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ジェミニアーニ、コレッリのヴァイオリン・ソナタに基づく合奏協奏曲。 [before 2005]

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ルネサンス期、繁栄を極めたイギリスの音楽は、ピューリタン革命(1649)によって、失われる。ピューリタン=清教徒たちにとって、音楽は教会を汚すもの... それまでの音楽は徹底して弾圧され、教会のオルガンは破壊された。が、そんなピューリタンの潔癖に、みなが辟易し出すと、王政復古(1660)、王様が戻って来る!そして、音楽もまた戻って来る!大陸から吹いて来た新しいバロックの風と、パーセル(1659-95)という天才の誕生で、みるみる息を吹き返したイギリスの音楽... そこに、植民地の拡大による富の集積が、音楽バブルとも言える状況を創り出し、イタリアやドイツから一級の音楽家を引き寄せ、瞬く間にロンドンはヨーロッパ随一の音楽マーケットに急成長。その活況の一端を物語るのが、前回、聴いた、エイヴィソンによる、ドメニコ・スカルラッティの練習曲に基づく7声の協奏曲... 海賊版が出るほど人気を博したドメニコのソナタを、合奏協奏曲にアレンジして、なかなかいいビジネスを繰り広げたエイヴィソンなのだけれど、このビジネスにはモデルがあった!
ということで、エイヴィソンの師、ロンドンで活躍したイタリア人、ジェミニアーニによる、その師、コレッリのソナタ(イギリスに留まらず、当時のヨーロッパを席巻!かのクープランも虜でありました... )のアレンジ... キアラ・バンキーニ率いるアンサンブル415の、コレッリのソナタ、Op.5に基づく、ジェミニアーニの合奏協奏曲集(Zig-Zag Territoires/ZZT 040301)を聴く。

フランチェスコ・ジェミニアーニ(1687-1762)。
バッハ(1685-1750)、ヘンデル(1685-1759)が生まれた2年後、イタリア、中世期、商業で繁栄した街、ルッカで、ヴァイオリニストを父に生まれたジェミニアーニ。その父から音楽を学び始めた後、ミラノ出身のヴァイオリンのヴィルトゥオーゾ、ロナーティ(イタリア各地で活躍し、1686年から2年間、ロンドンにも滞在... )に師事したと言われているが、はっきりしたことはわかっていない。やがてローマへ修行に出て、当代切ってのヴァイオリニスト、コレッリの下で学び、多くの影響を受ける。1707年、故郷、ルッカへと帰り、大聖堂の音楽を担うラ・カペッラ・ムジカーレ・パラティーナ(後にボッケリーニを輩出し、18世紀末以降、プッチーニ家が楽長を担った聖歌隊とオーケストラ... )で、父の跡を継ぎヴァイオリン奏者となるものの、ヨーロッパ随一の音楽都市、ローマで学んだジェミニアーニにとって、ルッカでの仕事は刺激に欠けるものだったか... 1711年、ナポリへと向かい、オペラのオーケストラでコンサート・マスターを務め、1714年には、ロンドンへと渡る。ピューリタン革命により、完全に大陸から後れを取ってしまったイギリスの音楽。一方で、植民地経営で得た富を注ぎ込んでの音楽バブルが、最新の大陸の音楽を貪欲に輸入する状況を生み出し、他の国には無いインターナショナルな音楽シーンを出現させていたロンドン。ジェミニアーニは、そこで、ヴィルトゥオーゾとして、作曲家として、教師として活躍を始める。
そんなロンドンでの12年目、1726年、ジェミニアーニは、師、コレッリ(1653-1713)のヴァイオリン・ソナタ(1700年にローマで出版されたヴァイオリン・ソナタ、Op.5... )を合奏協奏曲にアレンジし、出版する。すでにコレッリは世を去っていたものの、コレッリが生み出した音楽は、ヨーロッパ全土に多大な影響(かの大クープランが、コレッリのトリオ・ソナタにただならず心酔していたり... )を与え、ロンドンでも熱狂的に支持されていた。そこに登場した、コレッリの新たな合奏協奏曲!ジェミニアーニは、12曲からなるヴァイオリン・ソナタの前半の6曲をまずアレンジし、出版。すぐさま後半の6曲もアレンジして出版しているところを見ると、反響は相当だったのだろう。コレッリの死後も、さらなる"コレッリ"を求めたロンドンの音楽シーン。それに応えたジェミニアーニ... で、見事に応えたジェミニアーニ!直弟子なればこその自負もあっただろう、ヴァイオリン・ソナタがナチュラルに合奏協奏曲に拡大され、新たな魅力が吹き込まれている。で、オリジナルと聴き比べると、なかなか興味深い。
コレッリのヴァイオリン・ソナタは、コレッリならではの洗練された対位法が機能して、明快な印象を受ける。それはまた、コレッリが長く活躍したローマのアカデミックな気分を反映して、ロジカルにも感じるのだけれど、そういうオリジナルを、合奏協奏曲に膨らませることで、より情緒的な感覚を生み出すジェミニアーニ... 始まり、1番、1楽章のアダージョ(disc.1, track.1)の、コンティヌオがオーケストラとなって広がる、美しい田園に朝が訪れるような表情... その瑞々しい表情には、イギリス風を見出せるようで、大陸とは一味違う麗しさに、のっけから惹き込まれる。もちろん、合奏協奏曲としても、そのスタイルを確立した師、コレッリと何ら遜色無く... というより、師の一歩先を行って、より聴き手を魅惑する花々しさが感じられ、それを明確に感じるのが、最後の「ラ・フォリア」(disc.2, track.23)。スペイン発の陰を帯びた舞曲が、そこはかとなしに芳しい!
で、そうしたロンドンのジェミニアーニの魅力を引き立てるバンキーニ+アンサンブル415の演奏がすばらしい!バンキーニならではの飾らない表現、飾らないからこそより強く引き出される楽器の音色の瑞々しさ、音楽の新鮮さ... まるで生まれたてのようなピュアな有り様に息を呑む。なればこそ、引き立つコレッリのロジカルな対位法とジェミニアーニの瑞々しいハーモニー... バンキーニの演奏で聴くと、2つの感性がより美しく融け合い、さらに豊潤に響き出すかのよう。で、録音もすばらしい!ピリオド楽器が放つ真っ直ぐな音色を、余韻までしっかりと拾い上げて、清々しくもしっとりとしたサウンドがスピーカーから溢れ出す。何だろう、朝霧の中でコレッリを、ジェミニアーニを聴くような、そんな感覚... 美しい...

GEMINIANI ・ 12 CONCERTI GROSSI ・ Ensemble 415 | Chiara Banchini

ジェミニアーニ : 合奏協奏曲 第1番 ニ長調 〔コレッリのヴァイオリン・ソナタ Op.5 に基づく〕
ジェミニアーニ : 合奏協奏曲 第2番 変ロ長調 〔コレッリのヴァイオリン・ソナタ Op.5 に基づく〕
ジェミニアーニ : 合奏協奏曲 第3番 ハ長調 〔コレッリのヴァイオリン・ソナタ Op.5 に基づく〕
ジェミニアーニ : 合奏協奏曲 第4番 ヘ長調 〔コレッリのヴァイオリン・ソナタ Op.5 に基づく〕
ジェミニアーニ : 合奏協奏曲 第5番 ト短調 〔コレッリのヴァイオリン・ソナタ Op.5 に基づく〕
ジェミニアーニ : 合奏協奏曲 第6番 イ長調 〔コレッリのヴァイオリン・ソナタ Op.5 に基づく〕

ジェミニアーニ : 合奏協奏曲 第7番 ニ短調 〔コレッリのヴァイオリン・ソナタ Op.5 に基づく〕
ジェミニアーニ : 合奏協奏曲 第8番 ホ短調 〔コレッリのヴァイオリン・ソナタ Op.5 に基づく〕
ジェミニアーニ : 合奏協奏曲 第9番 イ長調 〔コレッリのヴァイオリン・ソナタ Op.5 に基づく〕
ジェミニアーニ : 合奏協奏曲 第10番 ヘ長調 〔コレッリのヴァイオリン・ソナタ Op.5 に基づく〕
ジェミニアーニ : 合奏協奏曲 第11番 ホ長調 〔コレッリのヴァイオリン・ソナタ Op.5 に基づく〕
ジェミニアーニ : 合奏協奏曲 第12番 ニ短調 「ラ・フォリア」 〔コレッリのヴァイオリン・ソナタ Op.5 に基づく〕

キアラ・バンキーニ/アンサンブル 415

Zig-Zag Territoires/ZZT 040301




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