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没後50年、コダーイから見つめる、20世紀ハンガリー史... [before 2005]

2017年が終わってしまう前に、2017年のメモリアルを駆け込みで取り上げる!ということで、今年、没後50年のメモリアルを迎えた、コダーイ(1882-1967)を聴いてみようかなと思うのだけれど... コダーイというと、ハンガリーの国民楽派を代表する存在で、ハンガリーの音楽の土台を作った人物というイメージが漠然とある。が、没後50年?意外と最近の人だったんだなと、今さらながらに、ちょっと驚いてしまう。もちろん、盟友、バルトーク(1881-1945)のひとつ年下となれば、そう古い人物でないことはわかるのだけれど、バルトークとは違って、国民楽派の内に踏み止まるような姿勢が、より古い人物に思わせるのか?ともに民俗音楽に没頭し、ハンガリーとしっかり向き合いながら作曲を行うも、違った方向性を示したコダーイとバルトーク。同じようで、けして同じではない。というより、ハンガリーの音楽自体が、一味違う。それは、他のヨーロッパの国々とは違う歩みを見せるようで、その歩調の違いから、捉え難いようなところすらあって... いや、改めて音楽史からハンガリーという国を見つめれば、独特。そして、その独特さこそが、20世紀、ハンガリーの音楽を、希有なものとしているように感じる。そこで、コダーイの代表作を聴きながら、独特なハンガリーの音楽を巡ってみようかなと...
20世紀を代表するマエストロのひとり、ハンガリー出身のゲオルグ・ショルティの指揮による2タイトル、ブダペスト祝祭管弦楽団の演奏、ハンガリー放送合唱団らの歌で、バルトークのカンタータ・プロファーナとコダーイのハンガリー詩篇を取り上げる"SOLTI ― The Last Recording"(DECCA/458 929-2)と、シカゴ交響楽団の演奏で、コダーイの代表作、組曲『ハーリ・ヤーノシュ』など、多彩な作品を取り上げる"hungarian connections"(DECCA/443 444-2)を聴く。


ハンガリーの"独特"を歌う!カンタータ・プロファーナ、ハンガリー詩篇...

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まずは、コダーイのハンガリー詩篇(track.8-10)... 1923年、ブダとペストの合併50周年のために委嘱された作品で、16世紀、ハンガリーが、ハプスブルク家とオスマン・トルコ、ハンガリーの有力貴族たちによって三分割されてしまった分断の時代の詩人、ヴェーグによる詩篇のハンガリー語訳を用いているのだけれど、そこには、ヴェーグが生きた時代、オスマン・トルコの支配下におけるキリスト教徒たちの苦悩が重ねられていて... で、それがまた、第1次大戦後のハンガリー(中世以来、ハンガリー王国だった地域が周辺各国により切り取られ、残されたハンガリーも、ホルティによる独裁に苦しむ... )にも重なり、国を愛し、国を憂い、熱く歌い上げる!まさに、コダーイの思いの丈が詰まった音楽と言えるのかもしれない... オペラティックに歌うテノールのソロに、コダーイの民謡採集の成果を活かし、民衆的な聖歌を思わせるキャッチーさも聴かせるコーラス、少年合唱も加わって、ダイナミックに展開され、オーケストラはうねり、シマノフスキを思わせるような東方性を伴う濃密な音楽を響かせる。このハンガリー詩篇は、ブダペストでの初演の後、ヨーロッパ各地でも演奏され、コダーイの国際的な名声を確立することになるのだけれど、納得。愛国的でメッセージ性の強い作品でありながら、ハンガリーの独特が、印象主義や象徴主義に結び付いて、スケールの大きな音楽を繰り広げる!それは、実に魅力的で、聴き応え十分。
そして、ハンガリー詩篇の7年後、1930年に作曲された、バルトークのカンタータ・プロファーナ(track.1-3)... こちらの作品は、ルーマニアのクリスマス・キャロル、コリンダをベースに、猟師の9人の息子たちが、牡鹿を追って森に入り、自らが牡鹿になってしまうというファンタジックな物語を、テノール(牡鹿)とバリトン(猟師)、コーラスで歌う。ミステリアスな序奏、コーラスが歌う、むかしむかしあるところに... の後で、やはり民謡採集の成果なのだろう、フォークロワな雰囲気を漂わせる、太鼓の軽快なリズムに乗って、ワクワクするようなコーラスが勇壮に繰り広げられる!そのあたり、何となく管弦楽のための協奏曲(1843)の終楽章を思わせるのかも... という、民俗音楽からモダニズムを抽出するようなバルトークならではの音楽は、やがて物語の神秘性を引き立てて、印象主義や象徴主義が漂い出し、輝かしい近代へのカウンターを思わせる、深く、謎めく音楽を展開して行く。人間界を離れ、牡鹿となって神秘の中を生きる。ある種の厭世感を、ポエティックに表現するバルトーク。それは、ヨーロッパがキナ臭くなり始める1930年代の入口に立った作曲家の心象だろうか... 一方で、バルトークは、かつての多民族国家、大ハンガリーを模索し、ルーマニア(の3分の1は、第1次大戦終結まで、ハンガリーだった... )の題材を用いて、融和のメッセージを籠めている。というあたり、ハンガリー詩篇にも通じるのかもしれない...
という2つの作品を歌う、ハンガリー放送合唱団が見事!壮麗かつパワフルで、自国、ハンガリーの作曲家の、ハンガリーへの思いが溢れる作品だけに、熱い!何より、普段、なかなか触れることのできないハンガリー語による作品を、鮮やかに歌い、その魅力を余すことなく伝えてくれている。そして、忘れてならないのが、ブダペスト祝祭管!ハンガリー性を前面に押し出すイヴァン・フィッシャーのオーケストラは、ショルティの指揮の下でも輝き、活き活きと音楽を紡ぎ出す。特に、バルトークとコダーイの間で、間奏曲のように楽しげな音楽を聴かせる、ヴェイネル(1885-1960)の小オーケストラのためのセレナード(track.4-7)での粋な演奏!バルトークとコダーイに対して、都会的な軽快さを思わせるその音楽は、ハンガリー的でありながら、絶妙にライト。そのライトさを際立てつつ、けしてチープになることなく、洗練した響きにまとめるショルティの指揮ぶりも、さすが... 明晰でありながら、躍動的で、グイグイ、惹き込まれてしまう。

SOLTI ― The Last Recording BARTÓK, KODÁLY, WEINER

バルトーク : カンタータ・プロファーナ Sz.94 ***
ヴェイネル : 小オーケストラのためのセレナード Op.3
コダーイ : ハンガリー詩篇 Op.13 ***

タマーシュ・ダローツィ(テノール) *
アレクサンドル・アガチェ(バリトン) *
ハンガリー放送合唱団 *
ハンガリー放送少年合唱団、ブダペスト・スコラ・カントールム *
ゲオルグ・シュルティ/ブダペスト祝祭管弦楽団

DECCA/458 929-2




ハンガリーの"独特"の流れと広がり... リストから、バルトーク、コダーイへ...

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中世のハンガリーは、東欧の雄として、クロアチアと同君主連合を結び、現在のスロバキア、ルーマニア北西部、セルビア北部をその領域とし、まさに大国だった。また、ある時は、フランス王家の分家、アンジュー朝の下、それを受け継いだ、リトアニア出身のヤギェウォ朝の下、アドリア海からバルト海、黒海にまで至る、東欧版EUとも言える巨大連邦国家を構成し、繁栄した。が、1526年、モハーチの戦いで、オスマン・トルコに完敗。国王、ラヨショ2世(在位 : 1516-26)は戦死し、首都、ブダは占領され、大国ハンガリーは、国王の姉の嫁ぎ先、オーストリア・ハプスブルク家と、占領軍、オスマン・トルコ、そして、ハンガリーの有力貴族の支持を集め、オスマン・トルコに下ったトランシルヴァニア公によって3分割されてしまう。この分断が、ハンガリーの音楽の進展を他の国より遅らせることになる。一方で、イスラム勢力の支配と、それによる西欧化の遅れが、他のヨーロッパにはない独特な感性を育むことになったか... また、大国であったハンガリーは、多くの民族を抱え、多文化的であり、ジプシーの文化や、ユダヤの文化にも彩られ、西欧とは異なる文化的幅を有していた。何より、ハンガリーの中心を成す民族であるマジャール人は、その昔、ユーラシア中央部でアジア人たちに接し、アジアナイズされた人々でもあり、ヨーロッパにしてヨーロッパとは一味違う人々... そのあたり、音楽にも反映されているように感じる。
というあたりを、見事に網羅した"hungarian connections"!始まりは、リストの1番のメフィスト・ワルツ... リストはドイツ系で、ハンガリー語を話すことも無かったものの、自らをハンガリー人だと強く自任しており、改めてその音楽を聴いてみると、ハンガリーの独特を見出せるような気がして来る。メフィスト・ワルツは、ハンガリーと直接関係は無いものの、悪魔的なものを表現する野卑さ、仄暗さが生む幻想性に、ハンガリーのセンスを感じ... 続く、2番のハンガリー狂詩曲(track.2)では、前半の仄暗さにフォークロワを、後半の軽快さにはジプシーの音楽が素直に表れて、ハンガリーの多文化を器用にまとめ上げる。またその器用さに、都会的なものも感じる。のは、次のバルトークの5つのハンガリーのスケッチ(track.3-7)の素朴さに触れて... バルトークの民謡収集がハンガリーのリアル=独特を炙り出し、さらに、ルーマニア民俗舞曲(track.9-15)では、ハンガリーとはまた違うルーマニアのカラーが感じられ、興味深い。そうして、最後はコダーイの代表作、組曲『ハーリ・ヤーノシュ』(track.16-21)... ナポレオン軍が進攻した19世紀初頭のハプスブルク帝国の各地を冒険したという、ほら吹き爺さんの与太話を描くオペラから編まれた組曲は、ウィーン(track.17)も含め、各地の音楽的素材、フォークロワを用い、活き活きとハンガリーを描き出す。となると、ハンガリー祭り!久々に聴くと、テンション上がる。
という、多彩なハンガリーを、巧みにひとつにまとめたショルティ。リストに始まって、ヴェイネル(track.8)も取り上げながら、バルトーク、コダーイと、ハンガリーの音楽の流れと広がりを聴かせるアルバムって、意外と無いのかも... 一見、総花的でありながら、改めて聴いてみると、ハンガリーをしっかりと意識させられて、新鮮!そして、何と言っても、ショルティが率いたシカゴ響の、輝きに充ちたオーケストラ・サウンド!明晰にして、一音一音がピカピカと磨かれていて、そこから捉える、ハンガリーの独特のおもしろさ!クリアな音なればこそ、リストにもハンガリーの独特が掘り起こされて、興味深い。一方で、ショルティは、かつての故郷を懐かしむように、味わい深くひとつひとつの作品と向き合うようで、印象的。リスト音楽院で学んだ師たち、ヴェイネル、バルトーク、コダーイの作品だけに、単に作品と向き合うだけでない、それぞれの作品の中にそれぞれの人間性をすくい上げるようで、単にハンガリーだけでなく、ハート・ウォーミング。

THE HUNGARIAN CONNECTIONS(Liszt・Weiner・Bartók・Kodály)
Solti/Chicago Symphony Orchestra

リスト : メフィスト・ワルツ 第1番 S.110-2
リスト : ハンガリー狂詩曲 第2番 S.359-4
バルトーク : 5つのハンガリーのスケッチ Sz.97
ヴェイネル : 序奏とスケルツォ 〔劇音楽 『チョンゴルと悪魔』 より〕
バルトーク : ルーマニア民俗舞曲 Sz.68
コダーイ : 組曲 『ハーリ・ヤーノシュ』 Op.35a *

ゲオルグ・シュルティ/シカゴ交響楽団
ローレンス・キャプテン(ツィンバロン) *

DECCA/443 444-2




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