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スペイン、ラヴェルのもうひとつのルーツを見つめる『スペインの時』。 [before 2005]

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フランスを代表する作曲家、ラヴェルは、スペインにつながるルーツを持つ... ラヴェルの母、マリーは、バスクの旧家の生まれで、ラヴェル自身も、スペイン国境の町、フランス領バスクのシブールで生まれている(ちなみに、ラヴェルの父、ジョゼフは、スイスのフランス語圏出身... )。そして、ラヴェルは、母越しに、バスク、さらに広くスペインの文化に接し、やがてそれは、自身の音楽に反映され、代表作のボレロを生み、その人生の最後に、連作歌曲『ドゥルシネア姫に心を寄せるドン・キホーテ』を遺した。改めて、ラヴェルの音楽を振り返ると、ところどころ、鮮烈に、スペインが射し込んで来る。ドビュッシーに憧れ、その印象主義の背中を追ったラヴェルだけれど、スペインという要素が、ドビュッシーには無い、フランスとは一味違うインパクトを響かせるのか... スペインからラヴェルの音楽を見つめると、また違った作曲家のイメージが浮かび上がるようで、興味深い。
ということで、ラヴェルの"スペイン"に注目するアルバム... アンドレ・プレヴィンの指揮、ロンドン交響楽団の演奏で、オペラ『スペインの時』と、スペイン狂詩曲(Deutsche Grammophon/457 590-2)を聴く。でもって、前回、聴いた、グラナドスのオペラ『ゴイェスカス』に続いて、ラヴェルの『スペインの時』に向き合ってみると、また興味深い風景が拓けて、刺激的!

1916年、ニューヨーク、メトロポリタン・オペラでの『ゴイェスカス』の初演から5年を遡った1911年、パリ、オペラ・コミック座で初演された『スペインの時』(track.1-24)。ともにスペインを舞台とし、1幕モノで、こうして並べてみると、とても近く感じられる2作品。グラナドスは、『スペインの時』が初演された年に、オペラ『ゴイェスカス』の元になった作品、ピアノ組曲『ゴイェスカス』を発表しており、間もなくパリでも披露し、反響を呼ぶのだけれど、そこには、ピアノ組曲をオペラにしたらどうかという声もあり... 振り返ってみると、その声には、『スペインの時』の記憶があったかなと... そうしてオペラ化された『ゴイェスカス』を、グラナドスは、パリでの初演を目指していたことを考えると、『スペインの時』の延長線上に『ゴイェスカス』を置いてみたかった?なんて、いろいろ妄想してしまう。サルスエラ風でありながら、印象主義など、当時の最新の音楽にも敏感に反応した『ゴイェスカス』の音楽に触れると、ラヴェルに挑戦するような姿勢も見出せる気がする。結果、音楽的には、サルスエラから随分と離れてしまうのだが... そんな『ゴイェスカス』から『スペインの時』へと遡ると、また違った印象を受けるから、おもしろい!『スペインの時』には、『ゴイェスカス』以上に、サルスエラの感覚が息衝いているように感じる。
1907年、フラン・ノアン(オペラ・ブッフの台本作家として活躍... )による笑劇『スペインの時』(1904)を見たラヴェルは、オペラ化を思い立ち、早速、作曲を試みる。そうして完成したオペラは、どこかヘネロ・チコ(規模の小さい、1幕モノのサルスエラ... )のよう。まず、フラン・ノアンによるスペインを舞台とした、浮気な時計屋の妻を巡る他愛の無いストーリーがサルスエラっぽい(フラン・ノアン自身が、ヘネロ・チコを意識していた?)。で、その台詞を、そのまま音楽としたラヴェル。役者たちの軽妙な掛け合いを活かし、徹底して朗唱でドラマを展開する。そうした中で際立つ、時計屋の妻の愛人、ゴンサルヴが歌う「さらば独房よ、さらば城楼よ」(track.21)は、ふわっと朗唱を離れて、何とも魅惑的なメロディーを歌い上げ、歌芝居であるサルスエラの、歌の部分を思わせるのか... そして、フィナーレ「銀行家も、詩人も... 」(track.24)では、みんなでキャッチーなメロディーを歌いつないでの大団円!オーケストラがスペインらしい音楽を盛大に奏でて幕となるあたりも、サルスエラちっくかなと... もちろん、全体のほとんどを占める、緻密で巧みな朗唱には、ラヴェルが最も影響を受けただろう、ドビュッシーの『ペレアスとメリザンド』(1902)を意識させられ、またトラジェディ・リリクの昔から続く、フランス・オペラの伝統をも感じる。が、朗唱と歌という対比に、芝居と歌のサルスエラの構造を当てはめると、フランスとスペインは二重写しになって『スペインの時』を形作り、そうしたあたりに、ラヴェルという作曲家の本質を見出せるのかも...
という、『スペインの時』を、雰囲気たっぷりに、カラフルに響かせる、プレヴィン!このマエストロならではの解り易さというのか、クラシックの外でも活躍したセンスが、ラヴェルの繊細な表現をポップに仕上げ、淀み無く、明快なドラマを紡ぎ出す手腕は、さすが!そうしたプレヴィンのセンスがあって、このオペラのサルスエラっぽさは、より強調されるのかもしれない。それから、粒ぞろいの歌手たち!浮気な時計屋の妻、コンセプシオンを歌うバーバー(メッゾ・ソプラノ)のマダム感、時計屋、トルケマダを歌うゴーティエ(テノール)の妙に際立つ如才の無さ、驢馬引き、ラミーロを歌うオールマン(バリトン)のセクシーさ、銀行家、ゴメスを歌うウィルソン・ジョンソン(バス)の下心を隠しつつの胡散臭い紳士っぷり、そして、コンセプシオンの愛人、ゴンサルヴを歌うエインズリー(テノール)のロマンティックかつ能天気な明朗さ... 見事にキャラの立った歌手たちの歌いっぷりは、朗唱が続くこのオペラを、活き活きと動かし、表情豊かなドラマを紡ぎ出す。そして、ロンドン響の明快で色鮮やかな演奏が、本当にすばらしい!このオーケストラならではのハイ・クウォリティにして、ニュートラルなサウンドが、サルスエラ風のドラマに、魅惑的なスペイン調の背景画を描いて、絶妙... 作品の魅力をさらにさらに引き出す。
そんなロンドン響が主役となる、スペイン狂詩曲(track.25-28)。『スペインの時』が完成して間もない頃にまとめられたこの作品は、夜への前奏曲(track.25)、マラゲーニャ(track.26)、ハバネラ(track.27)、祭り(track.28)の4曲からなるオーケストラ作品。で、次第にスペインらしさが煮詰まって行くような展開がおもしろく、1曲目の夜への前奏曲(track.25)は、ドビュッシーの影響を強く感じ、より印象主義的で、象徴主義的ですらあるのだけれど、そこから、マラゲーニャ(track.26)、ハバネラ(track.27)と、スペインのリズムを刻み、スペインの色彩を放って、じわりじわりと盛り上げながら、最後は祭り(track.28)で、スペインが炸裂!おぼろげなスペインのイメージが、次第にピントを合わせて、最後は鮮烈な情景を見せる凝った展開は、またラヴェルらしいもの... で、プレヴィンは、この情景を屈託無く響かせて、聴く者を、まるでテーマパークに誘うかのような、解り易い展開と情景を繰り出して、クラシックを越えた、ワクワクした心地を味合わせてくれる。こういう、プレヴィンのサービス精神は、とてもアメリカンに感じられ、また現代的でもある。

RAVEL: L'HEURE ESPAGNOL, RAPSODIE ESPAGNOLE
PREVIN/LONDON SYMPHONY ORCHESTRA


ラヴェル : オペラ 『スペインの時』 *****
ラヴェル : スペイン狂詩曲

コンセプシオン : キンバリー・バーバー(メッゾ・ソプラノ) *
トルケマダ : ジョルジュ・ゴーティエ(テノール) *
ラミーロ : カート・オールマン(バリトン) *
ドン・イニーゴ・ゴメス : デイヴィッド・ウィルソン・ジョンソン(バス) *
ゴンサルヴ : ジョン・マーク・エインズリー(テノール) *

アンドレ・プレヴィン/ロンドン交響楽団

harmonia mundi/HMU 807553




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