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クープランが見つめる、諸国の人々... [before 2005]

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エキゾティック大好き大国、フランス。『カルメン』(1875)、『サムソンとデリラ』(1877)、『ラクメ』(1883)に、ボレロ(1928)、トゥランガリーラ交響曲(1949)... フランス音楽にエキゾティックは欠かせない。で、おもしろいのは、それらがフランス音楽の看板に成り得ていること!どこか違う国を舞台にしたり、違う国を素材にしながら、フランスを代表する作品を生み出したフランスの作曲家たちの度量の大きさというのか、国の外に向けられた旺盛な好奇心には、ちょっと驚かされるものがある。で、そうした傾向は、植民地が拡大した19世紀、エキゾティシズムを掻き立てる万博の開催(第1回、パリ万博が1855年... 日本が初めて万博に参加し、ジャポニスムに火を付けた、第2回、パリ万博が1867年... )よりも前に遡って、すでにバロック期には、様々な形でエキゾティックな音楽が登場していた。例えば、18世紀、パリっ子たちを魅了した、ラモーのオペラ・バレ『優雅なインドの国々』(1735)とか、前回、聴いた、マレの『異国趣味の組曲』(1717)も、そうした性格を含む作品... いつの時代も自国らしさにこだわりを見せる一方で、他国にも常に興味津々なフランス。この二重性が、おもしろいなと...
ということで、マレに続いて、クープランの異国趣味の組曲。いや、異国趣味というほど、風変わりな音楽ではないのだけれど、フランスと、その周辺の国々をつぶさに見つめる、なかなか興味深い組曲。ジョルディ・サヴァール率いるエスペリオンXX(今からすると、恐ろしく豪華な構成メンバー!)の演奏で、クープランの『諸国の人々』(ASTRÉE/ES 9956)を聴く。

クープランが第一線を退く4年前、1726年に出版された、4つのオルドル=組曲から成る、『諸国の人々』。第1組曲にフランス人、第2組曲にスペイン人、第3組曲に神聖ローマ帝国(現在のドイツ、オーストリアを軸に、ベルギー、ルクセンブルク、チェコ、スロヴェニア、ポーランド西部をも含む... )人、第4組曲にピエモンテ(現在のイタリア北西部... )人という、当時のヨーロッパを捉える興味深い構成。なのだけれど、フランス人は、「少女」のタイトルで、1692年頃に、スペイン人とピエモンテ人は、「幻影」、「アストレ」のタイトルで、1693年頃に作曲されたトリオ・ソナタで、"○○人"というのが後付けだったことを知ると、ちょっとガッカリさせられる。しかし、「少女」がフランス人となり、「幻影」がスペイン人になり、「アストレ(ギリシア神話の星の女神)」がピエモンテ人に当てられるというのは、ちょっとおもしろい。てか、クープランは、『ヘタリア』(国を擬人化したマンガ、アニメ... )を3世紀も先気取って譜面上に実現していたか?!という風に考えると、『諸国の人々』の聴き方は、俄然、刺激的なものになるのかも... そうか、フランス人は少女だったんだ... 若々しく可憐なイメージ!さすが、フランス人、一番、美味しいところを持って行く。で、スペイン人が、元々、幻影だったというあたりには、ドン・キホーテを思い起こさせられる?それから、イタリアではあっても、アルプスに抱かれ、ちょっと趣を異にしたピエモンテ人には、夜空に瞬く星々のようなささやかさがあって... で、それぞれの性格を確かに感じられる音楽が響き出す!
まずは、第1組曲、「フランス人」(disc.1, track.1-9)。フランスの少女は、瑞々しくも何とも物憂げで... 1曲目、ソナードの序奏から、ちょっとゾクっとさせられる。そうそう、フランス映画に出て来る少女って、こんな感じかも... まだ何物にも染まっていない透明感の中に、時折、生々しさのようなものを垣間見せるリアルな佇まい。そもそも、ロココの音楽自体が、思春期を迎えた少女の雰囲気があるのかもしれない。こうしたあたりは、クープランの得意とするところだろう。バッハには、ちょっと真似できないテイスト。一方で、元々、トリオ・ソナタ(イタリアのヴィルトゥオーゾ、コレッリが切り拓いた... )として作曲されているだけに、より構築的な音楽が響き出すのも印象的。それでいて、まだ太陽王の時代だった頃に作曲された作品だけに、荘重さも端々から感じられ... 様々な性格が繊細に編まれて、一筋縄には行かない音楽を響かせる。そこにフランス流の「少女」の姿を見出し、何よりクープランらしい洗練に貫かれて、ただならず麗しい... けど、これがフランス人?ちょっと、手前味噌が過ぎるんじゃ... と、ツッコミを入れたくなる。いや、それくらいに素敵な音楽で、魅了されずにいられない。
そんな「フランス人」に続いての、第2組曲、「スペイン人」(disc.1, track.10-19)は、幾分、重々しくなり、そこはかとなしにエモーショナル。それでいて、良い意味で翳を帯びるのか... うん、スペインな感じ... で、スペインな感じ、というのが、古風にも感じられ、フランス人との違いがはっきりと示され、興味深い。特に、最後のパッサカーユ(disc.1, track.19)、スペイン由来の舞曲には、よりスペイン的な表情が浮かび、力強くリズムが刻まれるところもあり、惹き込まれる。そして、第3組曲、「神聖ローマ帝国人」が続くのだけれど、あえて飛ばしまして、第4組曲、「ピエモンテ人」(disc.2, track.11-17)を先に聴いてみる。で、イタリアを捉えるだけに、より明確にイタリア的な音楽が展開され、イタリア流に整理された響きが生む鮮やかさに驚かされる。しかし、イタリア人とはせず、あえてピエモンテ人としているあたり... イタリアでありながらも、フランスやドイツに近い、アルプスに抱かれたピエモンテの土地の性格を、クープランの瑞々しさが絶妙に引き出すのか?音楽としての明快さと、しっとりとした雰囲気の融合、クープランが目指した音楽の理想形が、ここにあるように感じる。
さて、最後に、第3組曲、「神聖ローマ帝国人」(disc.2, track.1-10)... ピエモンテ人とは真逆を行く、何とも大雑把な括りなのだけれど、ドイツ人ということでいいのかなと... いや、始まりのソナードの序奏が、バッハを思わせる仄暗さがあって、またロマンティックが滲むようで、まさにドイツ!序奏の後に繰り出される見事な対位法も、バッハっぽく、ドシっとした聴き応えがある。そんなドイツを味わってしまうと、フランス人がチャラく感じるほど... という「神聖ローマ帝国人」は、1726年に『諸国の人々』が編まれるに際して用意されただろう組曲。1690年代に作曲された3つの組曲から、30年あまりを経ての蓄積をしっかりと感じられる音楽。結果的に、最も立派なのが「神聖ローマ帝国人」(disc.2, track.1-10)。そのあたり、ちょっと皮肉にも思えるのだけれど、ある意味、その後の音楽史を予兆していると言えるのかもしれない。フランスの洗練と、イタリアの技法を、ニュートラルに見据えて、ひとつに織り成す。真摯に他国から学んで、やがて奔流を創り出したドイツ音楽の骨太さが、クープランの「神聖ローマ帝国人」には表れているのかもしれない。とすると、実に感慨深い。
そんな『諸国の人々』を、サヴァール+エスペリオンXXによる、1983年の録音で聴くのだけれど、いやー、かつてのエスペリオンXXのメンバーが恐ろしく豪華!まさに、諸国の一流が結集しての名演に、息を呑む。ヴィオールのサヴァールは当然のことながら、クラヴサンにコープマン、ヴァイオリンにバンキーニとハジェット... 今や巨匠たちが、ひとつアンサンブルとなって、奏でていたのだなと、今からすると、驚くやら、新鮮に感じるやら、もう贅沢!で、その演奏なのだけれど、サヴァールらしく、落ち着きを感じさせるも、良い意味でみんな若い!また良い意味でサヴァールの音楽性にばかり傾かない、ニュートラルな演奏が繰り出され、クリアで、フレッシュ!そんな演奏で聴く、『諸国の人々』は、現代的に感じられて、おもしろい。でもって、シンプルに音楽として魅力的。何より、様々な発見をもたらしてくれて、刺激的。

FRANÇOIS COUPERIN LES NATIONS HESPÈRION XX / JORDI SAVALL

クープラン : 3声のサンフォニーによるソナードと組曲 『諸国の人々』

ジョルディ・サヴァール/エスペリオンXX

ASTRÉE/ES 9956




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