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生誕450年、モンテヴェルディ、マントヴァにおける傑作。 [before 2005]

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2017年は、モンテヴェルディの生誕450年のメモリアル!
ということで、モンテヴェルディ(1567-1643)に注目したいと思うのだけれど、クラシックにおいて、今一、インパクトに欠ける存在?何となく、そんな受け止め方をされているように感じてしまう。が、音楽史からすると、驚くべき存在。西洋音楽、最大の転換点とも言える、ポリフォニーからモノディへの移行... それを、巧みに乗り切ったモンテヴェルディは、ルネサンスとバロック、両方のスタイルで、しっかりと作品を残した希有な作曲家。例えるならば、ルネサンス末から初期バロックに掛けてのシェーンベルク!世紀を跨ぎ、ロマンティックな作品も、12音技法を用いた作品も書いたシェーンベルクに重なるものがある。ただ、シェーンベルクのように、自らで新たな時代を切り拓いたわけではない... が、それまで培って来た自らのスタイルを乗り越えて、他所で生み出された革新を目敏く取り込み、時代の先端に立った器用さには、感心させられる。
でもって、モンテヴェルディが、前衛を自らのものとした、記念すべき作品を聴いてみる!ジョン・エリオット・ガーディナー率いる、イングリッシュ・バロック・ソロイスツの演奏、モンテヴェルディ合唱団のコーラス、アントニー・ロルフ・ジョンソン(テノール)のタイトルロールによる、モンテヴェルディの最初のオペラにして、代表作、『オルフェオ』(ARCHIV/437 068-2)!

今から450年前、1567年、ストラディヴァリ(は、まだ生まれていないのだけれど... )の町、クレモナで生まれたモンテヴェルディ。幼い頃からクレモナの大聖堂の聖歌隊で歌っていたようで、大聖堂の楽長だったインジェニェーリに師事、ルネサンス・ポリフォニーをしっかりと身に付け、15歳で聖カンティウンクラ集を出版(1582)!当時、楽譜を出版することは、大変なこと... となると、相当の逸材だったか、モンテヴェルディ... 1583年には、宗教的マドリガーレ集を、1587年には最初の世俗マドリガーレ集を出版し、マドリガーレの大家への道を歩み出す。それから間もなく、1590年、23歳の時、マントヴァ公、ヴィンチェンツォ1世(在位 : 1587-1612)に仕えることに... マントヴァの宮廷は、ルネサンス期に存在感を示した芸術の中心のひとつだったが、対トルコ戦にマントヴァ公が参戦すると、従軍楽長としてハンガリーの戦地まで赴いたりと、タフな仕事を強いられるモンテヴェルディ。一方、給与には不満で、また支払いも遅れたりと、苦労もあったよう... そうした中、音楽史における運命の日がやって来る。1600年、フィレンツェ、トスカーナ大公女とフランス王の婚礼で、生まれて間もない最新のパフォーミング・アート、"オペラ"が、多くの賓客を前に披露される。そして、その場に、モンテヴェルディもいたと考えられている(マントヴァ公に付き従い... )。そして、マントヴァの宮廷でもオペラ制作が始動する。
1602年、宮廷楽長となったモンテヴェルディは、マントヴァ公の命を受け、1606年、"オペラ"に取り組み始める。そうして選ばれた題材が、フィレンツェで披露された現存最古のオペラ『エウリディーチェ』と同じ、オルフェウスの物語... 宮廷詩人、アレッサンドロ・ストリッジョ(ルネサンス・ポリフォニーの大家として知られるストリッジョの息子... )と協力し、1607年に完成させた"オペラ"が、ここで聴く『オルフェオ』。多声マドリガーレ(ルネサンス)で名声を博していたモンテヴェルディが、単声であるモノディ(バロック)という当時の前衛を用いて、ひとつふたつの歌曲を書くのとは訳が違う、音楽劇を織り成す... 改めて考えてみると、これはもの凄い挑戦だったと思う。それをやり遂げたモンテヴェルディ、"オペラ"を体験してから7年、これだけのオペラを生み出せたことに、感心せずにいられない。ついこの間までルネサンス・ポリフォニーだったのが、こうも劇的にドラマが穿たれて行く衝撃!今一度、このオペラが、オペラ誕生から10年しか経ていないことを意識して聴いてみると、その凄さに圧倒される。フィレンツェの『エウリディーチェ』と比べれば、明らかにレチタール・カンタンド=歌いながら語ることが深化しており、詩と音楽の融合を目指したオペラ誕生の理念が、結晶化してさえいる。そういう点では、ヴェルディもワーグナーも敵わないとすら感じてしまう。で、第1作目で実現してしまったモンテヴェルディ、タダモノではない...
という『オルフェオ』を、久々に聴いてみると、深く魅了されずにいられない。もちろん、オペラ黎明期の作品だけに、渋いイメージがある。音楽としては、どうしてもストイックになるレチタール・カンタンドのせいか... が、丁寧に聴いてみれば、けして渋いばかりではない。1幕の牧人たちのバレット(disc.1, track.4, 5)は、ほのぼのとした楽しさが弾け、アルカイックな朗らかさに包まれる。2幕のオルフェオの歌(disc.1, track.7, 9)や、4幕、エウリディーチェを取り戻したオルフェオの喜びの歌(disc.2, track.8)には、その後のオペラを思わせるより音楽的な展開が見えて、レチタール・カンタンドに捉われないところが魅力的。一方で、レチタール・カンタンドによって表現される悲しみは、息を呑む。3幕、冥府へと渡るため、切々と歌われるオルフェオの歌(disc.2, track.3, 4)は、白眉。5幕、エウリディーチェ救出に失敗したオルフェオの打ちひしがれよう(disc.2, track.11)もただならない。そこからの、牧人たちが歌い踊るフィナーレ(disc.2, track.14)の弾けよう!レチタール・カンタンドが極まって、汲々となったところでの、思い掛けない明るさは、かえってカタストロフ、たまらない。
しかし、傑作。で、そう、改めて感じさせてくれる、ガーディナー+イングリッシュ・バロック・ソロイスツ。彼らならではの端正な音楽作りが、オペラ黎明期のアルカイックな魅力を際立たせつつ、後のオペラでは味わえない、よりクリアなドラマが息衝き、心に突き刺さって来る。そして、その中心にいるのが、タイトルロールを歌う、アントニー・ロルフ・ジョンソン(テノール)。まさにオルフェウス、澄んだ美しい声で、真っ直ぐにエウデリーチェの許へと向かって行く健気さが、見事に表現されていて、もう泣けて来る。そこに、様々な表情や色彩を与えるモンテヴェルディ合唱団がすばらしく、レチタール・カンタンドで渋くなるところを、ふわっと空気を変える役目を果たし、印象的。そうして、古典美と真に迫るドラマが渾然一体となって、大きな感動を生む。改めてモンテヴェルディの『オルフェオ』に触れると、圧倒される。多くの作曲家がオルフェウスの物語をオペラにしているけれど、モンテヴェルディほど、真に迫った作曲家はいなかったように思う。

MONTEVERDI: L'ORFEO
JOHN ELIOT GARDINER


モンテヴェルディ : オペラ 『オルフェオ』

オルフェオ : アントニー・ロルフ・ジョンソン(テノール)
エウリディーチェ : ジュリアン・ベアート(ソプラノ)
音楽 : リン・ドーソン(ソプラノ)
女の使者 : アンネ・ソフィー・フォン・オッター(メッゾ・ソプラノ)
ニンファ : ナンシー・アージェンタ(ソプラノ)
希望 : メアリー・ニコルズ(ソプラノ)
カロンテ : ジョン・トムリンソン(バス)
プロセルピナ : ダイアナ・モンタギュー(ソプラノ)
プルトーネ : ウィラード・ホワイト(バス)
アポロ/牧人 : ナイジェル・ロブソン(テノール)
牧人/こだま : マーク・タッカー(テノール)
牧人 : マイケル・チャンス(カウンターテナー)
牧人 : サイモン・バーチャル(バリトン)
霊 : ハワード・ミルナー(テノール)
霊 : ニコラス・ロバートソン(テノール)
霊 : ジョン・トムリンソン(バス)
モンテヴェルディ合唱団

ジョン・エリオット・ガーディナー/イングリッシュ・バロック・ソロイスツ

ARCHIV/437 068-2




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