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シューベルト、グレイト。 [2013]

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先日、本屋をふらぁ~っとしていたら、お清めになるという"音"を収録したCD付きの本を発見して、驚いた。いや、おもしろい!神社にお参りした時、パンっ、パンっと柏手を打つのは、その場の空気(前の人の願い事やら、何やら、いろいろ残っている思念?みたいなの... )をリセットする意味合いがある、というような話しを聞いたことがあるのだけれど、パンっという衝撃音が空気を震わせることで、場を浄めるというのは、結構、物理的に理に適っているような気がする。例えば、メガネ屋さんの店先で見掛ける、振動でメガネを洗浄する機械があるように、音=空気の振動で以って、空間を洗浄するというのは、アリなんじゃないかなと... とすると、音楽だったならば、よりそうした効果が見込めるんじゃないか?ということで、ニュースを見ていると、ゴミ溜めの中にいる気分にさせられる不浄極まる今日この頃を浄めるために、音楽を聴く。で、より高い浄化能力を持つ音楽は何だろう?と、いろいろ考えてみるのだけれど、やっぱり絶対音楽かなと... それも、パワフルな交響曲とか...
で、モーツァルトの「ジュピター」に続いて、シューベルトの「ザ・グレイト」で、浄化。デイヴィッド・ジンマンが率いたチューリヒ・トーンハレ管弦楽団の演奏による、シューベルトの8番の交響曲、「ザ・グレイト」(RCA RED SEAL/88697973982)を聴く。

クラシック切ってのヘタレ、シューベルト(1797-1828)。間違いなく才能があったのに、その才能を世に示し切れなかった優柔不断(お友達を集めた内輪の集い、シューベルティアーデから一歩を踏み出す勇気を、なかなか持てなかった... )。それは、本人の人生にとって大きな損失だったし、クラシックにとってもまた損失だったように思う(もしシューベルトが、他の作曲家たちのように、どこかの楽長を務めていたならば、率いる組織があったならば、どんな作品が生まれていただろう?)。一方で、シューベルトが生きた時代を振り返れば、その優柔不断も、致し方なかったのかもしれない。フランス革命に始まる社会の大変革、ナポレオン戦争による大混乱、ナポレオンが退場してからの保守反動が招く閉塞感... 18世紀末から19世紀前半に掛けて、ヨーロッパはそれまでに無く大きく揺れた。その揺れの中、不屈の人、ベートーヴェンですら、悪戦苦闘の日々を送っていたことを思い起こせば、シューベルトの優柔不断も、時代が違えば、また違ったかもしれない。一方で、作曲そのものに関しては、人一倍、頑張った!その当時は広く認められなくとも、後に認められるだけの作品をしっかりと残したことは、立派。そうして残された作品、委嘱されたわけでなく自らの意思で書いた作品の数々は、同時代の他の作曲家たち、ベートーヴェン(1770-1827)や、ウェーバー(1786-1826)、ロッシーニ(1792-1868)らの作品には無い、自由な感覚があって、おもしろい。で、その最たる作品が、ここで聴く、8番の交響曲、「グレイト」かなと...
7番、「未完成」の宿命的な暗さは、新時代、ロマン主義の到来を象徴する一方で、「グレイト」の明朗さは、旧時代、古典主義へと引き返している。けれど、それは、かつての古典主義とは違って、ウルトラ古典主義とでも言いたくなるような、進化した在り様を見せて、独特。で、改めてこの独特さに注目してみると、我が道をゆくシューベルトの興味深い姿が浮かび上がり、刺激的!細かいフレーズを延々と繰り返し、大きなうねりを創り出すあたりは、ミニマル・ミュージックを予感させ... 例えば、終楽章(track.4)、心地良い音のパルスが織り成すハイテンション、光に充ちたサウンドに包まれると、何だか1960年代のサイケデリックな時代にトリップしてしまったかのよう。ベートーヴェンではあり得ない、モーツァルトとも違う、浮世離れした多幸感が広がってしまって、不思議。いや、何だろう、このハッピー感... 極楽とんぼのようでいて、ままならない人生に、もどかしさも覚えていただろうシューベルトの、厳しい現実から逃避し切って生まれる、突き抜けたハッピー感?「未完成」の宿命的な暗さがリアルならば、「グレイト」のハッピー感は、そうしたリアルから解き放たれたファンタジーなのかも... そして、ハッピーであることは、パワフル!それは、シューベルトの優柔不断さを忘れさせるパワフルさで、シューベルトが至った境地に感慨を覚える。でもって、浮世の穢れを洗い流すようなパワフルさであって、得も言えず、爽快。
という「グレイト」を、ジンマンが率いたチューリヒ・トーンハレ管で聴くのだけれど、ジンマンらしい軽快さと、聴く者をグイっと引き込んで来る特有のニュアンスが効いていて、より躍動的な「グレイト」を織り成す。1825年、モーツァルトの足跡を辿ろうと、ザルツブルクへ旅したシューベルトは、オーストリア・アルプスに抱かれた温泉保養地、グムンデンとバート・ガスタインに滞在、そこで幻の交響曲、グムンデン・ガスタイン交響曲を作曲するのだけれど、今では、このグムンデン・ガスタイン交響曲が、「グレイト」だったと考えられており... ということを再認識させられるような、チューリヒ・トーンハレ管の演奏。グムンデン、ガスタインの、都会から離れた自然の瑞々しさ、旅の楽しさに充ち満ちていて、いつもの「グレイト」より、色彩に富んだ印象を受けるのか... いや、程好くワイルド!あくまでも丁寧に音楽を展開しながら、より多くの表情を拾い上げ、全ての瞬間を息衝かせるジンマン・マジック。そういう「グレイト」に包まれると、シューベルトの旅の楽しい気分を追体験させられるようで、ちょっとヴァーチャルな感じ... いや、何だかウキウキして来る「グレイト」。下世話なこと甚だしい今日この頃を忘れて、美しいグムンデン、ガスタインへと、トリップさせてくれる。

SCHUBERT: SYMPHONY NO. 8
TONHALLE ORCHESTRA ZURICH ・ ZINMAN

シューベルト : 交響曲 第8番 ハ長調 D.944 「グレイト」

デイヴィッド・ジンマン/チューリヒ・トーンハレ管弦楽団

RCA RED SEAL/88697973982




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