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オペラ・ブッファ、最後の輝き、『チェネレントラ』。 [before 2005]

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今から100年前、フィンランドは独立した。ということを、前回、いや、その前から書いているのだけれど、なぜフィンランドが独立を果たせたかというと、そこにはロシア革命がある。ロシア帝国の一部だったフィンランドは、帝政の崩壊によって、独立を勝ち取るわけだ。そう、今から100年前、やがて世界を分断することになるロシア革命は成し遂げられた。とはいうものの、100年前なのである。100歳越えの元気なお年寄りたちがそう珍しくはない現在、そのおじいちゃん、おばあちゃんたちが生まれた頃、ロマノフ家は未だ玉座にあったかも、という史実... その後の100年に、ロシア帝国を遥かに越える、世界を二分したソヴィエトが出現し、100年も経たずに自滅した史実... 歴史を丁寧に見つめると、目まぐるしい。つまり、世界は、「変わる」ということが常態なのだなと... そして、歴史を学ぶことは、未来へ向けての変化に対応するシュミレーションなのでは?と、近頃、感じる。だからこそ、歴史を学ばなくてはいけない。過去を知るためではなく、未来のための歴史... って、話しがデカくなり過ぎました。軌道修正。で、さらに遡って、200年前。北欧が続いたので、ちょっと気分を変えて、イタリアへ!
リッカルド・シャイーが率いた、テアトロ・コムナーレ・ディ・ボローニャの演奏と合唱、チェチーリア・バルトリ(メッゾ・ソプラノ)のタイトルロールで、今年、初演200周年を迎える、ロッシーニの代表作のひとつ、オペラ『チェネレントラ』(DECCA/436 902-2)を聴く。でもって、笑う門には福来る。世の中、不確定要素に充ち満ちているけれど、楽しいブッファで、未来を切り拓くよ!

オペラの黎明期、悲劇と喜劇は未分化な状態にあった。神々に英雄、あるいは歴史上の人物は悲劇を、それに仕える市井の人々が喜劇を演じるという、不思議な二重構造を成していた。今からすると、かえって斬新な気もするのだけれど、オペラの発展には、悲劇と喜劇の分離は欠かせなかった。やがて、悲劇か、喜劇か、物語の方向性が整理されると、音楽の表現はより力強いものとなり、盛期バロックを迎える頃には、華麗なるオペラがヨーロッパ中を魅了することに... そうした中、18世紀に入ると、ナポリでオペラ・ブッファが登場。当初は、ナポリっ子向けの、ナポリ方言による砕けたオペラとして、ローカルな性質を持っていたオペラ・ブッファだったが、ナポリ楽派の巨匠たちが手掛けるようになると、オペラとしての成熟度を一気に増し、18世紀の後半には、オペラ・セリアに変わって、ナポリ楽派の看板にまで成長、ヨーロッパ中で人気を集める。その延長線上には『フィガロの結婚』といった傑作も生まれる。が、オペラ・ブッファにも、終わりが来る。それが、ロッシーニのオペラ・ブッファ... そして、ロッシーニ、最後のオペラ・ブッファとなったのが、今から200年前に初演された、『チェネレントラ』...
1817年1月25日に、ローマ、ヴァッレ劇場で初演された『チェネレントラ』。もちろん喜劇的なオペラは、その後も多く生み出されるわけだけれど、18世紀初頭に遡り、ナポリ楽派が広めたオペラ・ブッファの伝統を残す作品は、これが最後... そのことを踏まえ、改めて『チェネレントラ』を聴いてみると、何か古き良き時代の輝かしさのようなものが際立ち、どこかノスタルジックにすら聴こえるのかもしれない。チェネレントラ=シンデレラ、アンジェリーナの歌う、華麗なコロラトゥーラは、見事に美しく装飾され、まさに18世紀のもの。登場人物たちがアンサンブルを織り成して、スラップスティックに盛り上げるのも、音楽が重厚になって行く、その後のオペラでは難しくなるもの。何より、ロッシーニならではの軽やかな音楽は、ナポリ楽派の明朗さをそのまま受け継いで、輝かしき18世紀の集大成の観もある。モーツァルトが逝って四半世紀が過ぎ、その間にフランス革命は地に落ち、ナポレオンがヨーロッパ中を戦乱に巻き込んで、アンシャン・レジームは遠い過去に... そういう歴史的な背景を踏まえ、かつての伝統の内に作曲されたオペラ・ブッファを見つめると、何か切ないものを感じてしまう。また、前年に猛スピードで書かれた『セヴィーリャの理髪師』と比べると、『チェネレントラ』は繊細に感じられ、そのあたりに過去とのつながりも強調されるのか... とはいえ、『チェネレントラ』も、24日という恐るべきスピードで書き上げられている。
1813年、ヴェネツィアでの『タンクレーディ』、『アルジェのイタリア女』で、21歳にしてブレイクを果たしたロッシーニ。その後、ナポリに拠点を移し、わずかな間で国際的な名声を博しての1817年、多忙の中、ローマに招かれて書いた『チェネレントラ』である。25歳になる前の作曲家が、これほどの音楽を24日で書いてしまうとは、伊達にベートーヴェンを追い詰めていない、恐ろしい子、ロッシーニ... で、その恐ろしさには、きっちりと伝統に則りつつ、次なる展開もしっかりと見せるから凄い。オペラ・ブッファにして、単なる喜劇に終わらない真面目さ、素直さを盛り込む妙。そもそも、シンデレラの物語が喜劇ではない。それを器用に利用して、チェネレントラのアリアは、シンデレラの真っ直ぐな性格が強調され、他のキャラのヘンテコさを際立たせる。そして、その真っ直ぐさには、ロッシーニに続くベルカント・オペラの巨匠たちが書いたロマンティックなヒロインの登場を予感させる。華麗にして堂々たるアリア・フィナーレ(disc.2, track.19, 20)は、まさにプリマドンナ・オペラの予告... という『チェネレントラ』は、18世紀を磨き上げ、その先に新しい音楽を示す、転換点に咲いた美しい花なのだろう。
そして、その『チェネレントラ』を、さらに磨き上げたシャイー!隅々まで丁寧に、美しく仕上げて生まれる、得も言えぬ輝き!そのキラキラとしたサウンドが、18世紀の延長線上に立つロッシーニの姿を明確に浮かび上がらせて印象的。そんなシャイーにきっちりと応えるテアトロ・コムナーレ・ディ・ボローニャのオーケストラも素敵で、シャンパンの泡のように弾けるロッシーニならではの音楽を、軽快に奏で、心地良い流れを生み出す。その流れに軽やかに乗って、楽しい歌を繰り広げる歌手たちも見事!コミカルな表情を活き活きと歌いながら、重唱では一糸乱れぬアンサンブルを聴かせて、ワクワクさせられる。そこに、タイトルロールを歌うバルトリの落ち着いた佇まいが印象的で、シンデレラの成長と、王太子妃となってからの寛容が、美しく響き出し、聴き入るばかり。だからこそ、オペラ・ブッファの最後の切なさが際立つ。

ROSSINI
LA CENERENTOLA
Bartoli・Matteuzzi・Dara・Corbelli・Pertusi
Orchestra e Coro del Teatro Comunale di Bologna/Chailly


ロッシーニ : オペラ 『チェネレントラ』

チェネレントラ、アンジェリーナ : チェチーリア・バルトリ(メッゾ・ソプラノ)
ドン・ラミロ : ウィリアム・マテウッツィ(テノール)
ダンディーニ : アレッサンドロ・コルベッリ(バス)
ドン・マニフィコ : エンツォ・ダーラ(バリトン)
クロリンダ : フェルナンダ・コスタ(ソプラノ)
ティスベ : グロリア・バンディテルリ(メッゾ・ソプラノ)
アリドーロ : ミケーレ・ペルトゥージ(バス)

リッカルド・シャイー/テアトロ・コムナーレ・ディ・ボローニャ

DECCA/436 902-2




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