く者に迫って来る。そこに、ゴォーン、ゴォーンと鈍く鐘が鳴らされ、ミゼレーレが歌い出される。で、このミゼレーレが、思いの外、古風で、ルネサンスへと還るようなイノセンスさを見せ、それがまた静かな迫力を呼び、絶妙。そうして始まる、レクイエム... 入祭唱(track.2)には、よりメローな感覚があって、荘重さの中にもやわらかさ生まれ、フォーレのレクイエムを思い起こさせる瑞々しさが広がり、はっとさせられる。このあたり、ウィーン古典派というより、フランス流を感じさせるノイコムの音楽性... 続く、セクエンツァ(track.3)は、グレゴリオ聖歌のディエス・イレをそのまま冒頭に織り込んで、ちょっとびっくりなのだけれど、その後で繰り出されるドラマティックな展開は、モーツァルトのレクイエムを思い出させ、ウィーン古典派へと回帰するよう。フォーレを予感させるかと思うと、モーツァルトへと引き返す... このあたりが、1815年、過渡期の音楽の生々しさなのだろうなと... けど、そこに音楽的な弱さは一切感じない。葬送の意味合いが持つ重々しさが、ノイコムの過渡性を見事に吹き飛ばしてしまう!凝ったことをせず、率直に追悼する姿勢が、聴く者をグイグイと引き込む。いや、目的がはっきりしている音楽なればこそ、訴える力はより強まっている。
そんな、ルイ16世を追悼するレクイエムを聴かせてくれるマルゴワール。いつの間にやら、ノイコムのスペシャリスト?なればこその、ただならぬ説得力!ラ・グラン・エキュリ・エ・ラ・シャンブル・デュ・ロワを見事に繰って、始まりの葬送行進曲から、じっとりと荘重で、ドラマティック。葬送ならではのスローなテンポを活かし、そのスローさから余すことなく迫力を引き出す。この雄弁さが、ただならない... そんなマエストロに応えるラ・グラン・エキュリ・エ・ラ・シャンブル・デュ・ロワの演奏も見事で... 特に、ブラス!重みを感じさせながらも、空間を突き抜けて行くような清冽さを聴かせ、葬送行進曲などは圧倒される。で、彼らのパワフルで清冽なサウンドに触れていると、ベルリオーズのレクイエムに感じられる瞬間も... そして、何と言っても圧巻なのがナミュール室内合唱団!「室内」のはずが、見事な厚みを響かせて、魅了される。1815年、シュテファン大聖堂では、2群のコーラス(一方はノイコムが指揮し、もう一方はサリエリが指揮していた!)を擁し、大規模に歌い上げられたとのことだけれど、その雰囲気を見事に引き出していて、壮大。すると、ベートーヴェンのミサ・ソレニムス(1823)を思わせるスケール感が広がり、大海に漂うような感覚が何とも言えない。

NEUKOMM  REQUIEM À LA MÉMOIRE DE LOUIS XVI

ノイコム : 葬送行進曲 と ミゼレーレ
ノイコム : レクイエム ハ短調

クレメンス・ティルカン(ソプラノ)
ヤスミナ・ファーヴル(メッゾ・ソプラノ)
ロバート・ゲッチェル(テノール)
アラン・ビュエ(バス)
ナミュール室内合唱団の
ジャン・クロード・マルゴワール/ラ・グラン・エキュリ・エ・ラ・シャンブル・デュ・ロワ

Alpha/Alpha 966




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