SSブログ

エイヴィソン、ドメニコ・スカルラッティの練習曲に基づく7声の協奏曲。 [before 2005]

Alpha031.jpg
ポルトガル王女からスペイン王妃となったマリア・バルバラ(1711-58)の下、密やかに生み出されていた、マリア・バルバラの師、ドメニコ・スカルラッティ(1685-1757)の鍵盤楽器のためのソナタの数々は、スター・カストラート、ファリネッリ(ロンドンで活躍した後、マドリードの宮廷に招聘されていた... )が見出したことで、1738年、ヨーロッパ切っての音楽マーケット、ロンドンにて、出版される。すると、海賊版が出回るほどの評判を呼び、そこから新たな展開が生まれることに... 鍵盤楽器のためのソナタは、合奏協奏曲にアレンジされる!それは、評判の洋楽を、自国流にアレンジして、より楽しんじゃおう!みたいなノリだったろうか... ドメニコ・スカルラッティに限らず、様々なアレンジ(大人気だったコレッリの作品とか... )を生み出しているのが、18世紀、イギリスの音楽シーンのおもしろいところ。ヨーロッパ大陸を凌ぐロンドンの繁栄がありながらも、海を渡った対岸というローカル性も自覚していた、その頃のイギリス、日本における洋楽、邦楽に似た感覚が存在したのかも?そんな風に捉えると、当時のイギリスの音楽ファンに親近感を覚え、遠い時代がより近くに感じられる気がして来る。
ということで、合奏協奏曲にアレンジされたドメニコ・スカルラッティの鍵盤楽器のためのソナタ... カフェ・ツィンマーマンの演奏で、ヘンデルの時代からヨハン・クリスティアン・バッハがロンドンにやって来た頃まで、作曲家として、著述家として、イギリスで活躍した、エイヴィソン(1709-70)による、ドメニコ・スカルラッティの練習曲に基づく7声の協奏曲(Alpha/Alpha 031)を聴く。

17世紀、ピューリタン革命(1641-49)に始まるイギリスの共和政時代(1649-60)、キリスト教原理主義に基づく政教一致の政治が、それまで豊かな伝統を育んで来たイギリスの音楽を徹底して攻撃し、破壊し、イギリス音楽史に厳寒の冬をもたらす。が、すでにバロックが花開いていたヨーロッパ大陸各地をで亡命生活を送っていた王家が帰国すると、遅まきながらイギリスにもバロックの風が吹き始め、さらに、イギリス音楽を代表する天才、パーセル(1659-95)の誕生もあって、イギリスの音楽は、また新たに芽吹き始める。で、そこからが凄かった!18世紀、植民地の拡大が、イギリスに経済的な豊かさをもたらすと、ヨーロッパ中から音楽家たちが集まり、百花繚乱の春が訪れる。一大ブームを巻き起こすイタリア・オペラでは、ヘンデル(1685-1759)とナポリ楽派の熾烈な競争が繰り広げられ、コンチェルトやソナタでは、コレッリ(1653-1713)が人気を集め、鍵盤楽器のための作品では、前述の通りドメニコ・スカルラッティが評判に... という、ヨーロッパ大陸からの最新モードに一喜一憂しながらも、イギリスの音楽家たちも引けを取らずに活躍。そんなひとりが、エイヴィソン(1709-70)。で、エイヴィソンのおもしろいところは、生まれ育ったイングランド北部、ニューカッスルの街を拠点としながら、ロンドンばかりでなく、地方の各地で活躍したこと... 裏を返すと、地方でも十分な音楽が提供されていたことが窺えて、興味深く、ロンドンに留まらない、18世紀、イギリスの音楽シーンの活況ぶりが浮かび上がる。そういう中で、生み出された、ドメニコ・スカルラッティの練習曲に基づく7声の協奏曲。お馴染みの鍵盤楽器のためのソナタを4曲ずつ選び出し、4楽章構成の合奏協奏曲にアレンジ。オリジナルのソナタがロンドンで出版されて6年を経た1744年、12曲からなる合奏協奏曲集として出版される。そこから6曲を取り上げる、カフェ・ツィンマーマン...
まず、6番(track.1-4)が演奏されるのだけれど、ん?どこかで聴いたぞ、この感じ、何だろう?と思いを巡らせれば、それは、ストラヴィンスキーの『プルチネッラ』(1920)。ペルゴレージなどの18世紀の音楽をベースに、バレエ用にストラヴィンスキーがアレンジを加えた擬古典主義の名作だけれど、思いの外、その雰囲気が似ていて、おもしろい。もちろん、ともにナポリ生まれのドメニコ・スカルラッティとペルゴレージ(1710-36)、オリジナルに籠められたナポリ気質もあるのだろうけれど、エイヴィソンのアレンジに、ストラヴィンスキーに通じる発色の良さがあって、不思議とモダン... 18世紀のアレンジでありながら、20世紀の擬古典主義を思わせるのかも... いや、これには、ドメニコ・スカルラッティのオリジナルが持つ、時代を超越するような音楽の在り様も効いているかもしれない。でもって、そういうドメニコ・スカルラッティの音楽の持つ希有な性格を、しっかりと引き立てるエイヴィソンのアレンジであって、アレンジにもまた希有な感性を見出す。そうして、鍵盤楽器のためのソナタが、合奏協奏曲に拡張されて生まれる、真新しさ!そこには、アレンジを越えた豊かなイメージが展開され、オリジナルとは違う魅力を放つ。それでいて、いろいろなイメージが浮かび上がり、飽きさせない。例えば、5番(track.5-8)の始まりは、カール・フィリップ・エマヌエル・バッハを思わせる多感主義的なエモーショナルさを見せ... かと思うと、その3楽章、モデラート(track.7)では、大バッハを思わせる渋い対位法が繰り出されたり... さらに、11番(track.9-12)の2楽章、アレグロ(track.10)や、3番(track.13-16)、2楽章、アレグロ・スピリトーゾ(track.14)では、ヴィヴァルディを思わせる鮮烈さに彩られ... いや、この多彩さにワクワクさせられる。
という、ドメニコ・スカルラッティ/エイヴィソンの音楽をナチュラルに響かせるカフェ・ツィンマーマン。コンサート・マスターを務めるヴァレッティ(ヴァイオリン)を筆頭に、ベイエ(ヴァイオリン)ら、ピリオド界の腕利きばかりが揃うアンサンブルだけに、一音一音が洗練されていて、美しく、そういう美しさを以ってまとめられるハーモニーは、ピリオドという枠組みを突き抜けてしまうようでもあって... 彼らの演奏には、ピリオドにして、モダンを思わせるスムーズさがあり、そこから紡ぎ出される流麗さは、ドメニコ・スカルラッティのニュートラルさ、そのニュートラルさを活かし切って、さらなる多彩さを生み出すエイヴィソンのアレンジに、より広がりを持たせ、良い意味で、何者でもない音楽を紡ぎ出すのか... 6つの合奏協奏曲を聴き終えてみれば、ドメニコ・スカルラッティや、エイヴィソンという存在を忘れて、音楽に没頭できていた気がする。いや、この感覚がおもしろい。カフェ・ツィンマーマンの洗練が、アレンジを加えられた音楽を裏漉しして、アレンジを忘れさせる揺ぎ無い美しさに仕上げるとでも言おうか... またそうすることで、ドメニコ・スカルラッティや、エイヴィソンが生きた時代のパノラマが、合奏協奏曲の中にふわっと浮かび上がり、何者でもないことが、より大きな風景を見せてしまうスケール感... そこに、18世紀、ヨーロッパにおける国境を越えた音楽の広がりを追体験できるよう。

AVISON Concertos in Seven Parts
Café Zimmermann


エイヴィソン : 合奏協奏曲 第6番 ニ長調 〔ドメニコ・スカルラッティの練習曲に基づく7声の協奏曲 から〕
エイヴィソン : 合奏協奏曲 第5番 ニ短調 〔ドメニコ・スカルラッティの練習曲に基づく7声の協奏曲 から〕
エイヴィソン : 合奏協奏曲 第11番 ト長調 〔ドメニコ・スカルラッティの練習曲に基づく7声の協奏曲 から〕
エイヴィソン : 合奏協奏曲 第3番 ニ短調 〔ドメニコ・スカルラッティの練習曲に基づく7声の協奏曲 から〕
エイヴィソン : 合奏協奏曲 第9番 ハ長調 〔ドメニコ・スカルラッティの練習曲に基づく7声の協奏曲 から〕
エイヴィソン : 合奏協奏曲 第12番 ニ長調 〔ドメニコ・スカルラッティの練習曲に基づく7声の協奏曲 から〕

カフェ・ツィンマーマン

harmonia mundi/HMU 807553




nice!(3)  コメント(0) 
共通テーマ:音楽

nice! 3

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。