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テレマン、ドイツ・オペラ黎明期の活気!『オルフォイス』。 [before 2005]

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さて、9月となりました。でもって、秋です。いや、ひしひしと秋を感じる今日この頃... で、いいのか?!残暑とか、そういう言葉を使う機会がほとんどないのだけれど、そんな事態に、ちょっと寂しい感じがして... いやいや、シーズン開幕、テンション上げて行きますよ!ハリル・ジャパンもロシア行き決定だしね!ということで、今年、没後250年を迎えるテレマンに注目!テレマンというと、一昔前はターフェルムジークの作曲家、今では、おもしろいタイトルの序曲や組曲の作曲家というイメージがあるのだけれど、実はオペラ作家でもあって、セレナータやインテルメッツォを含めれば、30を越える作品を作曲している。が、現存するのは8作品のみらしい... そういう状況もあってか、オペラ作家としては、なかなか捉え難いのだけれど、オペラ作家、テレマンが気になる!
そこで、バロック・オペラの定番、オルフェウスの物語を、ドイツ語で作曲したオペラ... ルネ・ヤーコプスの指揮、ベルリン古楽アカデミーの演奏、ローマン・トローケル(バリトン)のタイトルロールによる、テレマンのオペラ『オルフォイス』(harmonia mundi FRANCE/HMC 901618)。没後250年、バッハにも、ヘンデルにも負けないテレマンのおもしろさを見つめてみる。

ドイツ・オペラというと、モーツァルトの『後宮からの誘拐』(1782)に源流を見出し、ウェーバーの『魔弾の射手』(1821)を以って幕が上がる... そんなイメージが漠然とあるのだけれど、実は、17世紀末、すでに「ドイツ・オペラ」と呼べるものが存在していた。ヴァイセンフェルスや、ブラウンシュヴァイクといった宮廷では、イタリア・オペラの代替として、あるいはナショナリズムのひとつの形として、ドイツ語によるオペラ上演(宮廷プレゼンツ、公開の劇場にて!)が試みられ、新たな音楽の拠点として存在感を示す(ちなみに、ヒルデスハイムのギムナジウムの生徒だったテレマン少年は、東へ30Km弱のブラウンシュヴァイクまで、オペラを観るために通っていた... )。そうした動きは、宮廷に留まらず、物流の拠点として成長を遂げた商業都市、ライプツィヒや、中世以来の貿易港、ハンブルクにおいても、市民のためのオペラハウスが建設され、一般の市民が理解できるドイツ語のオペラが人気を集めていた。いや、バロック・オペラというと、どうしても、イタリアやフランスばかりに目が行きがちだけれど、ドイツもまた、しっかりと独自の道を歩み、ローカルながら、興味深いオペラ・シーンを形成。それは、イタリアやフランスよりも、広がりを感じさせるのか... そうした中で、オペラ作家、テレマンは育まれ、活躍する。
さて、早くに父を亡くしたテレマンは、母から堅い仕事に就くことを望まれ、1701年、20歳の時、法学を学ぶため、ライプツィヒ大学に入学。母の思いとは裏腹に、学生のまま音楽活動をスタート!1702年には、ライプツィヒのオペラハウス(1693年に創設され、現在にまで至るライプツィヒのオペラハウス... )の劇場監督となり、1704年まで、精力的に仕事をこなす。翌、1705年には、シュレジエンの貴族、プロムニッツ伯の楽長となり、ライプツィヒを離れるものの、以後もコンスタントにライプツィヒのオペラハウスのためのオペラを書いている。そんなテレマンが、さらにオペラに本腰を入れることになるのが、ハンブルク... 1721年、40歳となったテレマンは、ハンブルクの街の音楽監督に就任。翌、1722年には、ヨーロッパで2番目に古い公開のオペラハウス、ゲンゼマルクト劇場(1678年に創設され、18世紀初頭には、若きヘンデルが活躍... )の楽長に就任。自作はもちろん、イタリア・オペラをドイツ語訳し、アレンジを加えて上演。そうした中には、ヘンデルがロンドンで上演した演目も含まれ、ハンブルクの音楽ファンは、ドイツ語で、様々なオペラを楽しめる環境にあった。そして、1726年、初演(ゲンゼマルクト劇場での初演だったが、コンサート形式だった... )を迎えたのが、ここで聴く、『オルフォイス』!
その序曲は、まさにテレマンの序曲、小気味良く、クールでスタイリッシュ!そうして幕が上がると、空気は一転、憂いに満ち、トラキアの王妃、オラジアが、オルフォイスへの叶わぬ恋(そりゃ叶わんがな、だってオイリュディケがいるんだもの... )を歌う(disc.1, track.2)。その切々と歌い上げるメロディーは、バッハの受難曲に通じるような表情を見せ、ドイツ・バロックのスピリットを感じさせる。続いて、叶わぬ恋を受け入れて歌う、2曲目のアリア(disc.1, track.4)では、ヘンデルのオラトリオを思わせる穏やかな表情を見せ、絶妙な切り返しを聴かせるテレマン。が、やっぱり、許せない、あの女、殺したる!という突然の飛躍を見せる3曲目のアリア(disc.1, track.6)では、イタリア語で、イタリア・オペラのようにドラマティックに歌ってしまうから驚かされる!のだけれど、このオラジアの感情の変化を、ドイツの伝統(悲しみ)、イギリス流(達観)、イタリア・オペラ(怒り)で、解り易く音楽にしてしまうテレマンのしたたかさというか、巧みさには、舌を巻く。裏を返せば、それだけの国際感覚を持った聴衆がハンブルクにはいたのだろう。さらには、フランス・オペラまで引き込んで、縦横無尽の『オルフォイス』!
オイリュディケらニンフたちが登場する1幕、5場(disc.1, track.20-22)では、フランス風にコーラスが活躍し、優美なバレエも踊られて、まさにフランス・オペラ!これは本当にドイツ・オペラなのかと思うのだけれど、ニンフ=妖精たちのファンタジックで牧歌的な存在をフランス語で聴かせる妙。バロック期のドイツでは、イタリアの最新の音楽の一方で、宮廷のフランス趣味もあって、フランスの音楽も人気を集めていた。そして、ドイツのローカルなポジションが、かえってインターナショナルな音楽風土を生み出すというおもしろさ... テレマンの『オルフォイス』は、そうしたドイツの状況を象徴するオペラと言えるのかもしれない。で、テレマンは、そのインターナショナルな感覚を、ドラマが佳境へと向かう中、より洗練させて、グルックの『オルフェオとエウリディーチェ』(1762)を思わせる、古典的な端正さを紡ぎ出す。いや、『オルフォイス』は、フランスのトラジェディ・リリクの在り方を学び、そこにイタリア・オペラの流麗さを結んだ、グルックのオペラ改革を予感させるところもある。
という『オルフォイス』を、すっきりと蘇らせたヤーコプス。ひとつひとつのナンバーを丁寧に響かせて、テレマンの音楽の端正さを際立たせつつ、イタリア語、フランス語、自由自在に惹き込むテレマンのおもしろい仕掛けを、卒なく活かし、物語を息衝かせる。それは、ヤーコプス自らでドラマを動かさず、テレマンの音楽が動かすのに任せるようで、いつものヤーコプスのオペラとは一味違う感覚があるのか... なればこそ、グルックに通じる端正さが強調されるようでもある。歌手たちの歌声もまた端正で... オルフォイスを歌うトレーケル(バリトン)の深く瑞々しい歌声、オイリュディケを歌うツィーザク(ソプラノ)の可憐さ、そして、オイリュディケよりも存在感を見せるオラジアを歌うレシュマン(ソプラノ)のクラッシーかつ劇的な歌声!魅了されるばかり... テレマンのギミックさも、見事に古典美へと昇華させ、オルフェウスの物語(冥府下りの後、バッカイたちに惨殺されるまでを描く... )の叙事性を引き出す歌手たちの存在はみな印象深い。そうして引き出される、テレマンのオペラの思い掛けないおもしろさ!さらには、バロック期、ドイツのオペラ・シーンの充実。

TELEMANN ・ ORPHEUS
AKADEMIE FÜR ALTE MUSIK BERLIN ・ RENE JACOBS


テレマン : オペラ 『オルフォイス』 TWV 21:18

オラジア : ドロテア・レッシュマン(ソプラノ)
オルフォイス : ローマン・トレーケル(バリトン)
オイリュディケ : ルート・ツィーザク(ソプラノ)
イスメネ : マリア・クリスティーナ・キール(ソプラノ)
オイリメデス : ヴェルナー・ギューラ(テノール)
ツェフィザ/バフースの信女 : イザベル・プルナール(ソプラノ)
プルート : ハンノ・ミューラー・ブラッチマン(バリトン・バス)
アスカラックス : アクセル・ケーラー(カウンターテナー)
RIAS室内合唱団

ルネ・ヤーコプス/ベルリン古楽アカデミー

harmonia mundi FRANCE/HMC 901618




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