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アメリカ発、ヴェリズモ・オペラ、『ポーギーとベス』の本気... [2009]

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8月に入ってからというもの、どういうわけか夏らしさは遠ざかり、まるで梅雨空が戻って来てしまったような、そんなもどかしい日々が続いておりました。が、夏らしさが戻って来た!やっぱり、日差しは欠かせないよ、暑いけど... ということで、音楽で夏を味わう!サマー・タイム... って、あんまりにもダイレクトか?いや、夏の歌ではないのだよね、サマー・タイム。夏になれば、暮らしは楽になる(漁に出ることができて、綿花の収穫が近付くから... )と歌うのだけれど、この歌が持つ独特の気だるさ、ブルース調に、夏を感じて... で、このスタンダードの名作を生み出したガーシュウンのオペラ『ポーギーとベス』を聴いてみようかなと...
ニコラウス・アーノンクールの指揮、ヨーロッパ室内管弦楽団の演奏、ジョナサン・レマル(バス・バリトン)のポーギー、イザベル・カバトゥ(ソプラノ)のベスで、ガーシュウィンのオペラ『ポーギーとベス』(RCA RED SEAL/88697591762)を聴く。

20歳になったばかり!1919年、「スワニー」のヒットで、一躍、人気のソングライターとなったガーシュウィン(1898-1937)。以後、作詞家の兄、アイラ(1896-1983)と組み、数々のヒット・ナンバーを送り出し、ポピュラー・ミュージックの世界を席巻する。が、それに飽き足らなかったガーシュウィン... 1924年、シンフォニック・ジャズというスタイルを生み出したオーケストラ作品(オーケストレーションはグローフェ... )、ラプソディー・イン・ブルーの成功で、ジャズとクラシックをつなぐ存在として、ヨーロッパから注目されると、アカデミックな音楽に関心を寄せ、独学でオーケストレーションを学び、やがてオペラへと辿り着く。そうして誕生したのが、『ポーギーとベス』。1926年、ガーシュウィンは、前年に出版されていた、アメリカ南部、チャールストンの黒人社会を描くヘイワードの小説、『ポーギー』に出会い、強いインスピレーションを受け、この物語をオペラにしようとイマジネーションを膨らませる。が、権利の問題で難航、実際に作曲を始めることができたのは8年を経た1934年... しかし、この8年が並々ならぬ思いを育てたか、作曲は一気に進められ、翌、1935年には完成。ボストンのコロニアル劇場にて試演が行われる。が、3時間を越える規模が不評で、ニューヨーク、アルヴィン劇場での初演に向けて、音楽を刈り込むことに... で、ここで聴くのは、スタンダードな初稿版ではなく、このアルヴィン劇場における初演版...
さて、試演を経ての初演という流れが、まるでブロードウェイのミュージカルのような『ポーギーとベス』。ニューヨークでの初演場所も、オペラハウスであるメトロポリタン歌劇場ではなく、ミュージカルのアルヴィン劇場だったりと、聴き手にとっては、オペラなのか?ミュージカルなのか?なかなか悩ましいものがあったよう。また、当時のオペラとしては大胆であったろう題材、ブラック・ミュージックをふんだんに盛り込むという革新性も、『ポーギーとベス』のオペラとしてのイメージを揺らがせてしまうことにつながったのだろう... そういう諸々のもどかしさを抱えながら、アルヴィン劇場での初演は、一応の成功を見る。そして、その7年後、1942年にリヴァイヴァルされた時には、サマー・タイムなどのナンバーのみを歌い、ミュージカルとして上演し、大成功!この作品のもどかしさを排することで、『ポーギーとベス』は、多くの人々に愛される作品となる。一方で、"オペラ"としての真価はなかなか定まらず、1976年のヒューストン・グランド・オペラによるオペラとしての蘇演を待たなくてはならない。
しかし、『ポーギーとベス』は、間違いなくオペラだ。それも、大したオペラである。今、改めて聴いてみれば、ヨーロッパが生み出したオペラという芸術の重みを、ズシりと感じてしまうほど... オペラ史にける最後の輝かしき時代、第1次大戦後、20世紀前半のオペラが放つ独特の爛熟感を見事に内包し、ベルクの『ヴォツェック』(1925)や、ショスタコーヴィチの『ムツェンスク郡のマクベス夫人』(1934)といった、20世紀オペラの傑作と呼応するような鋭さ、ヘヴィーさで以って迫って来る。いや、これは、アメリカにおけるヴェリズモ・オペラだ!一方、サティの『パラード』を意識したか?街の喧騒をそのまま表現するノイズ・シンフォニー(disc.3, track.7)が印象的で、モダニズムに対しても貪欲なガーシュウィンの姿を窺わせる。もちろん、このオペラならではのブラック・ミュージックを素材としたあたりも聴き所!ガーシュウィンは『ポーギーとベス』を"フォーク・オペラ"と銘打っているのだけれど、そこには国民楽派のようなスタンスも感じられる。ブラック・ミュージックを民俗音楽として丁寧に捉え、巧みにオペラというフォーマットに落し込む律儀さは、このオペラがけしてイロモノでないことを強く主張するかのよう... そうしたあたり、アメリカ音楽の先人、エイミー・ビーチ(1867-1944)にも通じる、ヨーロッパ以上にヨーロッパ文化の優等生だった当時のアメリカの姿を見出せるようで、おもしろい。いや、改めて『ポーギーとベス』を聴いてみると、ガーシュウィンという作曲家の真っ直ぐさが印象に残り、その作品の見方が変わるような気さえする。
そんなガーシュウィン像を引き出す、アーノンクール。サマー・タイムのようなスタンダードを生んだ人気作を、20世紀音楽として、ガッツリ響かせる。それは、ヨーロッパからの視点というのか、隅々まで手を抜かず、きっちりと音楽を紡ぎ出し... なればこそ、ヨーロッパの20世紀オペラにまったく引けを取らないインパクトを生み出す。また、ニューヨーク、アーヴィン劇場での初演版を用いたのも、そうしたイメージを強めている。長大だった音楽が刈り込まれ、密度を増したことで、このオペラのモダニスティックさが際立ち、アメリカの、ブラック・ミュージックというフレーバーに頼らずとも成り立ち得る骨太な音楽ドラマを構築するに至っている。そんなアーノンクールに応える歌手陣の確かな歌声も、この"オペラ"の魅力をより確かなものとしている。ひとりひとり表情に富み、ドラマティックに紡ぎ出されるシーンの数々は、どれも惹き込まれる。またアルノルト・シェーンベルク合唱団の活き活きとしたコーラスも大いに魅力的。そうした歌声を支えるヨーロッパ室内管の的確にして鮮やかな演奏も見事。それら一丸となって生み出される音楽ドラマは、雄弁。

GERSHWIN : PORGY & BESS
HARNONCOURT

ガーシュウィン : オペラ 『ポーギーとベス』 〔アルヴィン劇場初演版〕

ポーギー : ジョナサン・レマル(バス・バリトン)
ベス : イザベル・カバトゥ(ソプラノ)
クララ : ビビアーナ・ヌウォビロ(ソプラノ)
スポーティング・ライフ : マイケル・フォレスト(テノール)
ジェイク : ロドニー・クラーク(バリトン)
セリーナ : アンジェラ・ルネ・シンプソン(ソプラノ)
マリア : ロバータ・アレクサンダー(ソプラノ)
グラウン : グレッグ・ベイカー(バリトン)
ミンゴ/ロビンズ/ピーター/蟹売り : プレヴィン・ムーア(テノール)
シピオ : ヤニック・ジャーメイン・バリーエ(語り)
刑事/アーチデール/巡査 : デイヴィッド・マクシェイン(語り)
アルノルト・シェーンベルク合唱団

ニコラウス・アーノンクール/ヨーロッパ室内管弦楽団

RCA RED SEAL/88697591762




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