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1772年、修羅場を潜り抜けて、16歳、モーツァルト。 [before 2005]

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春だし、春めく音楽を聴きたいかな... ならば3月はモーツァルトで行こう!ということで、モーツァルトとその周辺を聴き始めて半月、改めてモーツァルトの時代のおもしろさにはまる。一方で、聴き逃している... というか、聴き流してしまって来たことに気付かされること多々あり。そんなことを感じたのが、前回、聴いた、1770年代前半の交響曲。モーツァルト青年が活躍した時代のヴァラエティに富んだ音楽シーン... その中で、思いの外、若い姿を見せるモーツァルト... 1770年代を意識しながら、お馴染みの作曲家と向き合うと、また違った表情を見出せるようで、興味深く、何より、「お馴染み」のイメージを越えて、作曲家をより近くに感じられた気がした。ということで、交響曲に続いて、オペラで1770年代... 16歳のモーツァルトが挑んだ、オペラ・セリア!
ニコラウス・アーノンクールが率いた、コンツェントゥス・ムジクス・ウィーンの演奏、ペーター・シュライアー(テノール)のタイトルロールを筆頭に、豪華絢爛な歌手たちによる、モーツァルトのオペラ『ルチオ・シッラ』(TELDEC/2292-44928-2)を聴く。

最初のイタリア旅行(1769-71)の成功により、10代にして国際的なキャリアをスタートしてしまったモーツァルト... 1770年、14歳、ミラノ、テアトロ・レージョ・デュカーレ(スカラ座の前身... )でのオペラ・セリア、『ポントの王、ミトリダーテ』の大成功が、次なるオペラの委嘱につながり、そうして誕生するのが、2作目のオペラ・セリア、『ルチオ・シッラ』。1772年、秋、未だ16歳の若き作曲家は、ガメッラ(後に、ダ・ポンテに代わってウィーンの宮廷詩人=イタリア・オペラの台本作家となった人物... )の台本を基に、ザルツブルクで作曲を始めるのだったが、以後、次から次へと困難が降りかかることに... まず、ガメッラが台本を改訂したため、完成されていたレチタティーヴォなどを書き直すはめに... さらには、キャスティングされていた歌手たちのミラノ入りが遅れ、アリアの作曲を思うように進められない状況に陥る。というのは、当時のオペラは、当て書きが基本。って、何て贅沢な!恐るべし18世紀... とか、感嘆している場合でなくて、土壇場になってタイトルロールを歌うテノールが病気で降板!代役の歌手は、初演の10日前にも到着せず、作曲は遅れに遅れ、てんやわんやの中、舞台稽古がスタート。もちろん、音楽は未だ完成しておらず、どーなってしまうんだ!という極限の状態を何とか切り抜けて、年末、初演の幕は上がる。いやはや、モーツァルトは、16歳にして修羅場をくぐっているわけだ。そして、こういう経験が、モーツァルトの音楽を磨き上げたのだと強く感じる。天才は、単に天才なのではなく、鍛えられて天才になった。
という、『ルチオ・シッラ』の音楽なのだけれど... 『ポントの王、ミトリダーテ』から2年、その間、セレナータを2つ手掛け、よりオペラというものを自らの物としつつあったのだろう、成長期のモーツァルト... 優等生的だった『ポントの王、ミトリダーテ』に対し、『ルチオ・シッラ』には、優等生を脱し個性が感じられ、後のオペラのように、グイっと聴き手を惹き込む力が、すでに存在している。何より、追い詰められて、創造のリミッターが外れてしまったか?一曲入魂というくらいに、ひとつひとつのナンバーがしっかりと書き上げられていて... 単に華々しいアリアが並ぶのではなく、それぞれの役柄に即したカラーがしっかりと響き出し、思いの外、立体的にドラマを展開して来る。それでいて、要所、要所で効かせる、レチタティーヴォ・アッコンパニャート(オーケストラ伴奏付きレチタティーヴォ)のドラマティック!グルックのオペラ改革に刺激を受けているのか?1幕のフィナーレ(track.15-19)などは、興味深く... チェチーリオのレチタティーヴォ・アッコンパニャートによる独白(track.16)から、美しいコーラス(track.17)が続き、ジューニアが切々と歌い出し... 途切れることなく続くナチュラルな展開の瑞々しいこと!
一方で、ガメッラの台本は必ずしも最高の物とは言えず、また交代した歌手が二流だったりと、モーツァルトの充実した音楽の足を引っ張るような要件が重なり、『ルチオ・シッラ』は、『ポントの王、ミトリダーテ』のような大成功には至らなかったらしい。が、古代ローマの将軍、ルキウス・スッラ(=ルチオ・シッラ)を主人公に描かれる物語は、『ポントの王、ミトリダーテ』の後日談となっており、意図されたかどうかはともかく、そうしたつながりは、なかなか興味深い。ポントの王、ミトリダーテを倒し、熾烈な権力闘争を繰り広げた最大のライヴァル、マルツィオ(ポントの王の敵役、ローマの護民官... )も今はこの世に無く、ローマの独裁官となったルチオ・シッラは、マルツィオの娘、ジューニアを我が物にしようとする。が、ジューニアには、追放されたマルツィオ派の元老院議員、チェチーリオという恋人がいて... 敗者の恋の行方と、政治対立の収束を描く『ルチオ・シッラ』。おもしろいのは、ミトリダーテを追い込んだ勢力が、『ルチオ・シッラ』では追い込まれる側に... 『ポントの王、ミトリダーテ』と合わせて『ルチオ・シッラ』の物語を辿ると、権力者たちの栄枯盛衰が浮かび上がり、歴史の壮大さを味わうよう。
そんな『ルチオ・シッラ』を、雄弁に聴かせてくれるアーノンクール+コンツェントウス・ムジクス・ウィーン。アーノンクールは、本来、3時間半に及ぶ長大なオペラ・セリアを巧みに短縮し、2枚組にまとめる。そうすることで、全体に絶妙な緊張感が生み出され、モーツァルトの音楽がより引き締まって響くよう。そうして、息衝く、ひとつひとつのナンバー... 充実したオーケストラ・サウンドに乗って、表情豊かな歌の数々が繰り出され、惹き込まれる。で、そのナンバーを歌う面々が凄い!ジューニアにコロラトゥーラの巨匠、グルベローヴァ(ソプラノ)、その相手役、チェチーリオに、バルトリ(ソプラノ)、ルチオの妹、チェーリアに、アップショウ(ソプラノ)、ルチオに反感を持つチンナに、ケニー(ソプラノ)、そして、ルチオ・シッラには、演技派、シュライアー(テノール)... 豪華絢爛かつ、これ以上なく手堅く、それでいて、活き活きとドラマを動かすことのできる面々... となれば、モーツァルトの音楽は隙無く輝き始める。その輝きに触れていると、この作品が本当に16歳の作品なのかと疑いたくなる。で、その輝きを圧倒的に強調して来るアーノンクール。ちょっと悪魔的かも...

MOZART ・ LUCIO SILLA
Harnoncourt

モーツァルト : オペラ 『ルチオ・シッラ』 K.196

ルチオ・シッラ : ペーター・シュライアー(テノール)
ジューニア : エディタ・グルベローヴァ(ソプラノ)
チェチーリオ : チェチーリア・バルトリ(ソプラノ)
チェーリア : ドーン・アップショウ(ソプラノ)
チンナ : イヴォンヌ・ケニー(ソプラノ)
アルノルト・シェーンベルク合唱団

ニコラウス・アーノンクール/コンツェントウス・ムジクス・ウィーン

TELDEC/2292-44928-2

モーツァルト、悪戦苦闘の1770年代から、輝かしき1780年代へ...
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