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1813年、ロッシーニ、伝説の始まり、『アルジェのイタリア女』。 [before 2005]

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ベートーヴェンがディアベリ変奏曲を作曲していた頃、1820年代、ウィーンっ子たちは、ロッシーニに熱狂していた。というのも、ロッシーニのプロモーターとも言える存在、バルバイア(本来は、ナポリ、サン・カルロ劇場の支配人。ロッシーニをナポリに招聘したことで、その関係が始まる... )が、1821年、ケルントナートーア劇場の支配人にも就任。翌、1822年には、作曲家自身を呼んで、ロッシーニ・フェスティヴァルを開催。ウィーンっ子たちは、イタリアからやって来た新たな天才の虜となってしまう。でもって、そんな状況に、ベートーヴェンは臍を曲げてしまう。作曲を進めていた第九の初演を、ウィーンではなくベルリンで行おうと動き出すのだったが、ウィーンの支援者たち、友人たちが、それを思い留まらせ、1824年、ロッシーニ・フェスティヴァルと同じケルントナートーア劇場で初演を迎えることに... というエピソードからも、当時のロッシーニ・ブームの凄さを垣間見ることができる。ということで、時代を少し遡り、そのロッシーニ・ブームの始まりを見つめてみようかなと...
クラウディオ・アバドの指揮、ウィーン国立歌劇場、アグネス・バルツァ(メッゾ・ソプラノ)、ルッジェーロ・ライモンディ(バス)ら、往年のスターたちによる、ロッシーニ・ブームの始まり、オペラ『アルジェのイタリア女』(Deutsche Grammophon/427 331-2)を聴く。

1812年、20歳になる目前、ヴェネツィア、サン・モイゼ劇場にて、1幕のファルサ『幸せな間違い』で、最初の成功を勝ち取ったロッシーニ。その翌年、1813年には、フェニーチェ劇場にて、オペラ・セリア『タンクレーディ』を大成功。それからわずか3ヶ月の内に、今度は、サン・ベネデット劇場で、オペラ・ブッファ『アルジェのイタリア女』で大成功させる。このヴェネツィアでのセリアとブッファによる大成功が、ロッシーニ・ブームに火を着けることに... しかし、1幕のファルサ(笑劇)を書いていた駆け出しの作曲家が、瞬く間にセリア、ブッファと、立て続けに作曲してしまうのだから、驚かされる。というより、『幸せな間違い』から『アルジェのイタリア女』までの間に、ロッシーニは6つものオペラ(内、3つは、サン・モイゼ劇場のための1幕のファルサ... )を発表しているから、タダモノではない。いや、よく働いたわけだ... となれば、37歳での引退も、わからなくはないか... それはもう、若いからこそ乗り切れたような過酷な日々だった。ま、乗り切るために、序曲やらメロディーの使い回しにも手を出すのだけれど、それもまた、ロッシーニという新しい才能が如何に求められていたかを示す痕跡と言えるのかもしれない。
で、『アルジェのイタリア女』なのだけれど、このオペラがまた、ロッシーニをハードワークへと追いやる。サン・ベネデット劇場が、当初、予定していた、カルロ・コッチャ(パイジェッロに師事したナポリ生まれの作曲家... )の新作が遅れ、その代わりに白羽の矢が立てられたのが、ロッシーニだった。劇場は、1808年にミラノ、スカラ座で上演され、評判の良かったモスカ(やはりナポリ生まれで、ナポリで学んだ作曲家... )による『アルジェのイタリア女』(1808)の台本を取り寄せて、新たに作曲させる。が、初演の日は迫っていた。ロッシーニは、わずか27日で書き上げ、何とか初演に間に合わせる。最初は、そのあまりに短い作曲日数のせいで、モスカの音楽に手を加えた音楽だと勘ぐられる節もあったようだけれど、ロッシーニにらしく、活き活きとリズムを刻み、瑞々しいメロディーに彩られた音楽はすぐさま観客の心を捉え、ヴェネツィアからイタリアへ、そして、ヨーロッパ、さらには大西洋を渡り、アメリカでも人気を博すことになる。いや、改めて聴いてみると、納得... まず、とても27日で作曲したとは思えない(ちなみに、『セヴィーリャの理髪師』は、さらに短い13日、いや9日で作曲したと言われている... )。ウィットの効いた序曲からして見事で、隙が無く、改めて聴いてみれば、その充実っぷりに感心してしまう。
ロッシーニの最初の成功作、前年に初演された『幸せな間違い』には、すでにロッシーニらしさが確立されていて、驚かされたが、そこから『アルジェのイタリア女』を聴くと、全てのナンバーが存在感を放ち、より豊かな表情を見せていて、グイっと惹き込まれる。1幕の顔とも言える、アルジェのイタリア女、イザベッラが歌うカヴァティーナ「残酷な運命」(disc.1, track.7)の、ちょっとヤリ過ぎ感すらある嘆きっぷりとか、もう堂に入っていて、大したもの!しかし、『幸せな間違い』から、たった1年で、こうも表現を濃密にできるものだろうか?いや、1年とはいえ、6つのオペラを生み出した経験が、この驚くべき成長を促したのだろう。そして、このカヴァティーナに限らず、全ての音楽で、驚くべき成長を感じることができる。イタリア女フェチ、アルジェの太守に捕えられてしまったイタリア女、イザベッラが、言葉巧みに太守を騙し(そういう、物怖じしない頭の良さがイタリア女の魅力!)、まんまとイタリアへと帰国を果たしてしまうトリッキーな物語(けど、実際にそういうことが起こったらしいから、事実は小説より奇なり!)を、濃いめの味付けで息衝かせ、そのトリッキーなあたりを、ポップに仕上げてしまう、妙... 『アルジェのイタリア女』が、国境を超え、言葉の壁を乗り越えて、ヨーロッパ中で人気を博したことに、納得。
というロッシーニを、スペシャリストであった、アバドで聴くのだけれど... アバドならではのすっきりとしたサウンドと、イタリア人のDNAが紡ぎ出すチャキチャキのコミカルさ!序曲からフィナーレまで、トリッキーな物語のおもしろさを絶妙なバランスを以って引き出し切る。しかし、何と言ってもすばらしいのは歌手陣!何よりもバルツァ(メッゾ・ソプラノ)が歌うイザベッラの、目が覚めるようなパフォーマンス!肩の力が抜け切っていながら、恐ろしくスムーズに発せられる一音一音の佇まいは、オペラを聴くという仰々しさが一切無く、イザベッラというキャラクターをそのまま実感できるかのようで、魅了されずにいられない。しかし、このナチュラルさ、ちょっと他に探せないかも... そんなバルツァ=イザベッラを取り囲む男性陣がまたキャラが立っていて、ツボ!なればこそ、このしょーもないような物語を、心底、楽しめるものにしていて最高!いや、オペラ・ブッファとして輝いている!ロッシーニの楽しさが、素直に弾けて、魅了されずにいられない。

Gioacchino Rossini
L'ITALIANA IN ALGERI
Claudio Abbado


ロッシーニ : オペラ 『アルジェのイタリア女』

ムスタファ : ルッジェーロ・ライモンディ(バス)
エルヴィーラ : パトリシア・パーチェ(ソプラノ)
ズルマ : アンナ・ゴンダ(メッゾ・ソプラノ)
ハリ : アレッサンドロ・コルベッリ(バス)
リンドーロ : フランク・ロパード(テノール)
イザベッラ : アグネス・バルツァ(メッゾ・ソプラノ)
タッデオ : エンツォ・ダーラ(バス)
ウィーン国立歌劇場合唱団

クラウディオ・アバド/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

Deutsche Grammophon/427 331-2




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