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ボーイト、メフィストフェレ。 [2011]

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メフィストは悪魔で、ファウストはその悪魔に魂を売ったヘタレ... このコンビが繰り広げる物語は、とても褒められたようなものではないけれど、多くの人が魅了されてしまうのは、悪さをすることの潜在的な欲求を擽るからだろうか?破滅が待っているから、誰もしないけれど、舞台上で繰り広げられる悪徳を、プロセニアム越しに覗き込むことは、とても刺激的なことと言えるのかもしれない。そして、その悪徳を息衝かせる音楽は、往々にして魅惑的だったりする。グノーの『ファウスト』、ベルリオーズの『ファウストの劫罰』と聴いて来て、改めてそんな風に思った。ので、勢い、もうひとつファウストを!ボーイトの『メフィストフェレ』... でもって、今年は、ボーイト(1842-1918)の没後100年のメモリアル。さらに、その代表作、というか、完成された唯一のオペラ、『メフィストフェレ』の初演から150年という記念の年。ということで、ボーイトとメフィストフェレを祝って、
ステファノ・ランザーニの指揮、パレルモのテアトロ・マッシモでの白熱のライヴ盤!タイトルロールにフェルッチョ・フルラネット(バス)、ファウストにジュゼッペ・フィリアノーティ(テノール)、マルガリータにディミトラ・テオドッシュウ(ソプラノ)という強力なキャストで、ボーイトのオペラ『メフィストフェレ』(NAXOS/8.660248)。いやー、フルラネットの悪魔的ド迫力にヤられます。

アッリーゴ・ボーイト(1842-1918)。
細密画家の父と、ポーランドの伯爵家出身の母の間に、イタリア、パドヴァで生まれたボーイト。幼くして両親が別れると、母に連れられヴェネツィアへ... この古い音楽都市で育ったボーイトは、音楽と文学に興味を示し、1853年、11歳でミラノ音楽院に入学する。音楽院では、後の台本作家としての才能の片鱗を見せ、音楽よりも文学において注目されるも、やがて音楽の才能も伸ばし、音楽院を卒業時には、留学のための奨学金を得るまでになっていた。そして、1861年、19歳、奨学金を使い、多くの芸術家たちが集まる19世紀の首都、パリへ!当時、一流の芸術家と交流を持つ機会を得て、大いに刺激を受ける。で、その一流のひとり、同郷、ヴェルディ(1813-1901)との出会いが、ボーイトに大きなチャンスをもたらす。ロンドンで開かれる、第1回、万国博覧会(1862)のために、ヴェルディが作曲することになっていたカンタータ(諸国民の賛歌)の詩をボーイトが書くことに... これが、ボーイトとヴェルディの最初のコラヴォレーションとなる。が、この2人がタッグを組み、数々の傑作を世に送り出すのは、まだまだ先のこと... さて、ボーイトは、1862年にミラノへと戻ると、急進的な芸術運動、スカピリャトゥーラに参加。19世紀の保守的な世相と、それに追随するイタリアの楽壇を痛烈に批判する詩を発表。またワーグナーをイタリアに紹介し、革新的な音楽の旗手に祭り上げられる一方、ヴェルディら、従来のイタリア・オペラの担い手たちや、その作品に慣れ親しんで来た人々を敵に回してしまう。そうした中、台本を書き、作曲したのが、ボーイトのオペラ・デビュー作、『メフィストフェレ』。1868年、ボーイト、26歳で迎えたミラノ・スカラ座での初演は、ボーイトの支持者と、守旧派が激しく衝突し、大失敗。2夜目には上演中止の命令が出るほどだった。これにより、ボーイトは、作曲家として自信をすっかり失ってしまい、以後、台本作家としての仕事に軸足を置く。
ところで、現在、上演される、『メフィストフェレ』は、2度の改訂を経た版で... ボーイトは、台本作家の仕事をこなしながら、時間を掛け、ほぼ全面的に改訂を施し、1876年、ボローニャでの再演は、想定以上の成功を得る。すると、さらなる改訂を経て、1881年、ミラノ・スカラ座でも再演し、大成功となる。うん、時間を掛けた分、『メフィストフェレ』は、おもしろくなっている。まず、のっけから惹き込まれる!初演時から好評得ていたプロローグ、その最後、天上にて神を讃えるコーラス(disc.1, track.6)は、タンホイザーか、パルジファルか、まさにワーグナーのように壮大で圧倒的!けれど、やっぱりイタリア流の色彩感があって、よりカラフルに厚みを増し、レスピーギを予感させるよう... かと思うと、2幕、2場、ワルプルギスの夜(disc.2, track.1-5)の、諧謔を含んだおどろおどろしさは、チープで、ショスタコーヴィチを予感させるトーンがあり、刺激的。そうしたあたり、スカピリャトゥーラの精神(ボードレールの象徴主義の詩や、ポーの怪奇小説に共鳴していた... )も生きているのだろう、間違いなくヴェルディよりも先にある音楽が響き出す。一方で、グノーばりのメローさもあって、いや、グノー以上にメロドラマなところも... それでいて、思いの外、イタリア・オペラの伝統に則ってもいて、尖がっているようで、まったくそうじゃないセンスが混在するごった煮感が、聴く者を眩惑して来る。というより、この感覚がヤミツキになる。裏を返せば、それはボーイトの苦闘の痕と言うべきなのだろうけれど、その苦闘こそがこのオペラに卒なく書かれたヴェルディの名作とは違う得体の知れないパワーを生み出し、まさに悪魔的なおもしろさに包まれる。
という『メフィストフェレ』を、パレルモのテアトロ・マッシモにおける好演のライヴ盤で聴くのだけれど、ライヴならではの白熱が、このオペラの魅力をますます炊き付けて、凄い!いや、イタリアのローカルなオペラハウス、ぶっちゃけ大味のところもある、おいおいしっかりしてくれよとすら思うところもあるのだけれど、それら全て呑み込んで、圧倒的なものとしてしまう、タイトルロールを歌うフルラネットの強烈な存在感!もはや悪魔です。底が窺い知れないような低音を響かせながら、表情豊かにチープ感も出せてしまう器用さ、その縦横無尽さに舌を巻く... しかし、何と言っても、エピローグ、フィナーレ(disc.2, track.16)、悟りを得たファウストが天へと迎えられる中、七転八倒、喘ぎながら死んで行くメフィストフェレの姿に初めて触れた時、涙出た(ホントだよ!)。もはや、ロジックでは無い魂のパフォーマンス。フルラネット=メフィストの断末魔が、まるで世界を浄化するかのよう。いやー、声の力は凄い!でもって、フィリアノーティ(テノール)のファウストも、テオドッシュウ(ソプラノ)のマルゲリータもすばらしく、なれぱこそ、オペラ全体が鮮烈さを放ち、ボーイトの苦闘が全て報われるよう。ローカルだろうが、何だろが、テアトロ・マッシモの、全力投球で迎える最後の壮大さも圧巻。いや、多少、不器用なくらいが、ボーイトの、『メフィストフェレ』の真実を捉えるのかもしれない。

BOITO: Mefistfele

ボーイト : オペラ 『メフィストフェレ』

メフィストフェレ : フェルッチョ・フルラネット(バス)
ファウスト : ジュゼッペ・フィリアノーティ(テノール)
マルゲリータ/トロイのエレナ : ディミトラ・テオドッシュウ(ソプラノ)
マルタ : ソニア・ツァラメッラ(メッゾ・ソプラノ)
ヴァグネル/ネレーオ : ミンモ・ゲッジ(テノール)
パンターリス : モニカ・ミナレッリ(メッゾ・ソプラノ)
パレルモ大劇場合唱団、同児童合唱団

ステファノ・ランザーニ/パレルモ大劇場管弦楽団

NAXOS/8.660248




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