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生誕450年、モンテヴェルディ、新旧、自由自在! [before 2005]

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2017年、モンテヴェルディ、生誕450年のメモリアル!ということで、前回、モンテヴェルディの最初のオペラ、『オルフェオ』を聴いたのだけれど、その後のモンテヴェルディを追ってみることに... ということで、『オルフェオ』初演の翌年、1608年、マントヴァの宮廷は、ロイヤル・ウェディング(正しくは、デューカルだけれど... )に沸く!マントヴァ公の跡継ぎと、サヴォイア公女との結婚... 当然、マントヴァの宮廷も、最新のパフォーミング・アート、"オペラ"を上演して、ライヴァルの宮廷に見せ付けたい!で、その準備に追われることになった楽長、モンテヴェルディ... 楽長、多忙につき、マントヴァ公は、謝肉祭で上演するオペラのために、本場、フィレンツェから、注目の若手作曲家、ガリアーノを招く。そうして制作された『ダフネ』が評判になると、モンテヴェルディは臍を曲げてしまう。婚礼でのオペラ(「アリアンナの嘆き」のみが伝えられる伝説の『アリアンナ』... )は大成功するも、依然と続く給与問題に、若手から突き上げと、マントヴァの宮廷に不信感を抱き始めたモンテヴェルディ... そうして、1610年に出版された、聖母マリアの夕べの祈り... それは、新たなポストを探すためのポートフォリオ?
リナルド・アレッサンドリーニ率いる、コンチェルト・イタリアーノによる歌と演奏で、モンテヴェルディが勝負を賭けた力作、聖母マリアの夕べの祈り(OPUS 111/OP 30403)。オペラで培った最新の技術と、それまでの様々な技術が詰め込まれて、まるでモンテヴェルディの音楽の見本市!これは、いつもの教会音楽とは一線を画す、凄いものなのかも... という作品を聴く。

話しは、『オルフェオ』の制作が始まる少し前に遡る。マントヴァの街には、司教座が置かれた大聖堂の他に、マントヴァ公専用の聖バルバラ教会があるのだけれど、その楽長を務めていたガストルディが、1605年、ミラノの大聖堂の楽長に就任し、マントヴァを離れる。その穴を埋めるため、教会音楽も書くようになったモンテヴェルディ... 聖母マリアの夕べの祈りは、そうして生まれた作品で、やはり聖バルバラ教会のために作曲されたミサ「その時に」とセットで、聖都、ローマでの出版を目指す。で、なぜ、ローマだったか?長男を教皇庁付属神学校に入れるための、お受験の付け届けみたいなもの?というのは表向きで、実際は、ローマで某かのポストを得るための就活の履歴書のようなものだったみたい... しかし、ローマでの出版はならず、結局、ヴェネツィアで出版される。それが、3年後の、ヴェネツィア、サン・マルコ大聖堂の楽長への就任へとつながったか?
という、聖母マリアの夕べの祈りを、改めて聴いてみると、その音楽の多彩さに驚かされる。1610年というと、スペイン・ルネサンスの黄金期を担ったポリフォニーの大家、ビクトリア(1548-1611)、コーリ・スペッツァーティ(分割合唱)のヴェネツィア楽派の巨匠、ジョヴァンニ・ガブリエリ(1557-1612)は、まだ存命で、聖都、ローマの各聖堂では、パレストリーナ様式が頑なに守られていただろうことは容易に想像がつく。保守的な教会音楽の世界に、バロックの訪れは、まだまだ先のこと... そうした中、オペラからポリフォニー、コーリ・スペッツァーティまで、使える技術は何でも使い切って、ルネサンスからバロックに掛けての音楽のワンダーランドを見せてくれるような、聖母マリアの夕べの祈り。単に新しい技術を用いたのではなく、新旧を大胆につなぎ合わせることで、徹底して音楽を印象的に聴かせようという、モンテヴェルディのえげつなさも感じてしまう?旧から新を響かせて生まれる鮮烈さ、新から旧を響かせて生まれる壮麗さ... 新も、旧も、自由自在なモンテヴェルディのポテンシャルの高さを、嫌味なぐらいに盛り込んでいて、ウーン、モンテヴェルディって、結構、ヤなヤツだったかも...
って、聖母マリアの夕べの祈りが、ヤな音楽というわけではありません。ヤになるくらい凄い音楽。まず、その始まりから度肝を抜かれる!というのも、『オルフェオ』の序曲にあたるトッカータを、丸々、借りて来て、そこにコーラスが乗っかり、声を揃えて、シュプレッヒコールを繰り出すように歌う、第1曲、序詞。いや、21世紀の今でも衝撃的... 華やかで、キャッチーで、パワフルで、のっけから圧倒されてしまう。そこからは、旧来のポリフォニーを用いた詩篇と、器楽アンサンブルを伴奏にソリストが歌うコンチェルトが交互に歌われ、最後にマニフィカトが置かれるのだけれど、印象的なのはバロックの到来を物語るコンチェルト... オペラと見紛うようなものや、多声マドリガーレを思わすものと、多彩な音楽で織り成され、飽きさせない。一方の詩篇は、ルネサンス・ポリフォニーを踏襲するばかりでなく、コーリ・スペッツァーティが取り入れられるものあり、ホモフォニーで歌ってしまうところあり、メリスマで飾られるものあり、一筋縄では行かない音楽が織り成される。で、その多様さを以って、見事に全体を引き立て、唸ってしまう。そして、最後には、鮮烈にして感動的なマニフィカト(disc.2, track.4-15, 16-27)が... その音楽は、どこか東方的なマジカルさを漂わせ、悩ましくもあり、魅惑されずにいられない。
という、聖母マリアの夕べの祈りを、アレッサンドリーニ+コンチェルト・イタリアーノで聴くのだけれど... イタリアらしい明るく朗らかな色彩感で、丁寧に歌い、奏で、得も言えぬ雅やかさを醸し出す、コンチェルト・イタリアーノ。一方で、アレッサンドリーニならではの息衝く音楽も紡ぎ出され、全ての瞬間が濃密にも響き、聴く者をグイグイと惹き込んで来る。特にマニフィカトは圧巻で、2つあるヴァージョンの、最初に取り上げられる器楽アンサンブル伴奏版(disc.2, track.4-15)では、コンチェルト・イタリアーノの器楽部隊が鮮やかな演奏を繰り広げ、その鮮やかさに呑み込まれそう。もちろん、歌手陣もすばらしく... ひとりひとりから、しっかりとした個性が感じられ、そこに人間臭さも漂うようで、初期バロックの時代の生々しい表情をしっかり描き出し、ソロでも、コーラスでも、魅了されずにいられない。そうして、響き出す聖母マリアの夕べの祈りは、もはや教会音楽を越えて、圧倒的な魅力を放ちながら聴く者に迫ってさえ来るよう。凄い。

Monteverdi vespro della beata vergine
concerto italiano rinaldo alessandrini

モンテヴェルディ : 聖母マリアの夕べの祈り

リナルド・アレッサンドリーニ/コンチェルト・イタリアーノ

OPUS 111/OP 30403




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