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コヤニスカッツィ... それは、我々の時代への警句... [before 2005]

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アメリカがパリ協定から離脱すると表明して一ヶ月が過ぎました。おかげ様で、気温が上昇してきましたよ。なんてことはありませんが、7月となり、身体に悪い感じの暑さが、蔓延って参りました。早速、夏バテ気味です。いや、この夏バテ感が、年々、早まっている気がするのです。で、そうしたあたりに、ひしひしと温暖化を感じてしまう... てか、そんなのんきなことを言っていられない!九州豪雨の惨状(一日も早い復興を願うばかりです... )、土砂に半分埋まってしまった家々を映し出すニュースに、居た堪れなくなってしまう。こんな異常な雨の降り方、これまでにあっただろうか?もはや、アメリカがどうのと騒いでいる場合ではなく、今、目の前にある、新たなレベルに突入しつつある大気と向き合い、できるところから、ひとつひとつやって行くしかないのだなと...
ということで、まだ温暖化が叫ばれる前、すでに近代社会に警鐘をならしていた異色のドキュメンタリー映画に注目。マイケル・リーズマンの指揮、ウェスタン・ウィンド・ヴォーカル・アンサンブルのコーラス、フィリップ・グラス・アンサンブルのメンバーの演奏、アルバート・デ・ルーターのヴォーカルで、『コヤニスカッツィ』(NONESUCH/7559-79506-2)を聴く。

まず、映画『コヤニスカッツィ』とは?今から35年前、1982年に製作された、ゴッドフリー・レッジョ監督によるドキュメンタリー映画で... 打ち上げられるロケット、資源採掘、原爆実験、団地の解体、自動車で溢れるハイウェイ、工場のライン、まるで工場のラインのようにエレベーターから、エスカレーターから送り出されて行く人々、情報が溢れるテレビ、集積回路、近代都市... 繁栄を謳歌する20世紀後半のアメリカ、近代社会の諸相を、スローモーションとクイックモーションを巧みに用いて、ナレーションなど一切の説明を省き、淡々と映し出す。その映像に、フィリップ・グラスによる音楽が見事にシンクロして、普段、何気なく感じていた風景の異様さを炙り出す。それは、ドキュメンタリー映画というより、ミュージック・ヴィデオと言った方が腑に落ちるのかもしれない。が、その映像と音楽が訴え掛けて来るものは、恐ろしく雄弁で、見る者に突き刺さる。公開から35年が過ぎ、世界情勢も社会も大きく変化したわけだが、それでも、『コヤニスカッツィ』が放つメッセージは、未だに生々しく、辛辣で、21世紀においても圧倒的。で、ここで聴くのは、『コヤニスカッツィ』のサントラとして作曲されたグラスの音楽を、改めて音楽作品として録音(1998)し直したもの。だからか、音楽としての魅力がよりクリアになった印象があって、映像無しでも聴く者に迫って来る。いや、オラトリオのような威厳すら漂わせて、久々に聴くと魅了される。
その始まり、1曲目、"Koyaanisqatsi"は、作品のタイトルにもなっている、ネイティヴ・アメリカン、ホピ族(ホピの予言で知られる... この予言自体が、近代社会への警句とも言えるもの... )の言葉、堕落し混乱をきたした生活、平衡を失った世界を意味する「コヤニスカッツィ」の唱句で幕を開ける。重々しいオルガン(キーボード)の響きを背景に、バスの低い声で繰り返される「コヤニスカッツィ」は、どこか黙示録的な雰囲気を漂わせて、ただならない。続く、2曲目、"Organic"(track.2)は、弦楽器による息の長いフレーズが広がりを感じさせる静かなパート。その上で、フルートがミニマル・ミュージックならではの短いフレーズを繰り返すものの、静けさが強調される音楽は、あまりミニマルっぽくはなく、嵐の前を思わせて、かえってドラマティック。そこに、ブラスによるパルスが降り注ぎ、グラスらしい音楽が動き出す3曲目、"Cloudscape"(track.3)。これまたグラスっぽさ全開のキーボードのカラフルなサウンドがリズムを紡ぎ出す4曲目、"Resource"(track.4)。ウェスタン・ウィンド・ヴォーカル・アンサンブルがア・カペラでスキャットを歌い出す5曲目、"Vessels"(track.5)では、ミニマル・ミュージックのサイケデリックさが、ぱぁっと色付くも、6曲目、"Pruit lgoe"(track.6)では、弦楽器によるクラシカルなトーンに包まれ、また表情を変える。いや、思いの外、表情に富む、『コヤニスカッツィ』。映画のサウンド・トラックなのだから、当然ではあるのだけれど、ミニマル・ミュージックにして、次々にドラマを繰り出す推進力は、凄い。
で、圧巻なのが、最も長い7曲目、"The Grid"(track.7)。20分を越えるパートは、当然ながら延々とフレーズを繰り返すことになるのだけれど、なればこそ、最もボルテージは上がり、ミニマル・ミュージックならではのカラフルな中を走り抜けるような感覚に、酔い痴れてしまう。まるでイルミネーションが明滅する夜の遊園地で遊ぶような楽しさで、得も言えぬ多幸感に包まれて、忘我へと誘う心地良いリズム、めくるめく繰り出されるキャッチーなフレーズ、まさにミニマル!このサイケデリックさは、かなり麻薬的。それは、近代社会の享楽的な側面を徹底して響かせているのかもしれない。が、そこから突き落とすかのように、再び、ホピ族の言葉で歌われる"Prophecies"(track.8)。「予言」と題された『コヤニスカッツィ』の最後は、まるで聖歌のようで、審判の時がとうとう訪れたか?1曲目、"Koyaanisqatsi"のテーマへと還り、この音楽がどういうものであったかを思い知らされることに... まるで、『カルミナ・ブラーナ』を思わせる展開が、音楽としての『コヤニスカッツィ』の迫力を引き出すよう。いや、映像無しでも、十分にメッセージを発し得るグラスの音楽に、改めて惹き込まれた。
そんな録音し直された『コヤニスカッツィ』は、巧い具合にサントラの役割を脱し、音楽作品としての存在感をしっかりと示す。グラスの右腕、フィリップ・グラス・アンサンブルの音楽監督、リーズマンの指揮の下、サントラとほぼ同じメンバーが揃っての歌と演奏なのだけれど、フィリップ・グラス・アンサンブルのメンバーの演奏には、ヴィオラとチェロが増強され、響きに広がりや深みが出て、より洗練を感じさせる。ウェスタン・ウィンド・ヴォーカル・アンサンブルのコーラスには、室内合唱的な精緻さが加わり、ミニマル・ミュージックとしての鋭さが際立つ。だからこそ、グラスの音楽は、映像を離れても輝き、インパクトを生む。すると、フル・オーケストラ版とかあったら... なんて、つい夢想してしまう。いや、改めて聴き直せば、『カルミナ・ブラーナ』に負けない存在感を示せる音楽だと強く感じる。21世紀、温暖化の時代にメッセージを放つ新たなオラトリオ... そんな風に『コヤニスカッツィ』を定義できたなら、刺激的なのではないだろうか。

PHILIP GLASS KOYAANISQATSI

フィリップ・グラス : 『コヤニスカッツィ』

アルバート・デ・ルーター(バス)
ウェスタン・ウィンド・ヴォーカル・アンサンブル(コーラス)
マイケル・リーズマン/フィリップ・クラス・アンサンブルのメンバー

NONESUCH/7559-79506-2




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