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サルスエラの18世紀、響き出すスペインの音楽の充実。 [before 2005]

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カタルーニャよ、立ち上がれ!独立は"ごっこ"遊びじゃない!今すぐ国境を封鎖せよ!スペインから移民して来た非カタルーニャ人を追放せよ!人口の半分を占める独立反対派を拘束せよ!そして、独立を守り切るために、スペイン軍の侵攻を許すな!その後ろにいるNATOに対抗するため、速やかにロシアと軍事同盟を締結せよ!西地中海の要衝、カタルーニャ語圏、バレアス諸島を、スペインの圧政から解放し、抑止力としてロシア海軍の基地を誘致せよ!EUからの離脱による経済危機に備えて、バルセロナ港を中国に租借せよ!もちろん99年間!一帯一路の西の終着点として、カタルーニャを北京に売り込め!って、ディストピア小説風に... いや、コンセンサスを得ない独立宣言を出すということは、これくらいの覚悟が無くてはならないと思う。が、見事に覚悟の無いカタルーニャ... 亡命したような感じで、亡命とは言わない前州首相の相変わらずの煮え切らなさには、ため息が出てしまう。で、スペインとカタルーニャの対立は先鋭化し、独立をめぐり州内は真っ二つ。結局、こじらせただけの独立宣言。それは、まるで、自傷行為のよう。しかし、自傷せずにはいられないのが、閉塞感に病んだ21世紀人のリアル。トランプ大統領を生み出したアメリカがその象徴。代替現実に逃避し、対立を煽り、傷つけ合うことでしか自らの存在を確認できないという悲劇。世界はどこでボタンを掛け違ってしまったのだろうか?
なんて考えていると、滅入ってしまうばかりなので、スペイン独自のオペラ、楽しい歌芝居、サルスエラで気分転換!クリストフ・ルセ率いるレ・タラン・リリクの演奏で、バスク地方出身のソプラノ、マリア・バーヨが歌う、18世紀のサルスエラのアリア集、"ARIAS DE ZARZUELA BARROCA"(ASTRÉE/E 8885)。いやー、18世紀のスペインの朗らかさに救われる!

16世紀末、イタリアで誕生したオペラは、ヨーロッパ各地で新たな音楽劇の誕生を促す。フランスにトラジェディ・リリク(抒情悲劇)、ドイツにジングシュピール(歌芝居)、イギリスにセミ・オペラ(現実を芝居で演じ、超現実を歌う... )が生まれ、そしてスペインではサルスエラが生まれた。が、サルスエラの始まりは、他の国よりも少し早く、また、オペラの系譜とは少し違うところから派生しているのが興味深いところ... 1634年、スペイン国王、フェリペ4世(在位 : 1621-40)が、マドリード郊外の離宮、エル・パルド宮の敷地内(とは言っても広大!)にある狩猟の館、ラ・サルスエラで、様々な見世物(当時、スペインの貴族の間で流行っていたのだとか... )を楽しめる劇場を作ったのが、サルスエラの始まりとされる。つまり、ギリシア悲劇の復刻であったイタリア・オペラとは一線を画し、スペインに古くからあった牧歌劇(エグロガ)や、笑劇(パソ)、幕間劇(エントレメス)を基に、より砕けたヴォードヴィルのようなものが、サルスエラの原点だったか... 後のサルスエラの、より民衆的な性格は、その原点にすでに表れていたように感じる。が、黎明期のサルスエラは、サルスエラ宮で上演されるものであって、宮廷を彩るに相応しい古典的な題材が好まれた。例えば、「サルスエラ」と銘打たれた最古の作品、『人魚たちの湾』(1657)では、オデュッセウスを主人公とし、何だかイタリア・オペラのよう... いや、バロック期、実際にイタリア・オペラの影響を強く受け、その音楽はより充実したものとなって行く。そして、スペインもまた、イタリア・オペラが席巻する事態となる。1700年、スペイン・ハプスブルク家の最後の国王、カルロス2世(在位 : 1665-1700)が世を去ると、その大甥で、太陽王の孫にあたる、フェリペ5世(在位 : 1700-24, 1724-46)が王位を継承。王妃がイタリア出身だったこともあって、宮廷はイタリア・オペラ贔屓(1737年、スター・カストラート、ファリネッリを招聘!)に... スペイン語によるサルスエラは疎まれ、脇へと追いやられてしまう。しかし、サルスエラは、しぶとかった!
ということで、バーヨが歌う18世紀のサルスエラ、1曲目は、1747年に初演された、ネブラ(1702-68)の『トラシアのイフィヘニア』からのアリア"Llegar ninguno intente"... それはもう胸の空くようなアリア!ナポリ楽派のオペラ・セリアを思わせる華麗さに貫かれて、のっけからすっかり魅了されてしまう。でもって、イタリア・オペラの影響は絶大だったなと... そうしたあたりに、多少、複雑な思いもするものの、ナポリ楽派にまったく引けを取らないネブラの音楽の充実っぷりには、感心させられるばかり。で、同じく『トラシアのイフィヘニア』からのレシタティーボ"Suspendete tirano"(track.2)には、見事なオーケストラ伴奏が付いて、改革オペラを先取りするようなドラマティシズムが漲り、驚かされもする。ネブラは、当時のマドリードの音楽シーンにおいて、イタリアからのお雇い作曲家を凌ぐ人気を誇ったとのこと、大いに納得!そして、そのネブラが活躍した次の時代に、サルスエラのオペラ・ブッファにあたるサルスエラ・アレグレ(楽しいサルスエラ)というジャンルを切り拓き、マドリードの音楽シーンで一世を風靡したイタ(1724-87)のアリアがまた魅力的!バーヨが歌うのは、1768年に初演された『ラ・ブリセイダ』からの2つのアリア(track.8, 11)で、そこにはモーツァルトを思わせるやわらかさがすでに表れ、スペインにも確かな古典主義の時代が到来していたことを教えてくれる。18世紀の音楽というと、どうしてもイタリアの各都市や、パリ、ロンドン、ウィーン、あるいはドイツ各地の宮廷に目が行きがちだけれど、マドリードもまた充実した音楽シーンが形成されていたのだなと... このアルバムは、新鮮な発見をもたらしてくれる。
そして、このアルバムを、さらに興味深いものとしているのが、モーツァルトのライヴァルとなるマルティン・イ・ソレール(1754-1806)の、国際的にブレイクする前、24歳、駆け出しの頃、マドリードで初演された『騙された先生』(1778)からの序曲とセギディーリャが聴けること... まず、その序曲(track.4)なのだけれど、それは、モーツァルトのライヴァルならではの才気溢れるもので、モーツァルトにまったく引けを取らず、眩しい!一方、セギディーリャ(track.5)では、さらりとスペイン情緒を取り込んで、愛らしくも魅惑的。サルスエラのスペインならでは、を、楽しませてくれる。それから、イタリアからのお雇い作曲家の代表格、ボッケリーニ(1743-1805)、唯一のサルスエラ、『クレメンティーナ』(1786)の序曲とカバティーナも興味を引く... チェリストのイメージの強いボッケリーニが、サルスエラ?いやいや、さすがはイタリア人!カバティーナ(track.10)のメローさは、ナポリ楽派のオペラ・ブッファを思わせて、素敵。そして、その序曲(track.9)は、スペイン風のリズムを刻みながら、ウィーン時代の同僚、サリエリ(1750-1825)を思わせるキャッチーさがあって、また素敵。しかし、18世紀におけるサルスエラは、宮廷の無関心に始まり、イタリア・オペラの席巻と、冬の時代を迎えるのだけれど、このアルバムが取り上げる多彩な作曲家たちの音楽に触れれば、その"冬"がどこかへ行ってしまったかのよう。
という、18世紀のサルスエラを存分に楽しませてくれるバーヨ!彼女ならではの、輝かしくもやわらかな歌声にまず魅了され、そこから繰り出される見事なコロラトゥーラに圧倒され、何より豊かな表情に惹き込まれる。なればこそ、イタリア・オペラの最新モードに対応できているサルスエラの魅力、スペインならではの情緒的な気分を器用に捉えて、物珍しさに留まらない、18世紀のサルスエラのおもしろさを軽やかに繰り出す。バーヨの個性と、その魅力あってこそのアルバムなのだけれど、バーヨ自身が強く主張することはなく、18世紀のマドリードにさり気なく誘う感じが、最高!そんなバーヨを見事にサポートするルセ+レ・タラン・リリクの活き活きとした演奏も最高!アリアばかりでなく、3曲も取り上げられる序曲(track.4, 9, 13)は、このアルバムのもうひとつの魅力。この序曲があって、18世紀のマドリードの音楽シーンの活気を追体験させてくれるよう。しかし、18世紀とは、なんて朗らかなのだろう。21世紀からすると、まるで楽園に思える。

ARIAS DE ZARZUELA BARROCA Maria Bayo Les Talens Lyriques Christophe Rousset

ネブラ : サルスエラ 『トラシアのイフィヘニア』 から
   アリア 'Llegar ninguno intente' *
   レシタティーボ 'Suspéndete tirano' ― アリア 'Piedad, Señor' *
マルティン・イ・ソレール : オペラ 『騙された先生』 から
   序曲
   セギディーリャ 'Inocentita y niña' *
ネブラ : 合作サルスエラ 『愛に増す勇気』 から
   レシタティーボ 'Triste cárcel oscura' ― アリア 'Ay! amor! Clelia mia' *
イタ : サルスエラ 『ラ・ブリセイダ』 から アリア 'Amor sólo tu encanto' *
ボッケリーニ : サルスエラ 『ラ・クレメンティーナ』 から
   序曲
   カバティーナ "Almas que amor sujetó" *
イタ : サルスエラ 『ラ・ブリセイダ』 から アリア 'Deydad que las venganzas' *
ネブラ : 合作サルスエラ 『愛に増す勇気』 から アリア 'Adiós, prenda de mi amor' *
ネブラ : サルスエラ 『トラシアのイフィヘニア』 から 序曲
ネブラ : 合作サルスエラ 『愛に増す勇気』 から アリア 'Más fácil será al viento' *

マリア・バーヨ(ソプラノ) *
クリストフ・ルセ/レ・タラン・リリク

ASTRÉE/E 8885




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