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スペインの交響曲、古典主義からロマン主義へとうつろう頃... [before 2005]

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カタルーニャ!歴史と伝統を誇り、多くの芸術家を生んだ、魅惑的な土地。そんなカタルーニャが、独立できたら、どんなに、すばらしいことか... が、法治国家から独立するならば、きちんとした道筋があってしかるべき。で、その道筋が、あんまりにも粗雑で、拙速で、ドン引きしてしまう。たとえ妨害が入ったとしても、投票率4割の住民投票で独立を決めてしまう?賛成9割という結果を示せても、そこに純粋な民主主義(クリミアを思い出す.... )はあるのだろうか?日本の住民投票なら、5割に満たなかった時点で不成立。そもそも独立なんて一大事、中央政府をしっかり取り込んで、正統性を担保しなくては、その後に悲劇を迎えるのは歴史の常(少なくとも、スコットランドくらいの準備はしようね!)。フランコ独裁時代ならともかく、21世紀、EUの一員であるスペインからの独立というのは、過去の遺恨に囚われた歴史劇のヒロインを演じて何とかなる問題ではない。いや、もはや歴史云々ではないのかもしれない。左派主導の独立運動となると、それは反グローバリゼーションの顕在であって、トランプ現象と同根なのだろうな... で、おそらく、カタルーニャの問題は、独立ではなく、そこに住まう人々のリアルに向き合うことができていない政治なのだろう。自分たちの至らなさを、EUのせいにして来たイギリスの政治家たちに通じるものを感じる。つまり、自治州政府の不甲斐無さ... 州首相の責任逃れとも言える態度を見れば、一目瞭然か... で、そのツケを払うのは、決まって市民なのだよなァ。だからこそ、大切なのです。選挙!
って、どこの国に向けて言ってんだ?は、さて置き、スペイン交響曲に続いての、スペイン"の"交響曲!ギィ・ヴァン・ワースの指揮、コンチェルト・ケルンの演奏による、古典主義からロマン主義へとうつろう時代の、スペインの作曲家たちによる交響曲を集めた興味深い1枚、"SINFONIAS ESPAÑOLAS"(CAPRICCIO/10488)を聴く。しかし、マニアックだよなァ。

"SINFONIAS ESPAÑOLAS"が取り上げるのは、4人の作曲家。カスティーリャ人(スペイン人というところを、あえて... )のフランシスコ・ハビエル・モレーノ、カタルーニャ人のジョゼ・ポンスと、ジョゼ・ノーノ、そして、バスク人のホアン・クリソストモ・アリアーガ。「スペイン」というパッケージを剥がせば、こうも多様な人々がいることに、まず興味深さを覚える。一方で、その音楽に、民族的な差異は、あまり見受けられない。もちろん、そうしたものが、はっきりと意思を持って音楽に現れるのは、19世紀末、国民楽派の興隆を待たなければならないのだろうけれど... 裏を返せば、民族的な個性は、時代が下ってから、近代主義が際立たせた部分も大きいように感じる。何より、"SINFONIAS ESPAÑOLAS"が取り上げる4人の作曲家たちの、出自に囚われず、より自由に異なる文化圏へと移動し、自らの音楽を奏でている姿を知ると、民族意識を先鋭化させている21世紀の方が、かえって不自由に思えてしまう。何より、伸びやかな4人の音楽の魅力的なこと!いや、この伸びやかさに、"SINFONIAS ESPAÑOLAS"ならではのスペインらしさを見出せるように感じる。それは、エキゾティシズムが創り出したファンタジーとしての「スペイン」ではない、イベリア半島の空気が生み出す気分なのだろう。
ということで、最初に注目したいのが、モレーノ(1748-1836)。"SINFONIAS ESPAÑOLAS"が取り上げる4人の中では、最も古い世代にあたり、マンハイム楽派、第2世代、カール・シュターミッツ(1745-1801)や、ウィーン古典派を彩ったチェコ出身のコジェルフ(1747-1818)、同じくチェコ出身で、古典主義の時代に人気を集めたレスレル(1750-92)と同世代(より解り易く言うならば、モーツァルトのお兄さん世代... )。ということで、その交響曲(track.7-9)、1800年頃に作曲されたと考えられているものの、古き良き古典派の朗らかさを留め、ところどころ、疾風怒濤や多感主義の名残りも感じさせるのか... しかし、それがロマン主義の到来を思わせるところもあって、なかなかおもしろい。いや、スペインにも、こんな風に明瞭な古典主義が息衝いていたかと、感心!で、続いて注目したいのが、ノーノ(1776-1845)。ベートーヴェン(1770-1827)の6つ年下となると、その交響曲(track.10-12)は、モレーノよりもはっきりと先を行くもので、作曲年代こそはっきりしないものの、ベートーヴェンやシューベルトを思わせる交響曲を展開。それでいて、端々に民族舞踊を思わせる人懐っこい表情も見せて、ウェーバーのようなロマン主義を見出せるのか... で、何とも悩ましいのが、ポンス(ca.1768-1818)の交響曲(track.5, 6)。ポンスは、バレンシアの大聖堂の聖歌隊指揮者を務めた人物で、その交響曲も、教会交響曲(教会ソナタがあるように... )の形を採っているのだけれど、序奏に始まる単一楽章という形が、まるでオペラの序曲のよう... というより、明らかにロッシーニ風。教会の荘重さを軽やかに覆して、表情豊かな楽しい音楽を紡ぎ出す!
という、ヴァラエティに富んだスペインの交響曲なのだけれど、それら交響曲にしては、何ともライト... なところに、ガツンとシンフォニック・サウンドを打ち立てて来るのが、メンデルスゾーン(1809-47)の3つ年上となる、アリアーガ(1806-26)の交響曲(track.1-4)。ガッツリと4楽章構成で、メンデルスゾーンに通じる、古典主義の手堅さをベースとした、瑞々しいロマン主義を繰り出すその音楽は、"SINFONIAS ESPAÑOLAS"において、最も聴き応えをもたらしてくれる頼もしい存在。しかし、驚くべきは、それが、18歳の時の作品であること... 「スペインのモーツァルト」とも呼ばれるアリアーガは、まさにモーツァルト同様、神童であり、また、モーツァルトのように早くして世を去った夭折の天才... いや20歳で亡くなってしまったから、35歳で世を去ったモーツァルトが随分と長生きに思えてしまうほど... そして、ここで聴く交響曲の充実ぶりに触れれば、せめてモーツァルトくらいは生きていて欲しかった!と、つくづく思う。『魔笛』の序曲を思わせる序奏から、ドラマティックに疾走を始める1楽章(track.1)、2楽章(track.2)では、ベートーヴェンを思わせる牧歌性が広がり、3楽章(track.3)のメヌエットには、上質な古典主義が回帰... かと思うと、ロマン主義らしいメロディアスなテーマで始まる終楽章(track.4)は、堂々たるロマン派交響曲を響かせて、魅了して来る。それにしても、18歳でこの完成度なのだから、凄い。
そんな"SINFONIAS ESPAÑOLAS"を聴かせてくれた、ヴァン・ワース、コンチェルト・ケルン。まず、よくもまあマニアックなところを突いて来たなと... ニューグローヴ世界音楽大辞典を開いても載っていないような作曲家たちまで拾い上げて、丁寧かつしっかりとスペインの交響曲を紹介する真摯さに脱帽。そして、風変わりな"スペインの交響曲"という視点を、イロモノに終わらせず、きちんと魅力的な音楽に仕上げて来る、コンチェルト・ケルンらしい活き活きとした演奏!それぞれの作品の魅力を詳らかにしながら、スペインらしい朗らかさを卒なく織り成して、単なるマニアックに終わらない楽しさを聴かせてくれる。一方で、1曲目に取り上げるアリアーガ(track.1-4)では、迫力を以って、知られざる才能を余すことなく響かせて、魅了されずにいられない。ヴァン・ワースらしい丁寧な指揮ぶりが、古典主義からロマン主義へのうつろいを器用に捉え、そこに、どんな作品も全力投球のコンチェルト・ケルンの勢いが相俟って、思いの外、魅力的な"SINFONIAS ESPAÑOLAS"。知られざるスペインの魅力に興味を掻き立てられ、これまで以上に惹き込まれる。

Arriaga・Pons・Moreno・Nonó
SINFONIAS ESPAÑOLAS

アリアーガ : 交響曲 ニ長調
ポンス : 交響曲 ト長調
モレーノ : 交響曲 変ホ長調
ノーノ : 交響曲 ヘ長調

ギィ・ヴァン・ワース/コンチェルト・ケルン

CAPRICCIO/10488




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