SSブログ

束の間の平和、踏み出される一歩、19世紀のハイドン。 [before 2005]

ポスト・モーツァルトの時代を、ベートーヴェンのピアノ協奏曲を軸に俯瞰してみよう... ということで、前回、1795年に完成した、ベートーヴェンの1番の2番のピアノ協奏曲を聴いたのだけれど、そんなピアノ協奏曲を引っ提げて、18世紀末、ベートーヴェンは、すでにピアニストとして活躍を始めていたわけだ。そうした中、ベートーヴェンの師、ハイドンもまだ健在で、『天地創造』(1799)、『四季』(1801)と、2つのオラトリオを世に送り出して、気を吐いている。まさに、ポスト・モーツァルトの時代の、興味深い情景!19世紀の人、ベートーヴェンと、18世紀の人、ハイドンが、同じ場所=ウィーンで活躍しているという、興味深さ... この新旧の重なりが、ポスト・モーツァルトの時代のおもしろさかなと... 考えてみると、何と贅沢な時代だったのだろう。で、ベートーヴェンの1番の2番のピアノ協奏曲の後に作曲された、ハイドンの2つのミサを聴いてみようと思う。
ニコラウス・アーノンクールが率いた、コンツェントゥス・ムジクス・ウィーンの演奏、そして、アルノルト・シェーンベルク合唱団らによる、ハイドンの天地創造ミサ(TELDEC/3984-26094-2)と、ハルモニー・ミサ(TELDEC/3984-21474-2)を聴く。


19世紀、最初の年のハイドン... 豊かな表情に、ロマン主義が覗く、天地創造ミサ。

3984260942
エステルハージ侯爵家から解雇(1790)されたハイドンが、再びエステルハージ侯爵家のために仕事をする。その仕事というのが、侯爵夫人の命名日の祝祭(平たく言うと、バースデイ・パーティー!)のための音楽... ロンドンから戻った翌年、1796年から、毎年、1曲、1802年まで、6曲のミサを作曲したハイドン。ここで聴くのは、1801年の祝祭のために作曲された、5曲目、天地創造ミサ(track.4-14)。1798年にウィーンで初演され、大成功した、オラトリオ『天地創造』のアダムとイヴの二重唱のメロディーが、グローリア(track.6)に用いられていることから、天地創造ミサと呼ばれる。で、引用される部分は、そう長いものではないのだけれど、オラトリオっぽい感覚というのか、物語っぽさがミサに落し込まれ、少し砕けた雰囲気が、おもしろい。侯爵が妻にプレゼントするミサだけに、アダムとイヴの仲睦まじい情景を織り込むのは、ハイドンならではのウィットであり、サービスだったかなと... なればこそ、表情に富む天地創造ミサ。侯爵夫人のためのミサ、2曲目、1796年に作曲された戦時のミサ(1797年の祝祭用... )が象徴するように、それまでフランス革命戦争(1792-1802)が続き、オーストリアは次第に劣勢に立たされ、ハプスブルク帝国は不安に包まれていたのだが、1801年にリュネヴィルの和約が結ばれ、束の間の平和が訪れる中での祝祭... 天地創造ミサには、緊張が解けた朗らかさが感じられ、印象的。また、その朗らかさを生む豊かな表情に、ロマン主義を予感させるところも... そこには、前年に完成し初演されたオラトリオ『四季』で見せる、脱古典主義?より人間的な、息衝く感覚が活かされていて... 18世紀の人、ハイドンも、ポスト・モーツァルトの時代を生きたひとり、その音楽は、弟子、ベートーヴェンとまでは行かなくとも、間違いなく新しい時代へと歩み出しており、19世紀、最初の年の音楽としての天地創造ミサを意識させられる。
という天地創造ミサを挟むように、アーノンクールはシューベルトの教会音楽を取り上げるのだけれど、それは、間違いなくハイドンの延長線上にある音楽で... 始まりのマニフィカト(track.1-3)の雄大さは、天地創造ミサから13年を経た1815年の作曲、ハイドン後を強く意識させられるものの、聴き進めて行くと、ハイドンへと還るようでもあり、おもしろい!そこからの天地創造ミサというのが、また絶妙!そして、最後のオッフェルトリウム「声をはりあげよ」(track.15)は、シューベルト、最期の年、1828年の作曲だけに、よりメロディアスで、まさに19世紀なのだけれど、一方で、モーツァルトやハイドンの感覚が、まだそこに生きていて... 1809年、ハイドンが世を去った時、シューベルトは12歳、巨匠から、直接、学ぶことは無かったものの、その遺産はしっかりと受け継がれているのだなと... そして、もしハイドンが19世紀を生きたなら、こういう音楽に至ったのではないか?ハイドンとシューベルトを並べることで、途切れることの無いウィーン古典派の大きな流れを示すアーノンクール、そのセンスに脱帽の1枚。そこには、アーノンクールにしっかりと応える、コンツェントゥス・ムジクス・ウィーン、アルノルト・シェーンベルク合唱団の確かなパフォーマンスも欠かせない。

HAYDN: SCHÖPFUNGSMESSE ・ SCHUBERT: MAGNIFICAT
CONCENTUS MUSCIUS WIEN ・ HARNONCOURT

シューベルト : マニフィカト D 498
ハイドン : 天地創造のミサ Hob. XXII:13
シューベルト : オッフェルトリウム 「声をはりあげよ」 D 963

クリスティーネ・エルツェ(ソプラノ)
エリーザベト・フォン・マグヌス(コントラルト)
ヘルベルト・リッペルト(テノール)
ジェラルド・フィンリー(バス)
アルノルト・シェーンベルク合唱団
ニコラウス・アーノンクール/コンツェントゥス・ムジクス・ウィーン

TELDEC/3984-26094-2




19世紀、2年目のハイドン... 18世紀を踏破しての感慨深さ、ハルモニー・ミサ。

3984214742
エステルハージ侯爵家のために再び仕事をし始めたハイドン、その最後、1802年の侯爵夫人(ちなみに、上のジャケットに描かれている人... )の命名日の祝祭のために作曲されたハルモニー・ミサ(track.1-11)。管楽器の合奏を意味する「ハルモニー」というニック・ネームで呼ばれるのは、まさにハルモニー=管楽が活躍するから... つまり、より充実したサウンドが響き出し、堂々たる風格を見せるハルモニー・ミサ。この作品は、エステルハージ侯爵家のための最後の作品になっただけでなく、ハイドンにとってもオーケストラを用いた大規模な作品の最後となる。ハイドンも70歳を迎え、かつてのようにタフには仕事をこなせなくなっていたのだろう、ハルモニー・ミサは、他のミサよりも倍の時間を掛けて作曲されたらしい。が、その分、集大成的な音楽が響き出す。それでいて、間違いなく、19世紀も響き出す。始まりのキリエの歌い出しの劇的なあたり、コーラスの重々しさ、壮大さは、ベートーヴェンのミサ・ソレニムス(1823)を予感させる。続く、グローリア(track.2)、ソプラノによるキャッチーなメロディーに導かれ、コーラスが歌いつなぐあたり、ちょっとオペラのような感覚がって、おもしろいのだけれど、そのコーラスはホモフォニックに歌い上げ、どこか革命歌を思わせるのか... 管楽が活躍し、サウンドが充実する一方で、聴く者にダイレクトに訴え掛けるようなハルモニー・ミサ。教会音楽というと、ポリフォニックに展開され、古めかしく、厳めしい印象があるけれど、そこから踏み出し、力強さやインパクトを生み出すに至ったハイドン。これが、18世紀、ウィーン古典派の巨匠の、長いキャリアの到達点だと思うと、感慨深いものがある。
その後で、エステルハージ侯爵家に仕え始めた頃、1763年のテ・デウム(track.16-18)と、1764年のカンタータ「今やいかなる疑いが」(track.12-15)を取り上げ、ハイドンの進化を見事に描き出すアーノンクール。きちんと対位法を繰り出し、古風さに包まれるテ・デウム。冒頭のレチタティーヴォ・アッコンパニャート(track.12)では、わずかにバロックの表情を残しつつ、ナポリ楽派流の華麗なるアリア(track.13)を繰り出すカンタータ。となると、その音楽、古臭く感じる?いやいやいや... それどころか、得も言えずフレッシュ!まだ30代前半だったハイドンの音楽は若々しく、これから黄金期を迎えるエステルハーザ(当時はまだ建設中... )の音楽を予感させる輝きに充ち、ハルモニー・ミサ(track.1-11)とはまた違う魅力を楽しませてくれる。
ハイドンのエステルハージ侯爵家での仕事の始まりと終わりを聴かせるアーノンクール。このマエストロならではの、作品それぞれの個性を引き出し、際立たせるあたりが、ハイドンの歩みをより強調して、音楽史そのものをダイナミックに聴かせてくれるかのよう。それは、天地創造ミサとシューベルトでも言えることで、カップリングの妙を引き立てる。そんなアーノンクールに対して、ハイドンの安定感を響かせるコンツェントゥス・ムジクス・ウィーンの演奏も見事。色彩感のあるハーモニーを聴かせるアルノルト・シェーンベルク合唱団、ソリスト陣も手堅く、ハイドンの幅のある魅力を余すことなく聴かせる。

HAYDN: HARMONIEMESSE ・ TE DEUM
CONCENTUS MUSCIUS WIEN ・ HARNONCOURT

ハイドン : ハルモニー・ミサ 変ロ長調 Hob.XXII:14
ハイドン : カンタータ 「今やいかなる疑いが」 Hob.XXIVa:4
ハイドン : テ・デウム ハ長調 Hob.XXIIIc:1

エヴァ・メイ(ソプラノ)
エリーザベト・フォン・マグヌス(アルト)
ヘルベルト・リッペルト(テノール)
オリヴァー・ヴィドマー(バス)
アルノルト・シェーンベルク合唱団
ニコラウス・アーノンクール/コンツェントゥス・ムジクス・ウィーン

TELDEC/3984-21474-2




nice!(3)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:音楽

nice! 3

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。