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天使のようなマレの異国趣味は、バディナージュ。 [before 2005]

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バロック期、フランスの宮廷において、ヴィオールは、クラヴサンと並び、花形だった。が、ヴェルサイユの時代を象徴するように、豪奢にも優美にも響くクラヴサンに対して、とにかく渋いヴィオールの古風な様であって、宮廷の人々は、この楽器に、何を見ていたのだろう?前回、クープランとフォルクレのヴィオールのための組曲を聴いて、ふと思う。が、宮廷における2つの楽器の歩みを遡ってみると、ある楽器の存在が浮かび上がる。それが、リュート... 長く宮廷で愛されて来た楽器だったが、バロックが到来し、音楽はより劇的に、複雑となり、片手で爪弾くリュートに代わって、両手で弾くクラヴサンが活躍の場を広げ... ヴィオールは、弓を用いることで、より豊かな表情を生み、宮廷を魅了... リュートは、次第に忘れられて行くわけだけれど、撥弦楽器であるクラヴサンの響きには、リュートから受け継ぐものがあり、ヴィオールを花形へと押し上げた、17世紀後半のヴィオールの名手たちは、リュート奏者出身が多かったらしい(リュートとヴィオールの指使いが似ていたから... )。となると、当然、リュートからの影響を受けただろうヴィオールの演奏(弦の押さえ方を巡って、リュートの形を守る、守らないで、論争も起こったのだとか... )。となると、クラヴサンとヴィオールには、リュートの残り香が漂っていたのかもしれない。どんどん豪奢に、優美になって行く宮廷に響く、かつてを思い起こさせる響き... そんな風に考えると、イケイケだったはずのヴェルサイユのイメージは、また違ったものに見えて来る気がする。
ということで、前回に引き続き、ヴィオールであります。で、「悪魔のようなフォルクレ」からの「天使のようなマレ」!クリストフ・コワンのバス・ヴィオールと、クリストフ・ルセのクラヴサン、ヴィットリオ・ギエルミのバス・ヴィオール、パスカル・モンティエのテオルボ、バロック・ギターによる通奏低音で、マレの『異国趣味の組曲』(L'OISEAU-LYRE/458 144-2)を聴く。

マラン・マレ(1656-1728)。
パリの貧しい家に生まれながらも、音楽の才能を見せたマレは、サン・ジェルマン・ロクセロワ教会の聖歌隊で歌う機会を得て、そこで音楽を学び始め、やがて、伝説のヴィオール奏者、サント・コロンブに師事。瞬く間にヴィオールの才能を開花(何でも、サント・コロンブに付いて、半年で、もう教えることは何も無いと師に言わしめたのだとか... )させると、リュリ(1632-87)の下へと行き、作曲を学び、1676年、王立音楽アカデミー=パリのオペラ座で、ヴィオール奏者に... その3年後、1679年には、シャンブルのヴィオール奏者に就任、宮廷で活躍を始め。それから10年を経た1689年に、フォルクレ(1671-1745)がシャンブルに加わると、「天使のようなマレ」、「悪魔のようなフォルクレ」と呼ばれ、双璧を成し、フランス・バロックにおけるヴィオールの黄金期を創出した。そんなマレが、作曲家としても揺ぎ無い地位を築いた頃、厳格な太陽王(在位 : 1643-1715)が世を去って、軟派な摂政、オルレアン公による新しい時代を迎えて間もなく、1717年に出版されたのが、ヴィオール曲集、第4巻。そして、3つのパートからなる第4巻の、ひとつを成すのが、ここで聴く、『異国趣味の組曲』。
「異国趣味」というだけに、実に表情に富んだ作品が並び(コワンは、全33曲の中から、24曲を演奏する... )、興味を引かれるのだけれど、明確に異国のどこかを示す作品はほとんど無く、「旋風」(track.8)や、「軍服」(track.9)、さらには「媚態」(track.17)なんてのもあって、クープランの作品でも窺える、この時代のフランスならでのウィットを存分に感じさせ、おもしろい。そんな『異国趣味の組曲』は、ヴィオール曲集、第4巻において、『フランス風の組曲』と対になる形で収められており、洗練されたフランスに対する、風変わりさを表現する組曲とのこと... 納得。「奇妙」(track.16)、「奇抜」(track.18)なんて名付けられたアルマンドは象徴的で、だからだろうか、前回、聴いた、クープランの組曲に比べると、先が読めないような感覚があって、ワクワクさせられる。あるいは、ごった煮的なおもしろさとでも言おうか、整わないワイルドさに、思いの外、力強い印象も受ける。一方で、前回、聴いた、情動的なフォルクレの組曲に比べると、軽やかで、それぞれに明快なイメージもあり、そうしたあたりに、マレの演奏スタイルを見るようで、「天使のようなマレ」と「悪魔のようなフォルクレ」という当時の評価が腑に落ちた。そして、風変わりだろうが、何だろうが、どの曲も、不思議とクリアな感覚を保つマレの音楽に、天使的な無邪気さ、イノセンスも感じ、するとヴィオールの渋さに透明感が感じられ、思い掛けなく新鮮...
しかし、マレに限らず、バロックに限らず、異国趣味、風変わりが好きなフランスだなと、つくづく感じてしまう。一方で、『異国趣味の組曲』を丁寧に見つめると、ただ素直に好きなのではない、屈折した「好き」が窺えて、ちょっと面倒臭い。『フランス風の組曲』と対になる『異国趣味の組曲』であって、それは、フランスの洗練を引き立てる役割もありそう... そんな風に思ってしまうのが、組曲の最後、「ラ・バディナージュ」(track.24)。散々、異国趣味と風変わりを聴かせて来て、締めはフランスの優美なロンドーを持って来るという... でもって、それが水際立ってセンチメンタルで、美しく、組曲の個性的なあたりを洗い流すようにヴィオールが奏でられるのは、ずるい。おまけに、"badinage"の意味が、冗談って... ぶぶ漬けでもどないどす、と言われた気分。フランス人の品良く辛辣な個性に、面喰う。いや、天使に騙された!けど、これが、百戦錬磨の宮廷人たちが培って来た流儀なのだろうなァ。恐るべしヴェルサイユ... パンが無ければ、菓子でも食ってろ、ボケ!
って、深読みし過ぎ?いや、実におもしろい体験をもたらしてくれたコワンと豪華な面々... 訥々と音楽を捉えながらも、つい深読みしたくなるようなマレを聴かせてくれる。そんな雰囲気を紡ぎ出すコワンのバス・ヴィオールが何とも色彩に富むサウンドを響かせていて、ヴィオールの渋さは、またちょっと趣を変えるのか、チェロのような豊潤さが生まれるようで、印象的。で、その豊潤さを以ってして、実直に奏でて放たれる異国趣味、風変わりの、何か含みを持つような、おもしろさ。コワンのバス・ヴィオールは、けして多弁ではないのだけれど、そこはかとなしに雄弁で、何か聴き手の心をざわつかせるような、不思議な感覚がある。そんなコワンを盛り立てて、思いの外、縁の下の力持ちに徹する通奏低音の面々... コワンの音色に寄り添うギエルミのバス・ヴィオール、クリアなサウンドを楚々と奏でるルセのクラヴサン、陰ながらスパイスを効かせるようなモンティエのテオルボ、バロック・ギター、邪魔をせず、音楽を膨らませる手腕、見事。

MARIN MARAIS: SUITE D'UN GOUT ETRANGER
CHRISTOPHE COIN/CHRISTOPHE ROUSSET


マレ : タタール人の行進
マレ : アルマンド
マレ : サラバンド
マレ : タルタラン
マレ : 田園の宴
マレ : ジーグ 「フルゼル」
マレ : ロンドー 「宝石」
マレ : 旋風
マレ : 軍服
マレ : アルマンド
マレ : 上声部はアルマンド、低声部はジーグ
マレ : アルマンド 「アスマティク」
マレ : ミュゼット
マレ : カプリス もしくは ソナタ
マレ : 迷宮
マレ : アルマンド 「奇妙」
マレ : 媚態
マレ : アルマンド 「奇抜」
マレ : アラベスク
マレ : アルマンド 「尊大」
マレ : 夢想
マレ : 行進曲
マレ : ジーグ
マレ : ラ・バディナージュ

クリストフ・コワン(バス・ヴィオール)

クリストフ・ルセ(クラヴサン)
ヴィットリオ・ギエルミ(バス・ヴィオール)
パスカル・モンティエ(テオルボ/バロック・ギター)

L'OISEAU-LYRE/458 144-2




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