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スペイン交響曲、ラロ、エキゾティック・エンターテイメント! [before 2005]

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カスティーリャ王国のイサベル女王と、アラゴン王国のフェルナンド2世の結婚により生まれるスペイン(正確には、1479年、フェルナンド2世のアラゴン王即位を以って、両王国の連合が成立... )。その後、1492年、イベリア半島、最後のイスラム国家、グラナダ王国を征服し、8世紀に始まる、対イスラム勢力、国土回復運動、レコンキスタが、とうとう完遂。1512年には、バスク人の国、ナバラ王国のほとんどを制圧して、現在のスペインの形ができあがる。という歴史を見つめると、スペインという国が、異なる文化を持つ国々がまとめられて今に至ったことを知る(ちなみに、今、話題のカタルーニャは、バルセロナ伯、ラモン・バランゲー4世が、1137年、アラゴン王家に婿入りしたことで、アラゴン王国と統合されている... )。一方で、我々が持つ「スペイン」のイメージは、その一筋縄には行かない歴史とは裏腹に、何だか解り易いもの。闘牛士!フラメンコ!って、『カルメン』のイメージそのものか... いや、『カルメン』って、フランス・オペラだよなァ。フランス越しに見つめるスペイン像の不思議... この奇妙な状態が、多様なスペインのリアルを見え難くし、現地にフラストレーションをもたらしてしまう?
ということで、我々が持つ「スペイン」というイメージを生み出した、19世紀、フランスにおける、エキゾティシズムの盛り上がりに注目してみようかなと... ワディム・レーピンのヴァイオリン、ケント・ナガノの指揮、ロンドン交響楽団の演奏で、エキゾティック・スペインの波に乗って大成功したフランスの作曲家、ラロの代表作、スペイン交響曲(ERATO/3984-27314-2)を聴く。

フランス音楽は、極めてナショナリスティックな傾向を示す一方で、どの国よりもエキゾティシズムへの関心が強いように思う。フランス・オペラを代表する『カルメン』が、スペイン情緒たっぷりにスペインを描くという矛盾... 考えてみると、奇妙。けれど、それもまたフランスらしさ... 大胆にトルコを描いたリュリの『町人貴族』に、その名もズバリ『優雅なインドの国々』のラモーなどなど、時代を遡っても、フランス音楽にエキゾティシズムは欠かせない。が、19世紀、植民地の拡大と、その産物を一堂に集める万博の一大ブームが刺激となって、フランスの音楽に、よりダイナミックなエキゾティシズムが展開される。1875年に初演された『カルメン』もまた、そうした作品のひとつ(だったが、初演は、失敗に終わっている... )。で、その初演のひと月前に初演され、大成功したのが、ここで聴く、ラロのスペイン交響曲(track.1-5)。1823年、ベルギーとの国境に近いリールで生まれたラロは、当地の音楽院でヴァイオリンとチェロを学び、やがてパリに出て作曲も学ぶ。が、当初の活動はヴァイオリニストとしてのものがメインだったようで、特に室内楽に力を入れ、オペラにバレエと劇場一辺倒だったパリの音楽シーンに室内楽の魅力を広めようと、弦楽四重奏団を結成し、奮闘。その一方で、作曲家としては芽が出ずにいた。が、それを変えたのが、スペイン(バスク人)からやって来た伝説のヴァイオリニスト、サラサーテとの出会い。1874年、1番のヴァイオリン協奏曲が、サラサーテによって初演されると、大成功!2匹目のドジョウを狙うように、すぐさま作曲されたスペイン交響曲(track.1-5)。同じくサラサーテにより初演されると、さらなる大成功をラロにもたらした。
まず、サラサーテという存在がエキゾティックだったと言えるのかもしれない。そして、そのキャラクター性を最大限に活かすのが、スペイン交響曲だったのだろう。で、おもしろいのが、「協奏曲」ではなく、「交響曲」であること... 普仏戦争(1870-71)の敗戦に刺激を受け、一気に息を吹き返すフランス音楽。フランスの作曲家たちは、それまでドイツのものだと認識していた交響曲に、再び取り組み始めるわけだけれど、そうした波に乗るようなタイトル付けに、当時の楽壇の気分が映し出される。が、スペイン交響曲は、間違いなく協奏曲。見事にソロ・ヴァイオリンのヴィルトゥオージティを引き立て、サラサーテのスター性を今に伝える。その上で、魅惑的なスペインを印象付けるリズム、メロディーが次々に繰り出され、ある種、「スペイン」というイメージの交響曲になっているのかもしれない。冒頭から、竹を割ったような「スペイン」らしさに、胸が空く思いがして、全5楽章、どこを切ってもキャッチー!初演の大成功はもちろん、現在に至るまで人気作品であり続けること、大いに納得。聴き手が求める「スペイン」を、期待に違わず鮮やかに響かせ、最高のエンターテイメントとしてのエキゾティック・スペインを楽しませてくれる。さて、ラロは、スペイン交響曲の後にノルウェー幻想曲(1878)、ロシア協奏曲(1879)という、ヴァイオリン協奏曲を書いているのだけれど、いやはや、如何にエキゾティシズムが持て囃されていたかを思い知る。
そんな時代を象徴する、スペイン交響曲を、元気いっぱいに奏でるレーピン!今から18年前、1999年の録音ということで、若さ、はち切れんばかりのレーピンなのだけれど、この若さが絶妙に効いていて、下手に情緒的になることなく、19世紀後半、パリっ子たちを沸かせたエンターテイメントを、勢いよく弾き切って、圧巻!スペインの名所の全てを、書き割りに描いて並べてしまったような音楽を、カッコつけることなく、ちょっといきがるくらいに、ガツンガツン弾きこなして生まれる、エキゾティック・スペインが、とにかく気持ちいい!また、録音の前年までリヨンのオペラの音楽監督を務めいたケント・ナガノならではのセンスも息衝いていて、オペラ、バレエといった劇場主導だった19世紀、フランスの音楽の感覚が巧みに活かされて、ロンドン響の演奏からは、19世紀のパリの音楽シーンのチャキチャキ感が溢れて来るよう。そうして、スペイン交響曲は、間違いなく、より輝いて聴こえる。で、その後に、ショーソンの詩曲(track.6)、ラヴェルのツィガーヌ(track.7)が続いて、また違った魅力を聴かせてくれる、レーピン。ショーソンで、しっとりとフランスを歌い上げた後で、「スペイン」を近代音楽に昇華したラヴェルで締める妙!モダン・エキゾティック・スペインも魅力的。

repin / nagano lalo / shausson / ravel

ラロ : スペイン交響曲 Op.21
ショーソン : 詩曲 Op.25
ラヴェル : ツィガーヌ

ワディム・レーピン(ヴァイオリン)
ケント・ナガノ/ロンドン交響楽団

ERATO/3984-27314-2




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