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対位法、チェロとオルガン、時を越えて、バッハ親子の対話... [before 2005]

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ドイツ・バロックを代表する2人の大家、テレマンとバッハ。1681年、マクデブルクに生またテレマン、1685年、アイゼナハに生まれたバッハ... まさに同世代で、同じ中部ドイツの出身。何より、テレマンがバッハの故郷、アイゼナハの宮廷に仕えたことを切っ掛けに、ふたりは親交を結び、ゲオルク・"フィリップ"・テレマンは、バッハの次男、カール・"フィリップ"・エマヌエルの名付け親にもなっている。しかし、その音楽は、見事に真逆を行く... テレマンは、常に新しいものに関心を向け、バッハは、古くからの技法を極め、同じドイツ・バロックにカテゴライズされながらも、この両極端さは、まったく以って、おもしろい!一方で、バロックを飛び越してしまうような、我が道をゆく2人の態度... 音楽の志向こそ両極端ながらも、バロックに対して、似たような態度を取るあたりも、おもしろい!いや、そういう希有な在り方が、この2人をドイツ・バロックの大家たらしめているのだろう。
さて、テレマンが続いたので、久々にバッハを聴いてみようかなと... アンナー・ビルスマのヴィオラ・ダ・ガンバ、ボブ・ファン・アスペレンのポジティフ・オルガンで、バッハのヴィオラ・ダ・ガンバのためのソナタ集(SONY CLASSICAL/SK 45945)を聴く。

まず、久々にバッハを聴くと、何だか身が引き締まる思いがする。というのは、対位法の大家、バッハならではの、その"対位法"の効能かなと... ルネサンス以来のロジックを、しっかりと起動させて、隙の無い音楽を、きっちりと構築して行く... 何となく流れて行く音楽とは違う、積み重ねられて来たロジックの上に響く音楽の安定感というのは、まったく以って確かなもので、その確かさに感服させられてしまう。「音楽の父」の仕事というのは、やっぱり重みが違うのか... 最初に取り上げられる3番のヴィオラ・ダ・ガンバのためのソナタ(ビルスマは、全3曲、チェロ・ピッコロで演奏... )、1楽章、ヴィヴァーチェが鳴り出した瞬間、そんなことが頭を過る。チェロ・ピッコロが、流れるようにセンチメンタルなメロディーを歌い出すと、ポジティフ・オルガンがそれに応えて、軽快に声部を重ねて、コンチェルトのような華やかさを生み出す(これって、どこかで聴いたことがあるぞ?と、解説を読めば、3番のブランデンブルク協奏曲との類似性について触れられていて... けど、他のものにも思えて、ウーン、何だろう?)。普段、対位法というのは、どうも気難しいような印象を受けてしまうものの、チェロ・ピッコロとポジティフ・オルガンという2つの楽器、素朴な音色、温もりのある響きによる演奏だと、それぞれの声部が追い易いのか、対位法のおもしろさを心地良く感じられる気がする。まるで、小気味良くリズムを刻む、アンティークの仕掛け時計の中を覗くような... カチカチと2つの歯車がかみ合って、スムーズにムーヴメントが連動し、時折、ハッとさせられる動きを見せ、ますます惹き込まれてしまう。ロジックが愛らしく展開されるヴィオラ・ダ・ガンバのためのソナタ...
というバッハの後で、バッハの9番目の子、「ビュッケブルクのバッハ」こと、ヨハン・クリストフ・フリードリヒ(1732-95)の、1770年に出版されたチェロと通奏低音のソナタ(track.12-14)が、取り上げられ、なかなかおもしろい!その1楽章、ラルゲット(track.12)、ポジティフ・オルガンを伴奏に、チェロ・ピッコロが滔々と歌い出す姿には、厳格な対位法の時代はとうに過ぎ去ったことを思い知らされる。そして、父、バッハの音楽が、如何に対位法を用い、きちんと音楽を構築していたかを思い知らされる。さらに、父には無かった、ヨハン・クリストフ・フリードリヒの歌う感覚に、緊張は緩み、何とも言えず癒される... また、歌うことで、父とは違う深みを生み出すのも印象的... そうしたあたりに、19世紀が近付いていることを、ぼんやりと感じる。一方で、2楽章、アレグロ(track.13)は、さすが、対位法の大家の息子、確かな対位法を用い、バロック風の小気味良い音楽を繰り出して来る。とはいえ、父を完全に踏襲するわけでなく、ポジティフ・オルガンは、あくまでも通奏低音、チェロ・ピッコロの存在を引き立てる伴奏... 一見、古風に感じられるものの、父の先にある形を用いて、自らの音楽を紡ぎ出している。しかし、父子、それぞれが生きた時代を背景に、それぞれの魅力がある!そんなことを思わせてくれるビルスマのアルバム、さり気なく息子も取り上げて、時代のうつろいをも見せてしまうあたりに、思わず膝を打つ。
そして、ビルスマのチェロ・ピッコロ!ヴィオラ・ダ・ガンバではなく、チェロ・"ピッコロ"を用いたのも効いていて、チェロならではの深みを感じさせながら、"ピッコロ"であることの軽やかさ、明るさが、おもしろい!その多層的な音色が、父子の音楽を取り上げた時、それぞれの魅力をより引き出しながら、バッハ家、父子の系譜をも響かせて、巧み... 何より、ビルスマならではの深い息遣い(優秀録音で以って、実際に、ビルスマの、スー、ハーも聴こえるのはご愛嬌... )。けして派手ではないけれど、より身体感覚を伴ったビルスマの演奏には、スーっと入り込める心地良さがある。そんなビルスマに寄り添う、アスペレンのポジティフ・オルガンもまた味わい深く、やさしげで、魅了される。バッハ(track.1-11)では、確固たる存在感を以ってビルスマとしっかりと向き合い、ヨハン・クリストフ・フリードリヒ(track.12-14)では、すっとビルスマの後ろに控え、チェロ・ピッコロの音色を引き立てる... ビルスマもすばらしいのだけれど、アスペレンのさじ加減も絶妙。父子を並べたアルバムを、より立体的に聴かせるのは、アスペレンの存在あってこそ!何より、見事に息の合った2人のパフォーマンス!改めてバッハのおもしろさに感じ入り、「ビュッケブルクのバッハ」を、再発見!

BACH: SONATA FOR VIOLA DA GAMBA ●BYLSMA/VAN ASPEREN

ヨハン・セバスティアン・バッハ : ヴィオラ・ダ・ガンバのためのソナタ 第3番 ト短調 BWV 1029
ヨハン・セバスティアン・バッハ : ヴィオラ・ダ・ガンバのためのソナタ 第2番 ニ長調 BWV 1028
ヨハン・セバスティアン・バッハ : ヴィオラ・ダ・ガンバのためのソナタ 第1番 ト長調 BWV 1027
ヨハン・クリストフ・フリードリヒ・バッハ : チェロと通奏低音のためのソナタ イ長調

アンナー・ビルスマ(チェロ・ピッコロ)
ボブ・ファン・アスペレン(ポジティフ・オルガン)

SONY CLASSICAL/SK 45945




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