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タイスの瞑想曲ばかりじゃない、マスネならではの確かな美... [before 2005]

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タイスの瞑想曲。知らない人はいない、クラシックの枠を越えて有名な曲だけれど、この曲がどういう曲であるかは、普段、あまり意識しない。で、どういう曲だったっけ?と、今さらながらに再確認... タイスの瞑想曲は、マスネのオペラ『タイス』の2幕の間奏曲として作曲されたもの。そうそう。そうでした。ソロ・ヴァイオリンが活躍するだけに、ヴァイオリニストのアンコール・ピースみたいなイメージがあるけれど、元々はオペラなのだよね... ということは、いつも聴いているやつは、ヴァイオリン用にアレンジされたものなのかな?なんて、漠然と思っていたら、いやいや、オリジナル自体が、そういう形なのでした。でもって、オペラでは、そこにコーラスが付く!しかし、こんなにも有名なのに、オペラ『タイス』に関してはスルーされ過ぎなのかも... そもそも、マスネの存在感が薄い... フランス・オペラの大家であるはずなのに、なぜだろう?改めて考えると、不思議...
ということで、マスネに、タイスに、改めて注目!トーマス・ハンプソン(バリトン)、ジュゼッペ・サッバティーニ(テノール)、そして、タイトルロールにルネ・フレミング(ソプラノ)という豪華なキャスティングで、イヴ・アベルの指揮、ボルドー国立歌劇場による、マスネのオペラ『タイス』(DECCA/466 766-2)。タイスの瞑想曲ばかりじゃない、マスネならではの確かな美に触れる。

ジュール・マスネ(1842-1912)。
フランス中部の小さな村、モントー(現在はサンテティエンヌの一部... )で、鋳物師を父に生まれたマスネは、5歳の時に一家でパリへと移る。母がアマチュアの音楽家で、ピアノを教えていたことから、マスネ家のこどもたちは早くから音楽の才能を見せ、特にマスネは際立っており、11歳でコンセルヴァトワールに入学(いやはや、フランス音楽というのは、神童ばかり... )。コンセルヴァトワールでは、ピアノ、作曲を学び、1863年にはローマ賞を受賞。となると、まさに順風満帆の人生に思えるのだけれど、けして裕福でなかったマスネ家、オペラ座のオーケストラでアルバイトをしたりと、苦学生でもあったマスネ... けど、そのオーケストラ・ピットでの仕事が、後のフランス・オペラの大家への道筋を付けたようにも思う。そんなマスネのオペラ・デビューは、1867年、オペラ・コミック座で初演された『大伯母さん』。だったが、間もなく普仏戦争(1870-71)が勃発、マスネも従軍する。そして、皇帝が呆気なくプロイセンの捕虜となると、第二帝政は崩壊し、パリでは、パリ・コミューンの蜂起により騒乱状態となる。そんな混乱も、間もなく落ち着き、マスネも再出発。そうした最中、1872年、オペラ・コミック座で初演された『バザンのドン・セザール』が大成功!ここからフランス・オペラの大家の歩みが始まる。
サン・サーンス(1835)の7つ年下、ビゼー(1838-1875)の4つ年下、フォーレ(1845-1924)の3つ年上となるマスネは、フランス音楽の復興期である、第三共和政下、ベル・エポックの時代に人気を集めたオペラ作家。で、その数々のオペラの鍵となるのが、悔い改めた女性... カルメンに象徴される宿命の=ファム・ファタルが大きなインパクトを与えた時代、市井の人々の常識を逸脱するファム・ファタルが、常識の枠に戻って来るという物語を展開することで、ある種の安堵感をもたらしたのがマスネだったか... だからこその人気だったのかもしれない。一般的なフランス人は、思いの外、保守的なのかもしれない。で、それをわかってオペラを書いていたマスネ... その頂点にあるのが、ここで聴く『タイス』... 古代末期、エジプトのアリクサンドリアで、高級娼婦として華やかな生活を送っていたタイスを主人公に、そのタイスに清らかな生活と心の平安を説く修道士、アタナエルとの、ある種の恋の物語が『タイス』の物語。いや、『ラ・トラヴィアータ』によく似ている!アルフレード=アタナエルの素直さ、真摯な思いが、やがてヴィオレッタ=タイスを目覚めさせ、行動をともにするも、2人を隔てる立場は大きく、結局、悔い改めた女性の死で、終わる。ある意味、道徳劇のようなものを感じなくもない。
で、その音楽... 1894年にオペラ座で初演された『タイス』には、19世紀のオペラの集大成のような、独特の存在感がある。ロマン主義に裏打ちされた19世紀の音楽の確かな蓄積の上に生み出される安定感というのか、見事に石橋を叩いて美しく渡り切るマスネ。1894年というと、そろそろ世紀末であって、ロマン主義は完成され、爛熟期に突入、ドビュッシーは、反ロマン主義として印象主義を展開、すでに『ペレアスとメリザンド』に着手していた頃... だけれど、そういう新しい潮流に流されず、保守を極めて、揺ぎ無い音楽を響かせる『タイス』。このあたりにマスネのオペラの音楽史における存在感の薄さの所以を見出せる気もする。しかし、保守を極めてマスネが至った境地というのは、まったく独特でもあって、その洗練、完成度は、聴き手にこの上ない掴み易さを与え、それは、後のミュージカルに通じるような感覚もあって、おもしろい。そうした中に、聴こえて来る、タイスの瞑想曲(disc.1, track.24)。あの穏やかで美しい調べは、タイスの回心を表し、物語の重要なターニング・ポイントを描き出す。それは、オペラ全体の白眉で、まるで魔法のよう。それほどの音楽なればこそ、タイスの瞑想曲は有名に... だけれど、『タイス』のターニング・ポイントとして聴くと、より映えることは間違いない。
という『タイス』を、フレミングのタイトルロールで聴くのだけれど... フレミングの豊潤な歌声が、マスネの確固たる美にぴったり。全てが芳しい音で確立された音楽を卒なく歌い上げ、マスネならでの美しさを見事に表現する。そして、そのタイスを回心させるアタナエルを歌うハンプソンが、瑞々しい人間像を描き出し、魅了される。修道士としての実直さを聴かせながらも、タイスに惹かれて行く苦悩を滲ませ、じっくりと歌い上げ、ドラマティック。どこか浮世離れしたタイスに対して、鮮やかなコントラストを描き出す。そこに、アベルの指揮、ボルドー・アキテーヌ国立管の、手堅く、卒の無い演奏が、歌手を引き立てながらも、マスネの瑞々しさをしっかりと奏で、タイスの瞑想曲を始めとする、歌以外の部分も魅惑的に仕上げる。

MASSENET THAÏS
FLEMING HAMPSON SABBATINI ABEL


マスネ : オペラ 『タイス』

タイス : ルネ・フレミング(ソプラノ)
アタナエル : トーマス・ハンプソン(バリトン)
ニシアス : ジュゼッペ・サッバティーニ(テノール)
パレモン : ステファノ・パラッチ(バス)
舞姫 : エリザベス・ヴィダル(ソプラノ)
クロビール : マリー・ドゥヴェレロー(ソプラノ)
ミルタール : イザベル・キャル(メッゾ・ソプラノ)
アルビーヌ : エンケレイダ・シュコサ(メッゾ・ソプラノ)
ニシアスの召使 : ダヴィド・グルセ(バリトン)
ボルドー・オペラ合唱団

イヴ・アベル/ボルドー・アキテーヌ国立管弦楽団

DECCA/466 766-2




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