SSブログ

没後500年、イザークから見つめる、ルネサンスのパノラマ... [2017]

AVSA9922.jpg
2017年にメモリアルを迎えた作曲家たちを、ざっとおさらい。
まず、何と言ってもモンテヴェルディの生誕450年!音楽史上最大の大変革を、見事に乗り切った巨匠の柔軟さに、今、改めて驚かされる。一方で、時代そのもののダイナミズムさにも驚かされた。というより、慄いた... ポリフォニーからモノディへ、音楽の在り方が根底から覆される時代というのは、作曲家たちにとって、恐ろしく過酷だったはず... それから、テレマンの没後250年!テレマンを改めて見つめて驚かされるのは、そのご長寿っぷり!で、その長い人生を追えば、バロックから古典主義へのうつろいが浮かび上がり... いや、そのスピード感にも驚かされた。しかし、テレマンは、そのスピード感に嬉々として乗ってしまうから、タダモノではない!という2人を大フィーチャーした今年だったのだけれど、他にも、生誕200年を迎えた、北欧音楽の端緒とも言える存在、デンマークの作曲家、ゲーゼ、生誕150年を迎えた、アメリカ発の作曲家としてヨーロッパで最初に成功した女性、ビーチなど、メモリアルなればこそ注目してみて、とても新鮮だったなと... いや、メモリアルに限らず、注目されるべき逸材!普段、あまり注目されないのが、実に惜しいなと、つくづく感じる。
そして、もうひとり、そんな作曲家に注目... 今年、没後500年のメモリアルを迎えた、イザーク。ルネサンス・ポリフォニー全盛期に、一味違うテイストを聴かせる?からか、大家たち間で埋もれ気味?ということで、ジョルディ・サヴァール率いるエスペリオンXXIの演奏、ラ・カペラ・レイアル・デ・カタルーニャの歌で、イザークの作品集(ALIA VOX/AVSA 9922)を聴く。

ハインリヒ・イザーク(1450-1517)。
古い時代の作曲家の宿命というのか、よくわかっていないところも多い、イザークについて... 特に、その前半生は、フランドル楽派の本拠地、フランドルで生まれたのだろう、ということぐらいしかわかっていない。それも、イザークが生まれたという記録は、フランドルには何も残っていないのだとか... そんなイザークの足跡が、初めて記録に表れるのが、30代も半ばに入ろうという頃、1484年、インスブルックに宮廷を構えていた、ハプスブルク家のチロル伯、ジギスムント大公に仕えたというもの。ドイツ語の歌曲、「インスブルックよ、さらば」で知られる作曲家だけに、興味深い... が、イザークは、間もなく、ヨーロッパ随一の金融財閥、メディチ家が政権を握っていたフィレンツェ共和国へと移り、この街のシンボル、サンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂(1461年に完成した、ルネサンス建築を代表する建物... )で歌う、聖ジョヴァンニ洗礼堂聖歌隊の一員となる。時代は、メディチ家が最も輝かしかった時の当主、ロレンツォ・イル・マニフィコ(1449-92)が活躍した時代。まさにフィレンツェ・ルネサンスの絶頂期!そのロレンツォとも交流(イザークは、メディチ家の紹介でフィレンツェの女性と結婚... メディチ家のこどもたちの音楽教師も務めていた... )、支援も受け、充実した音楽家生活を送っていたのだったが、ロレンツォの死とともに、状況は暗転。1493年、聖ジョヴァンニ洗礼堂聖歌隊が解散。1494年には、メディチ家がフィレンツェから追い出され、原理主義の修道僧、サヴォナローラがフィレンツェの政治を乗っ取ると、フィレンツェ・ルネサンスは壊滅。イザークはフィレンツェを離れ、戴冠のためローマを目指し、北イタリアに滞在していた、神聖ローマ皇帝、マクシミリアン1世(在位 : 1493-1519)の下に行き、ポストを探す。そして、1496年、ハプスブルク家の皇帝の御膝元、ウィーンに移住。1497年には、晴れて宮廷作曲家のポストを得て、忙しく帝国を回る皇帝に付き従い、北イタリアからドイツまで、各地で活躍。やがて、メディチ家が復帰していたフィレンツェへと戻り、皇帝はもちろん、ローマ教皇(かつての教え子、ロレンツォの次男であるレオ10世!)の支援を受け、幸せな余生を送った。
そんなイザークのダイナミックな人生を、ロレンツォ・デ・メディチ、マクシミリアン1世の時代として俯瞰しながら、7つのパートに分け、丁寧に年代を追う、サヴァール。幕開けは、メディチ家の人々のためのファンファーレ。イザークがフィレンツェを訪れる前、ロレンツォ・イル・マニフィコの時代の到来を描くことから始める(とはいえ、最初のファンファーレからイザークの作品なのだけれど... )。それは、フィレンツェの花やかさと、ルネサンスの都としての格調の高さを響かせるパート(track.1-4)で、ルネサンス・ポリフォニーの壮麗さ、瑞々しさが印象的に響き出す。そうして歌い出される、「インスブルックよ、さらば」(track.5)... 何と甘やかな!ポリフォニーの後で、メロディーが浮かび上がる誘惑。ルネサンス期、様々に引用された人気のナンバーは、21世紀の今もなお美しく、ただならず惹き込まれる。そうして、フィレンツェにやって来たイザークの、フィレンツェでの充実を描き出す2つのパート(track.5-8)では、謝肉祭のシャンソン(track.6)など、街の賑わいを楽しげに繰り出すも、やがてロレンツォの若過ぎる死が訪れて... ポリツィアーノ(ロレンツォが主催したプラトン・アカデミーで活躍した人文主義者で、詩人... )の詩による哀歌(track.8)が、葬送の行進を思わせる印象的な太鼓のリズムに導かれ、ひとつの時代の終焉を、象徴的に、重々しく、彩る。フィレンツェの花々しい日々よ、さらば。そして、新たな旅が始まる。
続く、マクシミリアン1世に仕えてからのパート(track.9, 10)は、皇帝の格式を感じさせる、しっかりとしたポリフォニーが織り成されるようで、マクシミリアーン... と、皇帝の名を呼ぶ、冒頭のモテット(track.9)の、雅やかさたるや!フィレンツェの花々しさとはまた違う、落ち着きが感じられ、印象的。なのだけれど、その落ち着きって、ホモフォニーが生み出している?ルネサンス・ポリフォニー全盛の中に在って、イザークの他とは、ちょっと違う姿勢... ルネサンスの先にある音楽を予感するような感覚が、ふわっと漂うのがおもしろい。また、ポリフォニーからホモフォニーへとうつろい、メロディーが強調される、歌われる言葉(例えば、マクシミリアーン... みたいな... )が強調されて、より強いイメージを聴く者に与えるよう。それは、皇帝の作曲家として風格を思わせる。さて、イタリアへと帰って来てからを描く3つのパート(track.11-15)では、イザークの死のみならず、その2年後、マクシミリアン1世の死までを網羅し、イザークが世を去った1517年のルターの宗教改革をも取り上げる。「インスブルックよ、さらば」のメロディーを用いた、プロテスタントのコラール「おお、この世よさようなら」(track.14)が歌われるのだけれど、そのコラールの、声を揃えて歌うという在り様に、新しい時代の到来がしっかりと感じられ、感慨深く... ルネサンスは続くも、宗教改革が象徴するように、時代は新たな扉を開けつつあったわけだ。
しかし、まさにサヴァールな1枚!巧みに曲を織り成して、歴史絵巻のようにアルバムを展開する。聴き終えれば、何とも言えない思いがこみ上げ、深い感動に包まれる。いや、何だろう?サヴァールの音楽性というのは、時代のうつろいを、もの寂しく捉えて、かつて輝かしさが過去となることへの惜別を歌うようなところがあって、聴く者の心を掻き乱すようなところがある。このイザークの作品集も、ルネサンスの展開を追いながら、中世最後の騎士と謳われたマクシミリアン1世を主役のひとりとして扱い、最後、その死を以って、中世を終わらせるような、そういう壮大さが籠められるかのよう。というサヴァールに、見事に応えるラ・カペラ・レイアル・デ・カタルーニャの澄んだ歌声が、ただただ美しい!エスペリオンXXIの演奏も、声に寄り添い、美しい音色を奏で、全体を瑞々しく包むかのよう。そうして生まれる、まるで清流のようなイメージ... そういうイメージが時代のうつろいを丁寧に捉えれば、どこか日本の"もののあはれ"に通じるようなトーンが滲み、心に沁みる。フィレンツェの栄華、皇帝の栄光を歌いながらも、諸行無常、サヴァールの音楽は深い。

HENRICUS ISAAC
LA CAPELLA REIAL DE CATALUNYA ・ HESPÈRION XXI
JORDI SAVALL


イザーク : メディチ家のファンファーレ "Palle, palle"
イザーク : モテット/シャンソン" Parce, Domine"
イザーク : La morra
イザーク : モテット "Sustinuimus pacem"
イザーク : 歌曲 "Innsbruck, ich muss dich lassen"
イザーク : 祝いの歌 "Hora e di maggio"
イザーク : A la battaglia
イザーク : ラメント "Quis dabit capiti meo aquan"
イザーク : モテット "Sancti spiritus assit nobis gratia"
イザーク : モテット "Angeli, Archangeli"
イザーク : 器楽による歌 "La Mi La Sol"
イザーク : モテット "Optime Divino date munere pastor ovili"
イザーク : モテット "Circumdederunt me"
コラール "O Welt, ich muss dich lassen"
イザーク : モテット "Contrafactum de Virgo prudentissima"

サヴァール/ラ・カペラ・レイアル・デ・カタルーニャ
エスペリオンXXI

ALIA VOX/AVSA 9922




nice!(3)  コメント(0) 
共通テーマ:音楽

nice! 3

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。