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ピアニスト、モーツァルト、その成長の記録、ピアノ協奏曲。 [before 2005]

前々回、エステルハーザでのハイドンを、前回、ロンドンから帰って来てのハイドンを聴いて、"交響曲の父"の息の長い成長っぷりに、改めて凄いなと感心してしまう。エステルハージ侯爵家に仕えるのが1761年、それは、グルックがオペラ改革に乗り出す頃で、1770年代には疾風怒濤の波に乗り、1780年代にはエステルハーザにいながら国際的な名声を得て、パリでは偽ハイドンが出現するまでに... そして、すでに巨匠としての地歩を築きながら、1790年代、ロンドン・ツアーを成功させると、もう一皮剥けて、ヨーロッパ随一の大巨匠に!最後の大作にして、ロマン主義を予感させるオラトリオ『四季』は、19世紀、最初の年、1801年に初演されている。って、もう最後の最後まで、成長を止めないハイドン。その音楽の魅力は、じっくりと時間を掛けたればこそ、なのかもしれない。一方で、そういう時間の無かったモーツァルトはどうだろう?神童の音楽は、最初から完成されていたように錯覚しがちだけれど、もちろん、そんなことはない。モーツァルトは、35年という短い人生で、驚くべき成長のスピードを見せる。そんなモーツァルトの成長を、そのピアノ協奏曲から追ってみようと思う。
ということで、モーツァルトの輝かしき1780年代に再び戻り、ピアニストとして大活躍した頃、1784年から1786年に掛けて書かれた6つのピアノ協奏曲を、ピリオドで... アンドレアス・シュタイアーのピアノ、コンチェルト・ケルンの演奏で、18番、19番(TELDEC/8573-80676-2)、パトリック・コーエンのピアノ、クリストフ・コワン率いるアンサンブル・バロック・ドゥ・リモージュの演奏で、20番、21番(ASTRÉE/E 8589)、マルコム・ビルソンのピアノ、ジョン・エリオット・ガーディナー率いるイングリッシュ・バロック・ソロイスツの演奏で、22番、23番(ARCHIV/423 595-2)の3タイトルを聴く。


1784年、若手モーツァルト、ご機嫌なコンチェルト、18番、19番...

8573806762
1781年、ザルツブルク大司教に解雇され、フリーとなったモーツァルトは、ウィーンに拠点を移し、翌、1782年に、『後宮からの誘拐』で、ウィーンのオペラ・シーンにデビュー!早速、大成功するも、音楽政策の転換があり、次のオペラを作曲する機会をしばらく逸してしまう。という、次のオペラ、『フィガロの結婚』の誕生まで、ピアニストとしてウィーンの寵児となったモーツァルト!その活躍により、多くのピアノ協奏曲が生まれるのだけれど、『フィガロの結婚』の幕が上がるまでに、11番から24番まで、13曲も書いているから驚かされる。でもって、1784年に作曲された18番(track.1-3)と、19番(track.4-6)を聴くのだけれど... それは、モーツァルトの輝かしい1780年代、真っ只中、ご機嫌な音楽が響き出して、眩しいくらいにキラキラしている!モーツァルトらしい軽やかさに包まれ、人懐っこいメロディーが得も言えず聴く者の耳を擽る。けして気難しくなることなく、ピュアな心持で、楽しく音楽を紡ぎ出す心地良さたるや!一方で、その心地良さには、幾分、オールド・ファッションとも言うべき、ロココの愉悦や、前古典派のシンプルさの名残りも感じられ、晩年へと至る前(とは言っても数年後の話しなのだけれど... )の煮詰まった響きに比べると、まだまだ若いなと... しかし、若いからこその調子の良さ、ノリの良さこそ魅力の18番、19番。とにかくキャッチーで、そのあたりが愛らしく、魅了されずにいられない。
というキラキラとしたモーツァルトを、活き活きと奏でるシュタイアー。屈託無く、縦横無尽のそのタッチが、見事に若々しいモーツァルト像を捉えていて、得も言えず浮き立つものがある。晩年のピアノ協奏曲の厚みや、風格、あるいは一筋縄には行かない深みを考えると、少しチープにも思える18番、19番だけれど、そのあたりをポジティヴに繰り出して、キャッチーなあたりを強調すれば、一緒に口ずさみたくなってしまうほど、楽しさがパっと弾ける!一方、緩叙楽章では、より表情を掘り下げ、モーツァルトの若さにも巧みに豊潤さを引き出し、時折、ショパンを思わせるようなトーンを響かせてしまうシュタイアーの魔法。けして、有名な番号とは言えないピアノ協奏曲も、十二分に魅力的に仕上げてしまう。そんなシュタイアーの方向性を、これまた縦横無尽のコンチェルト・ケルンが、屈託の無い演奏で支えて、音楽をよりジューシーなものに... 楽しさと、ジューシーさが絶妙に結ばれて、ご機嫌なモーツァルトが、ますますキラキラしてしまう!

MOZART: PIANO CONCERTOS NOS. 18 & 19
ANDREAS STAIER ・ CONCERTO KÖLN

モーツァルト : ピアノ協奏曲 第18番 変ロ長調 K.456
モーツァルト : ピアノ協奏曲 第19番 ヘ長調 K.459

アンドレアス・シュタイアー(ピアノ : 1785年頃の製作、アントン・ヴァルターの複製)
コンチェルト・ケルン

TELDEC/8573-80676-2




1785年、大人のモーツァルト、風格漂い出すコンチェルト、20番、21番...

E8589
18番、19番の翌年、1785年に作曲された、20番(track.1-3)、21番(track.4-6)。いやー、この一年の飛躍は大きい!29歳になるモーツァルト、そろそろ若手ではいられなくなったか?20番のしっとりとした音楽に触れると、モーツァルトが大人になったことに感慨を覚える。あるいは、万年神童のようなイメージのあるモーツァルトも、大人だったことを再確認... そんな思いを強めるのが、モーツァルトのピアノ協奏曲の中でも特に人気を集める20番(track.1-3)。それは、短調の音楽で... 圧倒的に朗らかな古典主義の時代にあって、短調の物悲しさ、仄暗さは、その存在感を否が応にも際立たせる。そうして生まれるインパクト... 短調なればこそのドラマティックさ、深まる表情、そのあたりにロマン主義の到来を予感するところも。一方で、そのドラマティックさに、1770年代の疾風怒濤の雰囲気も漂う。が、その疾風怒濤の時代に書かれた同じく短調の25番の交響曲(1773)のような、猪突猛進型の悲劇性とは違って、しっかりと練られ、深みが加わっていることに、モーツァルトの成長を感じずにはいられない。そこから一転、朗らかな21番(track.4-6)が続くのだけれど、その朗らかさには厚みを見出し、風格すら漂うよう。どっしりと構えた上で、軽やかに繰り出されるピアノの音色には、バッハを思わせるような確かさもあって、またひとつ成熟した音楽が、しっかりとした聴き応えをもたらしてくれる。
という大人になったモーツァルトを、思いの外、実直に響かせるコーエン。雰囲気に流されず、一音一音をしっかりと鳴らす、竹を割ったようなタッチが、作品に絶妙に効いて、20番、21番、ともに印象的... 特に、有名な20番(track.1-3)は、ややもすると、そのメロドラマティックなあたりが、安っぽく感じられることがあるのだけれど、そういう部分を、実直さでもって整理し、雰囲気に流されず、スコアそのものだけを見つめ、スキっと鳴らして来るあたり、ピリオドならでは... なればこそ、大人になったモーツァルトの音楽が活きて来る。そんなコーエンのタッチが、さらに活きるのが21番(track.4-6)の明快な音楽。小気味の良いタッチが、モーツァルトのキラキラとしたサウンドを嫌味なく響かせて、最高!そんなコーエンを、思いの外、雄弁に盛り立てる、コワン+アンサンブル・バロック・ドゥ・リモージュ。スキっと鳴らすコーエンのピリオドのピアノに対して、コンパクトながら堂々たるスケール感を生み出していて、なかなかおもしろい。

MOZART CONCERTOS POUR PIANO NOS 20 & 21
PATRICK COHEN / CHRISTOPHE COIN / ENSEMBLE BAROQUE DE LIMOGES

モーツァルト : ピアノ協奏曲 第20番 ニ短調 K.466
モーツァルト : ピアノ協奏曲 第21番 ハ長調 K.467

パトリック・コーエン(ピアノ : アントン・ヴァルターの複製)
クリストフ・コワン/アンサンブル・バロック・ドゥ・リモージュ

ASTRÉE/E 8589




1785年から1786年へ、巨匠の余裕を窺わすコンチェルト、22番、23番...

4235952
そして、『フィガロの結婚』の作曲が始まる1785年に作曲された22番(track.1-3)、『フィガロの結婚』が初演される1786年に作曲された23番(track.4-6)を聴くのだけれど... ここまで、順を追ってモーツァルトのピアノ協奏曲を聴いて思うのは、モーツァルトの音楽の進化のスピード!普段、何気なく聴いていると、どれも同じような印象を持ってしまいがちなのだけれど、丁寧に見つめれば、けしてそんなとはない。年代順に並べれば、グイグイ成長するモーツァルトの姿を目の当たりにすることとなる。で、22番(track.1-3)。何たる余裕!21番の風格から、さらに余裕が感じられて、その堂々たる姿にどっぷりと浸かれる悦び!しかし、22番の白眉は、短調で綴られる2楽章、アンダンテ(track.2)... 単に短調で悲しげなのではなく、様々なトーンが結び付けられ、一筋縄には行かない深い色合いを生み出す妙。そんなモーツァルトの鋭敏な感性に圧倒される。対照的に、メローでわかり易いセンチメンタルを紡ぎ出す23番の2楽章、アダージョ(track.5)... 同じく短調によるメロディーは、時代を経てもなお新鮮で、ピアノが奏でるメロディーを追っていると、いつの時代の音楽を聴いているのか、わからなくなってしまう。そんな音楽に触れると、モーツァルトもまた希代のメロディー・メイカーだったなと... という緩叙楽章の後には、22番も、23番も、最高に華やかな終楽章があって、ぱぁっと花咲くようで、素敵。
その花々しさを存分に堪能させてくれるビルソン!ピリオドのピアノというのは未完成の状態であって、響きに制約が生まれ、またアンティークであるがゆえに、どこか枯れたイメージがあり、それが味わいとなったりするのだけれど、ビルソンのタッチは、一音一音が色彩に富み、ピアノのイメージが確立されてしまったモダンのピアノでは味わえない、未完成なればこその、まだ整理されていない様々な表情を見出せるのか... その表情が紡ぎ出す粋、お洒落感、そこから、ふわっと香り出す、輝かしい1780年代の記憶。22番の終楽章(track.3)の、軽やかにスキップするようなあたりに触れると、当時のモーツァルトの充実ぶりに、幸せを感じてしまう。その幸せを、さらに膨らせるガーディナー+イングリッシュ・バロック・ソロイスツ!ガーディナーならではのクリアさは、モーツァルトが書き込んだ音楽の隅々までを照らし、全ての瞬間を息衝かせ、見事!なのだけれど、息衝けば息衝くほど、切なくなってしまうのは、その後の顛末を知るからか...

MOZART: PIANO CONCERTOS NOS.22 & 23
BILSON/THE ENGLISH BAROQUE SOLOISTS/GARDINER


モーツァルト : ピアノ協奏曲 第22番 変ホ長調 K.482
モーツァルト : ピアノ協奏曲 第23番 イ長調 K.488

マルコム・ビルソン(ピアノ : 1780年製、アントン・ヴァルターの複製)
ジョン・エリオット・ガーディナー/イングリッシュ・バロック・ソロイスツ

ARCHIV/423 595-2




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