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ブラームス、交響曲、2番。 [2016]

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19世紀、ロマン派の作曲家による交響曲をつぶさに見つめると、大なり小なり、18世紀、古典主義の存在を感じる。そもそも、交響曲というものが、18世紀生まれであって、その性格は、理性を尊ぶ啓蒙主義の時代を反映するもの... 突き詰めて考えれば、古典主義のカウンター・カルチャーとして登場した、まさにロマンチックなロマン主義と、絶対音楽=交響曲は相容れない気がする(それを強引に処理してみせたのが、交響詩なのだと思う... )。しかし、交響曲が大輪の花を咲かせるのは、19世紀に入ってからというジレンマ... 音楽史とは、往々にしてもどかしいところがある。けれど、そのもどかしさこそが、音楽史の流れを厚みのあるものとし、興味は尽きない。ということで、そのもどかしさの沸点にある作曲家だろうか?ブラームスに注目してみる。
ロマン主義、ど真ん中に在りながら、古典を意識し、そこから堅牢なアカデミズムを築いて行った新古典派、ブラームス... パーヴォ・ヤルヴィが率いるドイツ・カンマーフィルハーモニーの演奏で、ブラームスの2番の交響曲(RCA RED SEAL/88985459462)を聴く。

ブラームスが初めて交響曲に取り組んだのは、1854年、21歳の時... その試みは、交響曲として実を結ぶことはなく、1番のピアノ協奏曲(元々、2台のピアノのためのソナタとして作曲され、それをベースに交響曲に仕上げようとするも、結局、ピアノ協奏曲へと落ち着き、1857年に完成... )となる。が、翌、1855年には、1番の交響曲の構想を練り始め、本腰を入れて交響曲の世界へ踏み込むのだったが、完成までに21年も掛けることに!シューマン家でお世話になっていた駆け出しの作曲家も、着実にキャリアを築き、国際的な名声を獲得していた43歳、1876年に完成した1番だけに、その音楽は練りに練られていて、"1番"にして集大成。いや、それまでの交響曲を総括するような大上段に構える威容を示していて、ちょっと厚かましいくらい。保守的なブラームスの慎重さが、驚くべき交響曲を生み出したわけだ。そんな、1番が完成、初演された翌年に作曲されたのが、ここで聴く2番... 1877年の夏、オーストリア南部、ヴェルター湖畔の避暑地、ペルトシャッハに滞在したブラームスは、この2番を一気に書き上げてしまう(その年の年末には、ウィーンで初演!)。それは、"1番"というプレッシャーから解放されてのスピード感だろうか?ペルトシャッハというリゾートを訪れての高揚感からだろうか?21年も掛けた1番の後で、わずか数ヶ月で書き上げてしまった2番(track.1-4)というのが、とても興味深い。
始まりは、湖畔に朝がやって来るような感じで、やがて、湖へボートで漕ぎ出し、少し物憂げに湖面から周囲の景色を眺めるような... ペルトシャッハを訪れたブラームスが目に浮かぶような展開を見せる1楽章。1番の格調高さ、荘重さからは一転、目の前にある情景を譜面にスケッチして行くかのような、独特な瑞々しさを感じさせる音楽。力作、1番は、ベートーヴェンの10番目の交響曲とも持ち上げられたわけだけれど、2番は、ブラームスの「田園」... 綿密に交響楽を織り成すよりも、野外に出て、風景を、自然を、活写するような、よりナチュラルで、肩の力が抜けた音楽を展開してくれるのが心地良い。2楽章、アダージョ(track.2)の、牧歌的で穏やかな表情、3楽章、アレグレット・グラツィオーソ(track.3)の、快活に踊るようなリズミカルさは、かえって1番よりもベートーヴェン的に感じられ、ブラームスの新古典派としての性格を見出す。そして、終楽章(track.4)では、ベートーヴェンのみならず、ハイドン、モーツァルト、シューベルトの交響曲の記憶も呼び覚まされるようで、ブラームスの時代のモード、ロマン主義が孕む陰影が取り払われ、古典主義の明朗さが音楽を彩る。それは、懐古主義ではあるのだけれど、かえって若々しい音楽を生み出すに至っていて、老成し切った1番からすると、何だかアベコベでおもしろい。いや、1番あっての2番なのだろう、1番ではあり得ない魅力に惹き込まれる。
で、そういう2番の魅力を引き立てる、パーヴォ+ドイツ・カンマーフィル!パーヴォならではの明晰かつ、より音楽をおもしろく息衝かせる魔法と、ドイツ・カンマーフィルの、カンマー=室内という規模が生み出す小回りの効いた躍動感!保守的でアカデミックなブラームスの交響曲は、やっぱり確かな規模の交響楽団で聴くのがベスト?なんていう安易なステレオタイプにしっかりと楔を打つような、絶妙な仕事ぶりが光る。いや、2番の性格にどんぴしゃではまるパーヴォ+ドイツ・カンマーフィルと言えるのかもしれない。一方で、このアルバムは、彼らのブラームス・ツィクルスの第1段... 軽やかな2番の後で、1番など、どんな風に響かせるのか、興味津々(という1番は、先月、リリースされたみたい... )。さて、2番の交響曲の後で、悲劇的序曲(track.5)と、大学祝典序曲(track.6)が取り上げられるのも興味深いところ。1879年に作曲された笑う序曲=大学祝典序曲と、1880年に作曲された泣く序曲=悲劇的序曲という、対を成す2つの序曲。その性格的なあたりを、客観的に捉えて、ちょっと戯画的に繰り出すようなところが絶妙。で、それもまた古典的に感じられるから興味深い。いや、ブラームスの古典主義にスポットを当てるツィクルスとなるのか?なかなか、刺激的。

The Deutsche Kammerphilharmonie Bremen paavo järvi brahms 2

ブラームス : 交響曲 第2番 ニ長調 Op.73
ブラームス : 悲劇的序曲 Op.81
ブラームス : 大学祝典序曲 Op.80

パーヴォ・ヤルヴィ/ドイツ・カンマーフィルハーモニー・ブレーメン

RCA RED SEAL/88985459462




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