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2台のピアノで辿る、フランス音楽の厚み、幅... [before 2005]

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さて、大統領選を巡って、にわかに注目を集めるフランス(って、ここ東アジアでは、北の将軍様には敵わないのだけれど... )。極右の席巻、移民の増大、格差の拡大、共和政の弱体化、失われる伝統... そんな言葉を目の当たりにすると、一体、フランスはどうなってしまうんだ!?なんて、日本人の方が心配してしまいそう。いや、日本人は、「フランス」に対して、下手な幻想を抱きがちなのかもしれない。例えば、フランス革命にしても、そう輝かしいものではないし、現在に至るまで、何度、革命をやった?てか、マリー・アントワネットをギロチンに追いやってからというもの、結構、踏んだり蹴ったりなのが、フランスの真実の姿。ならば、今のフランスなんて、何も驚くことはありません。それでも抱いてしまう「フランス」という幻想を思うと、この国のブランド力の底力を思い知らされる。それだけの厚みや幅のあるフランス... そのあたりを音楽から辿ってみたらどうなるか?
ということで、フランス音楽... いや、音楽にこそ反映されるもの、炙り出されるものもあるなと、興味深く感じる多彩なフランス音楽... ジョス・ファン・インマゼールと、クレール・シュヴァリエのピリオドのピアノによる、サン・サーンス、フランク、インファンテ、プーランクの2台のピアのための作品集、"PIÈCES POUR PIANO"(Zig-Zag Territoires/ZZT 030903)を聴く。

始まりは、サン・サーンスの死の舞踏。なのだけれど、いつものオーケストラ版ではなく、2台のピアノ版(作曲者の編曲... )で聴く新鮮!オーケストラによる色彩豊かな世界から、ピアノだけ... それもピリオドのピアノによるアンティークなトーンに彩られての死の舞踏は、まるで古い銅版画を見つめるようで、雰囲気は満点!死神たちのステップが克明に浮かび上がり、オーケストラでは表現し切れない表情に、また新たな魅力を見出せるよう。で、死神が踊った後は、楽聖が踊る!ベートーヴェンの18番のピアノ・ソナタの3楽章、メヌエットを主題に、サン・サーンスが見事な変奏を繰り出したベートーヴェンの主題による変奏曲(track.2)。変奏曲の名手であるベートーヴェンを題材に、ベートーヴェンにまったく引けを取らない... というより、まるでベートーヴェンが変奏を繰り広げるかのような錯覚を覚える、雄弁で充実した変奏の連続に、サン・サーンスのフランス人離れした確かな技量に圧倒される。若かりし頃はドイツかぶれとも言われたサン・サーンスだけれど、16分にも及ぶ変奏、2台のピアノを用いてのシンフォニックなサウンドを目の当たりにすると、その音楽性のベースにドイツがしっかりと息衝いていることを思い知らされる。それにしても、唸ってしまうほど見事な変奏曲!惹き込まれる。
そんなサン・サーンスに続くのが、ベルギー出身(フランス語圏、リエージュ... )、フランクの、前奏曲、フーガと変奏(track.3)。フランクというと、フランスに在って、よりドイツ的な指向を持った作曲家なわけだけれど、ベートーヴェンの主題による変奏の後では、とてもフランス的に響く、前奏曲のメロディー。このメロドラマチックな表情は、何とも言えず、魅了される。が、その後で繰り出されるフーガの実直さは、バッハそのもの... 前奏曲、フーガと変奏は、元々、オルガンのための作品だけに、よりバッハっぽさを感じてしまうのかも... そんなフーガに続いて、再び前奏曲のメロディーが戻って、新たに変奏が始まるのだけれど、対位法を手堅く用いながら、メロドラマがバッハと結び付けられつつ、より美しい響きを織り成す!その美しさは、フランスならではのセンスかなと... ドイツ的な手堅さがありながらも、フランクの音楽は基本的にフランスの感性というものに貫かれている気がする。元ドイツかぶれ、サン・サーンスの後だと、そのあたりが際立つのかも... いや、振り返ってみると、サン・サーンスは、あえてヤリ過ぎなくらいにドイツを強調していたのか?脱ドイツへと向かったサン・サーンスと、ドイツへと傾くフランクを並べてみると、フランスとドイツのもどかしい関係性が浮かび上がるようで、興味深い。
さて、パリの音楽シーンに欠かせないのが、外国人音楽家の存在。フランクもそのひとりと言えるわけだけれど、パリが音楽の都であったればこそ、最高の音楽を求めて、多くの音楽家が集まって来ていた。このあたりが、フランス音楽をより豊かにする一方で、ナショナリズムに走らせる要因にもなるジレンマ... というあたりはさて置き、フランクに続いて、スペイン出身、パリで活躍したピアニスト、インファンテの3つのアンダルシア風舞曲(track.4-6)が取り上げられるのだけれど、これがまた、エキゾティック大好き国、フランスにはたまらなかっただろう、鮮やかなスペイン風味!いや、フランスに限らず、これはただならず魅惑的!1曲目、リトモ(track.4)の、小気味良く繰り出されるスペイン風のリズムに始まって、竹を割ったようなエキゾティシズムを存分に楽しませてくれる。で、最後は、フランス6人組から、プーランク... 悲歌(track.7)のメロドラマチックさ、シテール島への船出(track.8)のピクニックっぽい楽しさ、そのシテール島のテーマの元となった『仮面舞踏会』のカプリッチョ(track.9)のキッチュなセンス。サン・サーンス、フランクのアカデミックさに対して、庶民的な砕けた気分をお洒落に響かせるプーランク。これもまた、フランスであって... これまでにないフランスに、惹き込まれる。
という、実に多彩なフランスを聴かせてくれるインマゼール、シュヴァリエ。インマゼールらしい実直なタッチが、ピリオドのピアノのアンティーク感もあって、本来、色彩に溢れるフランス音楽に、独特の落ち着きを生みだし、魅力的。前半、アカデミックなサン・サーンス、フランクでは、2台のピアノを存分に活かして、骨太な響きを生み出し、後半、イロモノ的な音楽(なんて言ったら叱られる?)、インファンテのエキゾティックに、プーランクのポップを、少し抑えることで、薫りを引き出し、センスのいいお洒落感で包む。すると、前半と後半が絶妙に響き合い、フランスらしさのアラカルトとして、見事に流れを生み出す。シュヴァリエも、インマゼールのタッチにしっかりと寄り添い、確かな演奏を繰り広げ、2台のピアノならではのシンフォニックさを生みながらも、1台のピアノのように聴こえる一体感を紡ぎ出し、見事。そういう一体感があるからこそ、サン・サーンス、フランク、インファンテ、プーランクに、フランスという一本筋の通った魅力を引き出しつつ、フランスの多様性、幅を、卒なく繰り出し、魅了して来る。いや、本当に、魅了される。何て素敵なのだろう...

CHEVALIER - IMMERSEEL ・ PIÈCES POUR PIANO

サン・サーンス : 死の舞踏 Op.40 〔2台のピアノによる〕
サン・サーンス : ベートーヴェン主題による変奏曲 Op.35
フランク : 前奏曲、フーガと変奏 Op.18 〔2台のピアノによる〕
インファンテ : 3つのアンダルシア風舞曲
プーランク : 悲歌
プーランク : シテール島への船出
プーランク : 『仮面舞踏会』 による カプリッチョ

ジョス・ファン・インマゼール(ピアノ : 1897年生、エラール)
クレール・シュヴァリエ(ピアノ : 1904年製、エラール)

harmonia mundi/HMU 807553




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