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"ALONE"、独り向き合って、溢れ出す、20世紀、チェロの諸相... [before 2005]

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気温が、何となしに落ちていて、知らず知らずに秋らしくなっているのかなと... そんな秋の夜長、線路沿いを歩いていると、虫たちの声が耳に入る。音楽ではないけれど、心地良くあちらこちらから響いて来て、それは、まるで対位法のように展開し、ちょっと不思議な心地に包まれる。虫たちのコンソート・ミュージック、作為が、一切、介在しない、素の音楽に、瞬間、究極を感じた気がしたのも束の間、通り過ぎて行く電車がそれを掻き消してしまう。が、走り去って訪れる、静寂、全休止。そこにも、また、音楽を見出せるから、おもしろい。秋は、どこか、感覚が研ぎ澄まされて行くようなところがあるのかもしれない。なればこその芸術の秋であり、食欲の秋か...
さて、チェロを聴いております、この秋。バッハに始まり、19世紀、20世紀と、チェロという視点から時代を下って来て、現代へ... マリオ・ブルネロの独奏で、ソッリマからイザイまで、多彩な作曲家によるチェロ作品集、"ALONE"(Victor/VICC-60301)を聴く。

チェロの独奏には、とても孤独な印象を受ける。例えば、バッハの無伴奏チェロ組曲とか、低音を担うチェロという楽器の渋さが剥き出しとなって、孤高の世界を築くような... 高音の花やかさを持つヴァイオリンの独奏とは一味違う、独特なものがあるように感じる。それは、まさに、ここで聴くアルバムのタイトル、"ALONE"という言葉が示しているのかもしれない。が、そういうイメージに挑戦するかのようなブルネロ... アルバムの最初を飾る、アルバムのタイトルにもなった、ソッリマ(b.1962)のアローンには、チェロのイメージに引き籠ることなく、よりオープンで、チェロの新たな可能性を感じさせてくれる新鮮な音楽を聴かせてくれる。地中海に浮かぶ島、シチリアに生まれたソッリマにとって、地中海沿海の文化は、身近なものだったか、アフリカ、アラブ世界のフォークロワに関心を持ち、さらにはミニマリズムの影響も受けて至った音楽は、"ゲンダイオンガク"を越えた、リアルな現代の音楽として聴く者を刺激して来る。オリエンタルな雰囲気も漂わせる謎めく序奏から、やがてロックを思わせるスリリングなリズムが刻まれ、クールでエキサイティングな音楽が響き出すアローン。チェリストでもあるソッリマの、チェロを知り尽くして繰り出される超絶技巧は、クラシックらしからぬスタイリッシュさを生み、胸空くものがある。いや、アローンでありながら、たった独りで奏でているとは思えない、響きの多彩さがマジカル!何より、チェロという楽器がポジティヴに輝き出し、ワクワクしてしまう。そんなアローンに、渋いばかりがチェロではないと思い知らされる。
というソッリマに続いて取り上げられるのが、ハンガリーの作曲家、リゲティの、1953年に完成された無伴奏チェロ・ソナタ(track.2, 3)。それは、まだ、リゲティがトーン・クラスターによる代表作を生み出す前の作品なのだけれど、冒頭の弦が撓んだような響きに、トーン・クラスターの雰囲気を見出せて、興味深い。が、その後で響き出す音楽は、思いの外、ハンガリー!仄暗く艶やかにメロディーを織り成す1楽章、ディアローゴ(track.1)は、バルトークらが収集したハンガリー民謡を思わせて、味わい深く、チェロという楽器の渋さを見事に活かす。というリゲティの後には、20世紀を代表するチェリストのひとり、カサドの組曲(track.4-6)が取り上げられるのだけれど、こちらは、スペイン!いや、正確にはカタルーニャか... イベリア半島を意識させられる陰影の深い表情から、フランスを思わせる朗らかさ(というのが、カタルーニャ?)にも彩られつつ、最後はエキゾティックで魅惑的な舞曲を紡ぎ出し、惹き込まれる。続いて、最もモダンな表情を見せる、ダッラ・ピッコラのチャッコーナ、インテルメッツォとアダージョ(track.7-9)。締め括りには、最もクラシカルな聴き応えをもたらす、ヴァイオリンのヴィルトゥオーゾ、イザイによる、無伴奏チェロ・ソナタ(track.10-13)が奏でられ、見事にヴァラエティに富んだ音楽を聴かせてくれる"ALONE"。とてもalone=独りには思えないチェロの諸相に驚かされる。
というチェロの表現の幅を聴かせてくれるブルネロが凄い!超絶技巧もさらりとこなす確かなテクニック。そこから生まれる竹を割ったように明確なサウンド。そのサウンドには、チェロのイメージを凌駕する朗らかさを含み、取り上げるどの作品も、スコアの内側から輝かせるような感覚があって、圧倒される。そうして強調される、それぞれの作品の魅力... ロックなソッリマ、フォークロワなリゲティ、エキゾティックなカサド、モダニスティックなダッラ・ピッコラ、クラシカルなイザイ... 同じチェロでありながらも、それぞれにチェロとの向き合い方があって、それぞれに可能性を引き出し、チェロの世界を拡張するかのよう。チェロという楽器のミクロコスモスを、一気に反転させ、マクロコスモスとつながって行く"ALONE"。そんなアルバムを編み、弾き切ったブルネロの音楽性に、今、改めて感服し、その多彩さにただならず魅了される。

MARIO BRUNELLO ALONE

ソッリマ : アローン
リゲティ : 無伴奏チェロ・ソナタ
カサド : 組曲
ダッラ・ピッコラ : チャッコーナ、インテルメッツォとアダージョ
イザイ : 無伴奏チェロ・ソナタ ハ短調 Op.28

マリオ・ブルネロ(チェロ)

Victor/VICC-60301




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