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2016年、今年の音楽、『ル・グラン・マカーブル』。 [before 2005]

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クリスマスを過ぎれば、今年も、もう終わり... いや、"やっと"終わるというのが、2016年の実際の印象ではないだろうか。とにかく、いろいろなことがあり過ぎて、年初の頃があまりに遠く感じられる。これまで巧みに隠されて来た闇は暴かれ、驚かされ、あるいは、溜め籠められて来たフラストレーションが各地で爆発し、世界が揺さぶられる事態が続く... 株の世界では、申年は騒ぐらしいのだけれど、株のみならず、まさに!な1年。で、酉年も騒ぐらしく... 「申酉騒ぐ」というのが、本来の言い方。つまり、この年越しは、折り返し地点。これから後半戦が始まると考えると、すでに気が重くなる。そんな思いにさせられる2016年を振り返って、今年の漢字、ならぬ、今年の音楽を選んでみた。ということで、音のタイル張り舗道。が選ぶ、2016年の音楽!
エサ・ペッカ・サロネンの指揮、フィルハーモニア管弦楽団の演奏、ロンドン・シンフォニエッタ・ヴォイセズの合唱、ヴィラード・ホワイト(バス・バリトン)らの歌による、リゲティのオペラ『ル・グラン・マカーブル』(SONY CLASSICAL/S2K 62312)で、聴き納め。

前奏曲はクラクション!カー・ホーン・プレリュードで始まる『ル・グラン・マカーブル』。プッ、プッ、プーッ!何とダダイスティックな!のっけから脱力してしまうのだけれど、幕が上がれば、ゲップ混じりの酔っ払いがフラフラとしている荒れた墓地。そんな場所で、アルバン・ベルクちっくな無調、耽美な音楽に彩られて、若いカップルが事に及んでしまっているという、いきなりの、未成年、お断り状態。すると、地の底から死の皇帝、ネクロツァールが現れる!という、往年のB級ホラーっぽさ全開!が、何だろう?この荒涼とした雰囲気... 1978年にストックホルムで初演された『ル・グラン・マカーブル』、それは、戦後「前衛」の音楽が限界を迎え、進むべき道を見失っていた頃のオペラと言えるのかもしれない。トーン・クラスターで鮮烈な音響を織り成したリゲティとはまったく異なり、飄々と音を発するオーケストラは、色彩に乏しく、歌手たちは、オペラでありながら、歌うことに、どこか投げやりで、掴み所の無い音楽が展開される。いや、まさにダダイスティック!何とも言えない殺伐とした表情を生み出す。そうして描かれる、死の皇帝、ネクロツァールにより終末を宣告された人間たちのグタグダな物語...
ダメ君主、ゴーゴー公が治める国、ブルーゲルランド。そこに、突如、現れたネクロツァール、死神は、自堕落な日々を送る人々に、まもなく終末が訪れることを触れながら、ゴーゴー公の宮殿を目指す。そのゴーゴー公の治世はというと、二大政党制が行き詰り、憲法は無視され、秘密警察が暗躍し、市民は怒り、暴動(って、ブルーゲルランドも申年だったのかな?いや、これはどこかで見た風景だぞ... )。そこにネクロツァールが到着、終末が迫っていることを知ると、人々は我先にネクロツァールに命乞いをする。そうした中、ワインを振る舞われたネクロツァールは、ゴーゴー公らとともに、すっかりできあがってしまい、泥酔... そこに、終末をもたらすはずの彗星の爆発が起こり、情けないことに、ネクロツァールは世を終わらせ損ねてしまう。死んだと思って目覚める人々... いや、どうも生きているみたいだぞ... という事態に、思わず自殺したくなる死神(って、ウケる!)。大いに自信を喪失したネクロツァールは、萎んで消えてしまう。でもって、このテイスト、アングラ演劇だよな... つまり、アングラの時代のアングラ・オペラなのだよな、これ... そんな風に捉えると、俄然、刺激的に感じられる!
というアングラ・オペラ、聴き進めて、気付くのが、終末のその時が近付くにつれ、オペラっぽくなって行くところ。ダダイスティックだった表情が、じわりじわりと音楽的な密度を高め、第3場、ネクロツァールの入場(disc.2, track.7)では、オーケストラが死神のおどろおどろしさと、終末が訪れようとしている不穏さをしっかりと響かせ、情景を鮮やかなものに... そこに、勿体ぶって、ネクロツァールが歌い出す(disc.2, track.8)と、まさにオペラ!もちろん、19世紀のオペラのようにアリアが歌われるわけではないのだけれど、オペラの体を成して行くことで、物語に緊張感がもたらされるのか。さらに、終末の時が迫る中(disc.2, track.12)、リゲティならではのトーン・クラスターが鳴り出し、緊迫感を高め、その終末の表情は、戦慄させるものがある。一見、しょうもないようで、実は、全てが巧妙に仕掛けられている『ル・グラン・マカーブル』。"アンチ・アンチオペラ"と定義されたリゲティ唯一のオペラは、戦後「前衛」の限界の先に、作曲家の強かさを見出し、感心させられる。
そして、このオペラの独特さを、抉り出すように聴かせる、サロネン!その冷徹な視点が、アングラ・オペラならではのいい加減な魅力を削ぎ落し、残酷なくらいに一音一音を露わにしてしまう。すると、荒涼としたサウンドが広がり、何とも言えず寒々しい。けれど、それくらいだからこそ、リゲティの巧みな仕掛けが浮かび上がり、驚かされることに... そんなサロネンに、しっかりと応えるフィルハーモニア管も見事!どう向き合えば良いのか戸惑うようなオペラを、徹底して明晰に鳴らし切る清々しさ!そういう生真面目さは、アングラ・オペラでは徒になるのではとも思うのだけれど、だからこそ引き出される思い掛けない美しさも... そして、ホワイト(バス・バリトン)のネクロツァールを筆頭に、活き活きと生々しい人間たちを演じ切る歌手たち!やり切って生まれるアングラ感は、最高!そうして見えて来る、『ル・グラン・マカーブル』の凄さ!

LIGETI ・ LE GRAND MACABRE
PHILHARMONIA ORCHESTRA ・ SALONEN

リゲティ : オペラ 『ル・グラン・マカーブル』

ヴィーナス/ゲポポ : ジブュレ・エーレルト(ソプラノ)
アマンダ : ローラ・クレイクム(ソプラノ)
アマンド : シャルロット・ヘレカント(ソプラノ)
メスカリーナ : ヤルト・ヴン・ネス(メッゾ・ソプラノ)
ゴーゴー公 : デレク・リー・レイギン(カウンターテナー)
ピート : グレアム・クラーク(テノール)
白大臣 : スティーヴン・コール(テノール)
黒大臣 : リチャード・スアート(バリトン)
ネクロツァール : ヴィラード・ホワイト(バス・バリトン)
アストラダモルス : フローダ・オルセン(バス)
ルフィアック : マーティン・ヴィンクラー(バリトン)
ショビアック : マーク・キャンベル・グリフィス(バリトン)
シャーバナック : マイケル・レスィター(バリトン)
ロンドン・シンフォニエッタ・ヴォイセズ(コーラス)

エサ・ペッカ・サロネン/フィルハーモニア管弦楽団

SONY CLASSICAL/S2K 62312




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