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カタルーニャ、息をひそめる音楽、モンポウのミクロコスモス... [before 2005]

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カタルーニャの始まりは、8世紀の終わり、フランク王国(少々乱暴な言い方をすると、フランスの前身... )がピレネー山脈の西麓に設置した、対イスラム防衛ライン、スペイン辺境領に遡る。で、この辺境領で頭角を現したバルセロナ伯が、現在のカタルーニャにあたる地域を統合。987年に独立を果たし、カタルーニャは、バルセロナ伯領として、初めて国家となる。さて、時は流れ、1112年、バルセロナ伯は、南仏、プロヴァンスのお姫様と結婚し、プロヴァンス伯領を獲得。1150年には、バルセロナ伯がアラゴン王国(カタルーニャの西隣りの王国... )に婿入りして、カタルーニャはアラゴン王国と統合。って、実は、カタルーニャ単独の国家としての歴史は、163年と短い... が、伯爵からアラゴン王にパワー・アップしたバルセロナ家は、国土回復運動、レコンキスタの波に乗り、南のイスラム勢力を征服。船で地中海に乗り出せば、バレアス諸島からイスラム勢力を追い出し、さらにはサルデーニャ島、シチリア島、南イタリアへと領土を拡大して、西地中海を支配する一大勢力に!バルセロナは、まさに西地中海の首都となる。しかし、1410年、バルセロナ家が断絶。1412年、カスティーリャ王国(アラゴン王国の西隣りの王国... )の王子を王に迎えた頃から、カタルーニャの雲行きは怪しくなったか?1479年、アラゴン王国はカスティーリャ王国と合併、スペインが成立すると、カタルーニャは一地方となり、現在に至る。
あれから538年... どれほど現実的であるかはさて置きまして、祝カタルーニャ独立!ということで、近現代音楽のスペシャリスト、ヘルベルト・ヘンクのピアノで、20世紀、カタルーニャをひっそりと生き、独特のミクロコスモスを展開した作曲家、モンポウの代表作、『ひそやかな音楽』(ECM NEW SERIES/445 699-2)を聴く。それにしても、やっちまったよ、カタルーニャ...

フェデリコ・モンポウ(1893-1987)。
カタルーニャ人の父と、フランス系の母の間にバルセロナで生まれたモンポウ。母方の祖父がバルセロナで鐘を作る工場を営んでおり、そこへよく遊びに行っていたというモンポウ少年、鐘の音が、その音楽の原点だったか... やがてピアノを習い始め、地元、リセウ音楽院に入学。15歳の時には、最初のコンサートを開いたというから、そのピアノの腕前は、早熟だったのだろう。18歳、1911年には、グラナドスの紹介状を携えて、パリへと向かう。が、内気な性格が災いして、コンセルヴァトワールの院長で、憧れのスター、フォーレとの面会に怖じ気づき、目前で逃げ出してしまったのだとか... それでも、新しい音楽に充ち溢れていたパリという場所で大いに刺激を受け、モンポウの音楽の素地が形作られて行く。しかし、1914年、第1次大戦が勃発、バルセロナに帰国... 戦争が終わり、1920年代に入ってから再びパリへ戻るも、ヨーロッパ中から才能が集まり、近代音楽でお祭り騒ぎのようになったパリの音楽シーンでは、内気なモンポウの音楽は、当然、目立つことは無く、不遇のパリ時代(ケーキ屋を始めるも潰れ、やがて神経衰弱となり、作曲もままならなくなる... )が続き、迎える、1939年、第2次大戦の開戦。パリがナチスに占領されると、1941年、バルセロナへと帰国。以後、フランコ独裁下、ひっそりと作曲を続け、サン・ジョルディ・カタルーニャ王立芸術アカデミーの会員に選ばれたりする栄誉もあったが、内気な性格は変わらず、戦後「前衛」の時代に在って、自らの世界に引き籠り、独特なミクロコスモスをピアノで奏でた。
そんなモンポウを象徴するかのような作品、『ひそやかな音楽』。1959年に出版された第1集(track.1-9)に始まり、1962年の第2集(track.10-16)、1965年の第3集(track.17-21)、1967年の第4集(track.22-28)からなる、全28曲のピアノのための小品集。時代的には、"ゲンダイオンガク"バリバリの頃の作品だけれど、そこに気難しさは一切無く、パリに出たてのモンポウ青年が影響を受けただろう、フランスの印象主義の詩的な気分と、サティのシンプルさが、おぼろげな記憶として綴られるようで、幻想的。それはまた、バルセロナに帰って来たモンポウの後半生に重く垂れこめていただろう、フランコ独裁が生む閉塞からの逃避のようでもあり、厭世的でもある。で、この曲集、「ひそやかな音楽」と和訳されるのが一般的だけれど、直訳すると「沈黙した音楽」となるらしい。フランコ体制下に沈黙する音楽というと、意味深に思えて、単なるひそやかな音楽とは違った表情が浮かぶのか、シンプルな音楽であるからこそ、行間が雄弁に語り掛けるようにも思え、興味深い。一方で、そのシンプルさには、現代に通じる瑞々しさが生まれていて、アンビエント。一見、第1次大戦前のプレ・モダンを懐古するようでありながら、実は、ポスト戦後「前衛」の在り様の一例を示すものとなっている。何より、モンポウの内気が生み出す繊細さが、小品のひとつひとつに純真をもたらして、何者でもない音楽に至り、ジャンルの壁を消失させるかのよう... で、この感覚が刺激的!作曲家の思いとは裏腹に、可能性に満ちた音楽が響き出す。
という『ひそやかな音楽』を、落ち着いて響かせるヘンク... 近現代音楽のスペシャリストならではの、明晰なタッチは、希有な作曲家、モンポウに対して、とてもドライに向き合うようにも感じられるのだけれど、それくらいだからこそ、一音一音が自律し、間がしっかりと活きて、より瑞々しい音楽に仕上がる。すると、ひそやかでありながら、雄弁にも聴こえるのが、ヘンクのタッチの興味深いところ。モンポウの音楽は、そのアンビエントさもあって、雰囲気に流されそうなところもあるけれど、ヘンクは、しっかりと音楽の実態を掴み、厳しい20世紀を生きた作曲家の傷付いた心を解き放つよう。なればこそ、モンポウの純真は輝き、時代や場所に囚われず、その音楽は、より自由に響き出す。クラシックのようでクラシックではなく、現代音楽とは遠い所にあるようで、実は現代音楽でもある、この何者でもないニュートラルさを引き出すヘンクのバランス感覚は、なかなか凄い。そうして紡がれる『ひそやかな音楽』には、当然ながらスペインもカタルーニャも無く、戦争も独裁も消え去り、深く、瞑想的。それは、対立が煽られる現代の状況に、癒しをもたらしてくれる。

FEDERICO MOMPOU MÚSICA CALLADA

モンポウ : 『ひそやかな音楽』

ヘルベルト・ヘンク(ピアノ)

ECM NEW SERIES/445 699-2




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