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エルガー、そして、ブリテン、英国という視点、チェロ・コンチェルト。 [before 2005]

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チェロを集中的に聴いております、今月後半。でもって、バッハからベートーヴェン、そして、ブラームスと、チェロによるソナタを聴き、チェロという楽器は、とてもロマン主義的な楽器だなと... 一方で、ロマン主義の世紀、19世紀の音楽を見渡してみると、チェロのためのコンチェルトが、今一、目立たないように感じる。もちろん、前回、聴いた、ドヴォルザークのチェロ協奏曲のような名曲もあるのだけれど、チェロという楽器は、低音部を担う楽器だけに、縁の下の力持ち的存在であって、ヴァイオリンなどに比べれば、地味... その地味なサウンドをオーケストラと対比させることに、名曲を生んだドヴォルザークですら、二の足を踏んでいた。が、その高いハードルを乗り越えたドヴォルザーク... それまでのコンチェルトの在り方に捉われず、シンフォニックに音楽を展開し、見事にチェロをオーケストラに組み込んで、より雄大な音楽を繰り出す。そこには、ロマン主義的な楽器、チェロのためのコンチェルトの答えが示されていたように思う。という名曲が誕生したのが19世紀の終わり...
さて、ドヴォルザークに続き、20世紀に入ってからのチェロ協奏曲を聴いてみようと思う。それもイギリスの... ということで、前回に続いてのトルルス・モルクのチェロ、サイモン・ラトルが率いたバーミンガム市交響楽団の演奏による演奏で、エルガーのチェロ協奏曲と、ブリテンのチェロ交響曲(Virgin CLASSICS/5 45356 2)。ウーン、イギリスって、独特な感性がある。

チェロには渋いイメージがあるけれど、その音色をよくよく聴いてみると、単に渋いばかりでない複雑な表情を見出し、他の弦楽器とは一味違う懐の大きさを感じる。それは、楽器の大きさが示しているか... いや、楽器の大きさばかりでなく、バッハの無伴奏チェロ組曲などを聴いてしまえば、宇宙すら見えて来そうな感覚があって... そういうスケール感を、見事にコンチェルトに活かしたのが、ドヴォルザークのチェロ協奏曲だったように思う。チェロという楽器が持つ他には無いスケール感を、オーケストラのスケールに巧みに擦り合わせ、共鳴させて、より大きな音楽を紡ぎ出す。そうして19世紀のヴィルトゥオーゾ・コンチェルトの形を打ち破って生まれた名曲... その流れを見事に受け継いだのが、ここで聴くエルガーのチェロ協奏曲(track.1-4)かなと... ドヴォルザークからも影響を受けているエルガーだけに、そのチェロ協奏曲の在り方は、ドヴォルザークの名曲とよく似ている気がする。一方で、エルガーの音楽は、イギリスならではのライトな感性が効いていて、シンフォニックなドヴォルザークの先を行くようなドラマティシズムが広がり、独特な瑞々しさが溢れ出す。それは、まるで映画音楽のよう... ロマン主義は、ヨーロッパ大陸からイギリスへと渡って、より洗練された?そんな印象を受けるエルガーのチェロ協奏曲。とはいえ、エルガーがこの作品を書いたのは、第1次大戦終結の年、1918年。すでに『春の祭典』(1913)は初演されており、モダン・エイジの本格的な到来は、すぐそこ。となると、明らかに時代遅れ... けど、この時代遅れこそ魅力!まるで、戦争で失われた時代への郷愁を思わせて、聴く者の心を、ただならず揺さぶって来る!むせび泣くようなチェロのカデンツァで始まり、涙で視界がぼやけるような音楽が続く中、やがてエモーショナルなメロディーがチェロにより歌われ、そのメロディーを力強くオーケストラが引き継ぎ... いやー、ドヴォルザーク以上に惹き込まれてしまう。イギリス特有の映像的な感覚、時間を感じさせる流れゆく音楽に、ため息が出てしまう。
そのエルガーから半世紀が経とうという頃、1964年、ブリテンがロストロポーヴィチのために書いたチェロ交響曲(track.5-8)が続くのだけれど、エルガーから受け継がれるものと、新しい時代の波のせめぎ合いが、なかなかおもしろい音楽を生み出していて、また惹き込まれる。まず、1楽章(track.5)の始まり、まるで慟哭のような表情を生み出すチェロの重音は、エルガーの冒頭とよく似ており、興味深い。が、もはや戦後「前衛」の時代、ブリテンもそれ相応に時代を意識した音楽を紡ぎ出し、エルガー調のロマン主義を展開することはない。ないのだけれど、けしてギアを入れることはしないのがブリテンであって... このどっち付かずの態度が、ある種の浮世離れ感を生み出し、魅力となってしまうのが、ブリテンの力技!で、そのあたりに拍車を掛けるような、チェロ協奏曲ではなく、チェロ"交響曲"という微妙さ加減... でもって、交響曲を謳いながらも、シンフォニックに盛り上げるようなことはしない、ブリテンの飄々とした態度... そうして漂い出す、ペシミスティックな気分... それは、現代音楽に対してなのか?あるいは、ソヴィエトを代表したヴィルトゥオーゾ、ロストロポーヴィチを取り巻く、トンデモ"ユートピア"、ソヴィエトの気分なのか?どこかまとまりに欠ける音楽が、かえってクールで、ハードボイルドに仕上がっていて、エルガーには無かったテイストに魅了される。もちろん、イギリスらしい瑞々しさは各所で活き、イギリスのDNAをそこはかとなしに感じさせるブリテン流のモダニズムは、21世紀の今こそ新しい気がする。
そして、モルクのチェロ... 北欧の感性は、イギリスの音楽との親和性がやっぱり高い!エルガーでは、そのヴィヴィットさが、ブリテンでは、そのクリアさが活きて、それぞれの音楽のおもしろさを引き立てる。それでいて、モルクのニュートラルな在り方が、エルガーのオールド・ファッションと、ブリテンのどっち付かずの態度を、絶妙に現代的に引き上げて、ともにスタイリッシュに展開してしまうあたりが、カッコいい!イギリス音楽の魅力を見事に引き出して来る。そんなモルクを好サポートする、ラトル、バーミンガム市響... 彼らならではのクリアな演奏と、どことなしにポップな雰囲気が、エルガー、ブリテンの感性に作用して... というより、これこそがイギリスのDNAか... 餅は餅屋でもって、なればこそのカッコよさ、あるよなァ。と、つくづく思う。そういう演奏があって、また輝くイギリスの音楽... やっぱり、魅力的だなと。

ELGAR: CELLO CONCERTO
MØRK & RATTLE

エルガー : チェロ協奏曲 ホ短調 Op.85
ブリテン : チェロ交響曲 Op.68

トルルス・モルク(チェロ)
サイモン・ラトル/バーミンガム市交響楽団

Virgin CLASSICS/5 45356 2




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