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カタルーニャからオクシタニアへ、古代を歌い継ぐ、シビラの歌。 [2011]

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中世ヨーロッパを文化から見つめると、巡礼路に沿って興味深い横の動きが浮かび上がる。一方で、政治から見つめれば、北の王権が南へと拡大されて行く縦の動きが目に付く。異なる文明を結ぶ豊かな横の動きと、権力が支配領域を刈り取って行く縦の動き。対極的な2つの動きは、当然、ぶつかるわけで、やがて、縦の力が横のつながりを断ち切って、現在のヨーロッパの形が作られて行く。つまり、国境で区切られたヨーロッパ... 国家と民族と文化がイコールで結ばれる解り易い形... のはずが、生まれる齟齬。そして、強調される違い。異質さの排除。しなやかさを失ったヨーロッパから発せられる軋みは、やがて戦争となり、20世紀の破滅的な2つの大戦へと至る。その反省から生まれたEU。それは、先進的な状況のように見えて、実は、中世へと還ることなのかもしれない。国境に区切られた民族性ではない、より多様な個性から織り成される、広がりのあるヨーロッパへの回帰。そういう、より大きな流れからヨーロッパを捉えれば、スペインとカタルーニャの先鋭化する対立に虚しさを覚えてしまう。なんて思ってしまったのは、アンサンブル・ユニコーンの"THE BLACK MADONNA"の躍動する音楽を聴いて... イスラムから最先端を吸収し、古代、地中海文明の英知が滲むカタルーニャ、南ヨーロッパの懐の深さ、大地に根差したパワフルさたるや!中世の音楽は、ただならぬスケールを持って、現代に迫って来る!
ということで、西からのスパイシーな巡礼の歌に続き、ミステリアスな東の古代を伝えるシビラの歌... ジョルディ・サヴァール率いるラ・カペッラ・レイアル・デ・カタルーニャの演奏、今は亡きモンセラート・フィゲーラス(ソプラノ)の歌で、最後の審判を予言したシビラの歌を取り上げる名盤、"EL CANT DE LA SIBIL・LA Catalunya"(Alia Vox/AVSA 9879)を聴く。

まずは、シビラの歌とは?これが、なかなか掴みづらいようなところがあって、ちょっともどかしいのだけれど、丁寧に紐解くと、実に、実に興味深く、ミステリアス... そもそも、シビラとは、古代ギリシアの神殿で、神からの託宣を受けた巫女のことで、ギリシア語で、"シビュラ"といい、その起源は、現在のトルコ西部、かつてのイオニアに遡るらしい。が、巫女の存在は、元来、各地に点在しており、やがてヘレニズムの広まりとともに、オリエントから地中海沿海に掛けて、託宣を受ける巫女が、"シビュラ"の名の下に統合され、そうした中から、伝説的な女預言者(ミケランジェロが、『天地創造』に旧約聖書の預言者とともに描いた巫女たち!)が出現。その預言は、様々な形でまとめられ、『シビュラの書』となる。で、この『シビュラの書』、全てを読み解く魔法の書のように扱われ、古代ローマの時代となると、元老院によって厳重に管理され、政策決定の鍵を握るような役割まで果たしたのだとか... しかし、古代末、キリスト教が公認されると、当然、それは異端の書となり、謎めく古からの英知は、失われる危機を迎える。が、『シビュラの書』の凄いところは、キリストの到来をも預言していたところ!こうしたあたりが、次第にキリスト教徒にも受け入れられ、中世になると、歌として歌われるようになり、礼拝や典礼劇でも用いられ、各地の教会に広まった。というのが、シビラの歌。その変遷を見つめると、ただならなさを感じてしまう。
さて、サヴァールが取り上げるのは、楽譜として残る、最も古い10世紀から11世紀に掛けて、ラテン語で書かれたバルセロナに伝わるヴァージョン(track.1)と、12世紀から13世紀に掛けて、プロヴァンス語で書かれた聖書日課としてのモンペリエに伝わるヴァージョン(track.2)、そして、15世紀、カタルーニャ語で書かれたラ・セウ・ドゥルジェイに伝わるヴァージョン(track.3)の3つ。つまり、古代が未だ息衝いていただろう、地中海文化圏の残照、中世のオック語文化圏(カタルーニャ語も、プロヴァンス語も、オック語の兄弟ということで... )におけるシビラの歌だけに、より古代が感じられる気がして... で、圧倒的なのが、最初のラテン語ヴァージョン(track.1)。ドローンが響くコーラスは、実に東方的で、シビュラの起源であるイオニアをイメージさせるよう。もちろん、シビュラが託宣を受けていた古代のイオニアがどんなだったかなんて、解りはしないのだけれど、その神秘的な気分に、古代を強く印象付けられる。中世の大聖堂を彩った清廉な教会音楽とは一線を画す、文明の重みをそのまま音にしたような、独特な重々しさ... そこにフワっと表れる浮世離れしたフィゲーラスの歌声は、シビュラそのものにも思えて、ゾクっとさせられる。またそれが、最後の審判を歌うというから、雰囲気は満点... 始まりの鐘の音の後で吹かれるショーム(オーボエの先祖... )が、まるで黙示録のラッパのように響き、迫って来る。
という、最も古いヴァージョンから時代を少し下ってのプロヴァンス語ヴァージョン(track.2)は、耳馴染みのあるイタリア語に近い言葉の響きもあって、よりメロディアスに感じられるのが興味深く、その分、古代ギリシアから、ヨーロッパへと近付いたようにも感じられ、ラテン語ヴァージョンと同じメロディーでありながら、また違った印象を生む(プロヴァンス語ヴァージョンを聴けば、ラテン語のマジカルさに慄きすら覚えてしまいそう... )。で、プロヴァンス語ヴァージョンを決定付けるのが、ウード(アラブ文化圏におけるリュート... )による伴奏!そのエキゾティックで雅やかな音色に、古代の角が取れるようで、サヴァールのそのチョイスに膝を打つ。このウードの存在によって、イスラム文化の影響を受けたトルバドゥールたちが活躍した時代のヴァージョンであることを意識付けるかのよう。そこから、スペインが成立しようとする頃、ルネサンス期に入ったカタルーニャ語ヴァージョン(track.3)を聴くのだけれど、そのより音楽的なやわらかさたるや!シビラの歌なればこそ、コーラスが織り成すポリフォニーの豊潤さ、明るさが、より引き立ち、また何とも言えない安心感が生まれ、聴き入ってしまう。
しかし、古代、中世、ルネサンスと、見事に時代を下ってみせたサヴァール+ラ・カペッラ・レイアル・デ・カタルーニャ。古代の謎めくミステリアスさから、エキゾティックでもある中世、そして、やわらかなルネサンスへと、音楽は次第に洗練され、そこにヨーロッパが確立されて行く様が映されるようで、感慨深い。反面、シビュラのマジカルさは少しずつ削がれ、託宣が発する緊張感は、単なる戒めへと変容し、古代の生々しさは、遺跡の壮麗さに置き換わってしまう切なさが感じられ、文明の諸行無常が雄弁に描き出される。時代ごとに、器用に演奏し歌うばかりでない、より大きなスケール感を響かせるラ・カペッラ・レイアル・デ・カタルーニャには、とにかく圧倒される。一方で、一貫してイノセンスな雰囲気を漂わせるフィゲーラスの存在感!その変わらないイノセンスが、3つのヴァージョンをひとつに貫き、シビュラのこの世ならざる力を今に蘇らせるかのよう。いや、シビラの歌は、この人でなくては... というより、まさに、音楽の巫女だ、フィゲーラス...

EL CANT DE LA SIBIL・LA Catalunya
Montserrat Figueras ・ La Capella Reial de Catalunya ・ Jordi Savall


ラテン語によるシビラの歌 〔10世紀から11世紀に掛けて、バルセロナ〕
プロヴァンス語によるシビラの歌 〔12世紀から13世紀に掛けて、聖書日課、モンペリエ〕
カタルーニャ語によるシビラの歌 〔15世紀、ラ・セウ・ドゥルジェイ〕

モンセラート・フィゲーラス(ソプラノ)
ジョルディ・サヴァール/ラ・カペッラ・レイアル・デ・カタルーニャ

Alia Vox/AVSA 9879




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