SSブログ

クープラン家、最後の輝き、異才、アルマン・ルイ... [before 2005]

HMA1901051
フランスの宮廷における音楽家のポストは、基本、世襲。ということで、フランス音楽史を俯瞰すると、まるで貴族のように名家が存在していて... シャンブルの音楽監督を務めたボエセ家、シャンブル付きクラヴサン奏者を務めたシャンピオン(シャンボニエール)家、エキュリで活躍したオトテール家、フィリドール家、そして、フランス音楽史切ってのビッグ・ファミリー、クープラン家!しかし、よくよくクープラン家を見つめてみると、他の名家に比べ、宮廷でのポジションは、ちょっと心許無いところがある。そもそも、世襲で継承できるポストを完全には獲得できておらず... 裏を返すと、クープラン家の面々は、実力で宮廷に食い込んで行ったことになる。いや、単なる七光でなかったのが、クープラン家をビッグ・ネームたらしめている大きな要因のように感じる。そして、フランス音楽の中心は、宮廷からパリへと移り... ヨーロッパ中から音楽家が集まったパリの音楽シーンでは、生き馬の目を抜く競争が繰り広げられ、クープラン家はよりタフな環境に置かれることになる。が、独特なスタンスでその競争を掻い潜った猛者が誕生する。それが、フランソワ、大クープランの従甥、アルマン・ルイ!
まだ太陽王(在位 : 1643-1715)が若かりし頃、宮廷に仕えたルイに続いて、その3世代後、フランス革命(1789)の年に世を去るアルマン・ルイに注目... ウィリアム・クリスティ、デイヴィッド・フラーのクラヴサンで、アルマン・ルイ・クープランの2台のクラヴサンのためのサンフォニーとクワトゥール(harmonia mundi FRANCE/HMA 1901051)を聴く。

1661年、クープラン家の繁栄の扉を開いたルイ(ca.1626-61)が、35歳の若さでこの世を去ると、ルイの末の弟、シャルル(1638-79)は、兄が務めていた、パリ、サン・ジェルヴェ教会のオルガニストのポストを継ぐ。そのシャルルのひとり息子として生まれたのが、大クープラン、フランソワ(1668-1733)。このフランソワが、シャペルのオルガニストとなったことで、クープラン家は再び宮廷に復帰する。でもって、面倒臭いのが、大クープラン、フランソワのもうひとりの伯父もまたフランソワであること... ルイのすぐ下の弟、フランソワ(1631-1701)は、兄の仕事を継ぐほどの技量は無かったものの、音楽教師として活躍。その2人のこどもたち、姉、マルグリット・ルイーズ(1676-1728)は、シャンブルの歌手として活躍し、弟、ニコラ(1680-1748)は、従兄、大クープラン、フランソワの死後、サン・ジェルヴェ教会のオルガニストを継いでいる。そして、このニコラのひとり息子が、ここで聴く、アルマン・ルイ(1727-89)。父の死により、21歳でサン・ジェルヴェ教会のオルガニストとなると、瞬く間にオルガニストとしての名声を築き、ノートルダム大聖堂、サント・シャペル、シャペル・ロワイアルなど、パリ市内の名立たる教会のオルガニストに就任。で、おもしろいのは、これだけに留まらず、どう考えても務め切れないほどの教会のオルガニストのポストを獲得したこと。そして、そこに、妻や息子たち、さらには弟子たちを派遣。まるで、オルガニスト派遣会社のような組織を生み出したから、凄い。18世紀、オペラにコンサートと、百花繚乱のパリの音楽シーンに在って、そういう花やかさからは背を向け、旧来の教会での仕事にこだわり、独特なビジネスを構築したアルマン・ルイ。音楽家でありながら、経営者としての才覚も発揮。まったく以って異彩を放っている。
もちろん、作曲家としても確かな才能を持っていて... そんなアルマン・ルイの、1772年頃の作品、2台のクラヴサンのためのクワトゥール(track.5-7)と、1773年頃の作品、2台のクラヴサンのためのサンフォニー(track.1-3)を聴くのだけれど、1770年代となれば、時代はすでに古典主義。大伯父、ルイからすると隔世の感があり、何より、その音楽的な花やかさ、響きの広がり、表情の豊かさに、テンションも上がる!始まりのサンフォニーは、まさに古典派の交響曲のそれで、1楽章、アレグロ・モデラート・エ・マルケの花々しさは、モーツァルトのパリ交響曲へとつながるようゴージャスさがありながら、ベートーヴェンを予感させるインパクトも... オーケストラではなく、2台のクラヴサンによる交響曲ではあるけれど、クラヴサンが2台になって生まれる重厚感は、オーケストラとはまた違ったシンフォニックさを生み、魅了されずにいられない!で、2楽章、モデラート(track.2)では、伯従父、大クープラン、フランソワを思わせるナイーヴさも見せ、多感主義のメランコリーに染まり、グっと表情を変えて来る。そこからの、パワフルな終楽章、プレスト(track.3)の堂々たる様!嗚呼、オーケストラでも聴いてみたかった... という前半のサンフォニーに対して、後半のクワトゥール(track.5-7)が、実に不思議な雰囲気を醸し出す。サンフォニーのダイナミズムとは対照的に、クワトゥール=四重奏、4つの声部がフラットに展開され、古風な印象を受けるのだけれど、古風=フランスっぽい?フランスの明朗さ、メローさはナチュラルに引き立ち、色彩に対する鋭敏な感性はより際立って感じられ、古風であることが、かえって時代を超越する感覚を生み刺激的。
という、マルマン・ルイ・クープランの2台のクラヴサンのためのサンフォニーとクワトゥールを、クリスティとフラーの演奏で聴くのだけれど、手堅くも、思いの外、ジューシーな響きを繰り出して、聴き入るばかり... クラヴサンが2台も鳴り響くとなると、騒々しくなりそうなのだけれど、2人、見事に息を合わせ、一音一音、焦点の合ったサウンドが生まれ、より華麗に、よりパワフルに音楽を織り成し、見事!で、サンフォニーとクワトゥールの他に、クリスティ単独で、クラヴサン曲集、『4つの諸国の人々』(1751)から、フランス人(track.4)と、イタリア人(track.8)が取り上げられるのだけれど、伯従父、大クープラン、フランソワの『諸国の人々』(1726)にインスパイアされたか?クラヴサンの家、クープラン家の伝統を感じさせる優雅な音楽が紡ぎ出され... それをまた表情豊かに弾くクリスティ... 麗しいフランス人に、快活なイタリア人、2台のクラヴサンの豪快さとは違う、クラヴサンそのものの繊細さもしっかりと味あわせてくれて、何だか贅沢...

A.-L. COUPERIN / W.CHRISTIE / D.FULLER

アルマン・ルイ・クープラン : 2台のクラヴサンのためのサンフォニー
アルマン・ルイ・クープラン : フランス人 〔『4つの諸国の人々』 から〕
アルマン・ルイ・クープラン : 2台のクラヴサンのためのクワトゥール
アルマン・ルイ・クープラン : イタリア人 〔『4つの諸国の人々』 から〕

ウィリアム・クリスティ(クラヴサン)
デイヴィッド・フラー(クラヴサン)

harmonia mundi FRANCE/HMA 1901051




nice!(0)  コメント(0) 
共通テーマ:音楽

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。