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グリゼー、音を解き解し、編み直して、音響空間。 [before 2005]

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クラシックは、どうしてもドイツ―オーストリアをメインストリームとして語られがちだけれど、音楽史は、当然、ドイツ語圏ばかりで織り成されるものではない。そうした中で、興味深い存在感を放つのが、フランス... 中世、ゴシック期には、多声音楽を育み、ヨーロッパの音楽を主導するも、百年戦争(1337-1453)の勃発で、音楽どころではなくなってしまい、以後、ローカルな立場に甘んじたフランスの音楽。が、音楽史におけるローカル性は、フランスの音楽の独自性を磨くこととなり、それはまずバロック期に花を咲かせ、19世紀末にはフランスらしさ、個性を覚醒。20世紀に入ってからは、近代音楽で活気を取り戻し、現代音楽で再び主導する立場側に返り咲いたか?ということで、ラヴェルに続いて、フランスの現代音楽に目を向けてみようかなと...
ガース・ノックスのヴィオラ、ASKOアンサンブル、そして、ステファン・アズベリーの指揮、ケルンWDR交響楽団の演奏で、スペクトル楽派を代表する作曲家、ジェラール・グリゼーの、その集大成とも言える連作、『音響空間』(KAIROS/0012422 KAI)を聴く。

第1次大戦終結から3年後の1921年、12音技法を発明したシェーンベルク。保守的なウィーンで動き出した、20世紀音楽、最大の革新は、あまりに突飛だったため、当時、注目されることは、ほとんど無かった。が、第2次大戦終戦の翌年、1946年に始まるダルムシュタット国際現代音楽夏期講習会、世界中から作曲家たちが集い、戦後「前衛」の方向性を探った場では、12音技法による音列音楽が注目を集めるようになり、瞬く間にメインストリームを担う。そして、その中心にいたのが、フランスの若き作曲家、ブーレーズ。ブーレーズは、シェーンベルクからさらに進んだヴェーベルンの12音技法をベースにして、総音列音楽を確立。が、確立されることで行き詰ってしまう、総音列音楽... 西洋の音階を成す12の音を、システマティックに管理する、究極的な音楽の形は、究極なればこそ、その先へと進む道を失ってしまう。そうしてメインストリームは消失し、現代音楽はカオスに突入する1950年代。世界は広がり、世の中は多様化する中で、奔流が生まれることはもはやあり得ないのだろう。と思いきや、1970年代、新たなストリームが生まれる。20世紀、テクノロジーの発達は、現代音楽にも影響を及ぼし、1950年代あたりから、作曲家たちは、電子音楽に興味を持ち始める。そうした経験から、電子機器を用い、音を解析し、そこから新たな響きを編み出そうという作曲家たちが登場する。それが、スペクトル楽派... 彼らは、ブーレーズが設立(1977)したフランス国立音響音楽研究所、IRCAMを拠点とし、多様化著しい現代音楽に在って、ひとつのストリームを形成するに至る。その代表的な作曲家が、グリゼー(1946-98)。
12音技法による音列音楽が、20世紀音楽、最大の革新であったとしても、"12"という古来のスケールに縛られていた、総音列音楽。対して、新しいテクノロジーを使いこなしたグリゼーら、スペクトル楽派は、"12"という人為的な区切りを取っ払って、音響として音楽を見つめ直す。それは、形式を脱し、色彩を求めた印象主義の音楽の未来と言えるのかもしれない。で、「印象」に留まることなく、しっかり理論的に解析し、構成する。となると、スーパー印象主義?ブーレーズの先を歩みながら、フランスの伝統を振り返るおもしろさ。で、グリゼーの音楽の集大成とも言える連作、『音響空間』を聴くのだけれど、1974年に作曲が始まり1985年に完成する6曲からなる大作は、トロンボーンの低いホ音を取り出し、解析し、その音を構成する倍音を基に、様々な編成で音響を編んで行く。始まりは、ヴィオラの独奏による"Prologue"(disc.1, track.1)。ひとつの楽器で音響が生まれるのか?なんて、安易に考えてしまうのだけれど、厚いサウンドばかりが音響ではなくて、かえってヴィオラの深い音色に耳を凝らし、そこに様々な響きを探ろうと、耳は鋭敏になるのか... 一方で、グリゼーは、思いの外、飄々とヴィオラを鳴らし、フォークロワのような、中世のような、そんな音楽を紡ぎ出す。ひとつの音を解析し、引き出される素の音の表情は、音楽がまだ素朴だった時代の記憶を蘇らせるようで、興味深い。そこから、7人の奏者による"Périodes"(disc.1, track.2)が続き、一気に色彩感が増し、音響らしい音楽が広がる。さらに、18人の奏者による"Partiels"(disc.1, track.3)、33人の奏者による"Modulations"(disc.2, track.1)と、編成は次第に大きくなり、音響はますます厚みを増し、オーケストラによる"Transitoires"(disc.2, track.2)、"Epilogue"(disc.2, track.3)と、ダイナミックに展開されて行く。いや、このダイナミズムこそ魅力!そして、そのダイナミズムへと至る道程、奏者が次第に増えて行く過程が、ドラマティック!それは太古に還るようで、宇宙に飛び出すようで、既存の音楽では味わえないスケール感が凄い。そう言う点で、音楽ではなく音響空間なのだろう。
という、『音響空間』を響かせるのが、ノックスのヴィオラ(disc.1, track.1)、ASKOアンサンブル(disc.1, track.2, 3)、アズベリーの指揮、ケルンWDR響(disc.2)。近現代のスペシャリスト達による演奏だけあって、揺ぎ無く、堂々たる6曲。ノックスのヴィオラ、ASKOアンサンブルの演奏は色彩に富み、ケルンWDR響の演奏は、ドイツのオーケストラのヘヴィーさが効いていて、ずっしりと聴き応えが生まれ、奏者が増えて行くという、『音響空間』独特の展開を際立たせる。いや、何か空間を旅するような、表情に富む音楽を繰り出していて、抽象ではあっても、聴く者に何か具体的なイメージを喚起するような息衝く演奏が印象的。スペクトル楽派云々はさて置き、2枚組も飽きさせない魅力を放つ。

GÉRARD GRISEY Les Espaces Acoustiques

グリゼー : 『音響空間』

ガース・ノックス(ヴィオラ)
ASKOアンサンブル
ステファン・アズベリー/ケルンWDR放送交響楽団

KAIROS/0012422 KAI




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