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オペラ改革を準備する、グルック、『ドン・ジュアン』の新時代。 [before 2005]

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1742年、グラウンのオペラによるベルリンの王立歌劇場の柿落とし、1747年、フリードリヒ大王へのバッハによる『音楽の捧げもの』。1749年、ラモーのトラジェディ・リリク、『ゾロアストル』の芳しくなかった初演、1752年に始まるブフォン論争でラモーは新しい時代の敵役に... が、1756年、しっかりと練り直された『ゾロアストル』の再演は、大成功。こんな風に18世紀半ばを辿って来ると、これまで感じられなかった18世紀の音楽の生々しさを味わう。それでいて、18世紀のたおやかなイメージは覆され、新旧がせめぎ合う姿に、創造の激しさを思い知らされる。だからこそ、刺激的な音楽が多く生まれたのだろう。多感主義や疾風怒濤の激しさは、新旧のせめぎ合いそのものを表しているのかもしれない。そうした時代をサヴァイヴし、キャリアを築いたグルック... バロックと古典主義の狭間の時代を巡って来た今月、その最後に、グルックのオペラ改革に注目してみる。
バッハが逝って10年が過ぎ、ラモーがその最後の仕事に取り掛かろうとしていた頃... ブルーノ・ヴァイルの指揮、ターフェルムジーク・バロック管弦楽団の演奏で、グルックのバレエ『ドン・ジュアン』と『セミラミス』(SONY CLASSICAL/SK 53119)を聴く。

1741年、ミラノでオペラ・デビューを果たしたグルックは、ヴェネツィア、ロンドン、ドレスデンといったバロック・オペラの中心地でキャリアを積み、ナポリ楽派の牙城、ナポリでの成功を手土産に、1754年、ウィーンへ... ここで、グルックは、新しい時代の作曲家として期待され、オペラ改革への道を歩み出すのだが、それを大きく前進させた存在が、台本作家、カルツァビージ(1714-95)。イタリアに生まれ、同郷の台本作家にして詩人、メタスタージオの影響下から出発したカルツァビージは、ブフォン論争が盛り上がる1750年代のパリで活動し、トラジェディ・リリクからも刺激を受け、新しいオペラの在り方を台本から摸索していた。そんなカルツァビージがウィーンにやって来るのが1761年、早速、グルックと組んで生み出されるのが、ここで聴く、バレエ『ドン・ジュアン』(track.1-32)。グルック+カルツァビージによるオペラ改革の金字塔、『オルフェオとエウリディーチェ』(1762)が誕生する前年の作品は、オペラ改革を準備した作品とも言え、興味深い音楽を繰り広げる。
『ドン・ジュアン』というと、どうしても、フィナーレ、遊び人、ドン・ジュアン(つまり、ドン・ジョヴァンニ... )の地獄落ち、復讐の女神たちの踊り(track.32)のインパクトに注目が集まりがちなのだけれど、そこに至るまでの端正な音楽、丁寧に物語を紡ぎ出そうとするグルックの手腕も光り、改めてオペラ改革を準備した作品として聴いてみると、古典美とドラマティシズムの絶妙なバランスが強く印象に残る。で、まずは、序曲... 短いながらも、しっかりと古典主義を響かせて、魅力的。かと思うと、オーボエがセンチメンタルなメロディーを歌う、第2曲、アンダンテ(track.3)では、イタリアン・テイスト... さらには、舞台となるスペイン情緒(track.20)も盛り込み、エキゾティシズムでも楽しませてくれる。また、バロック的なところあり、前古典派調あり、過渡期なればこそのスタイルの揺らぎも感じられ、それを巧みに利用するようなところも見せるグルック... 様々なスタイルを巧みに表情に変えて、豊かな音楽を繰り出す。その果てにやって来る、カタストロフ!ドン・ジュアンの遊び人っぷりを活き活きと聴かせた後で、そのツケを払うフィナーレ(track.32)の激しさ... 古典主義の後で、ガツンと疾風怒濤が吹き荒れる展開は、やっぱりインパクトがある。初演時、それは、結構、ショッキングだったらしいのだけれど、納得。端正な音楽が、突然、おどろおどろしい、まったく別の表情を見せるのだから... グルックも、なかなかギミック...
さて、『ドン・ジュアン』に続いて、1765年に初演された『セミラミス』(track.33-48)を聴くのだけれど、こちらは、ロッシーニのオペラで知られる、ヴォルテールの悲劇『セミラミス』に基づくバレエ。バビロニア版、オイディプスの物語といった風の、何ともバッド・エンドなストーリーを、皇太子、ヨーゼフ(後の神聖ローマ皇帝、ヨーゼフ2世... )の婚礼で上演し、大不評だったのだとか(そりゃ、そーだわ... )。けれど、音楽自体は、『ドン・ジュアン』よりも深まったドラマが感じられ、オペラ改革の成果が見事に還元されている。何より、ヴォルテールの悲劇を瑞々しく捉え、復讐の女神たちの踊りのようなインパクトこそないものの、上質な音楽がすばらしく、またそこに、ウィーン古典派の品の良さを見出し、その古典美の端正さに魅了されずにいられない。
そんなグルックのバレエを聴かせてくれるのが、ヴァイルの指揮、ターフェルムジーク・バロック管... まず、その息衝く演奏に、すっかり惹き込まれてしまう。グルックのバレエなんて、薄味?なんて思っていたら、ガツンとやられてしまう。ひとつひとつナンバーを、明晰かつ勢いを以って奏で、一気にフィナーレまで持って行く。ウィーン古典派らしい明るさを活かしながらも、物語に散りばめられた緊張感や、力強さを小気味良くすくい上げ、まったく飽きさせない。見事に物語を運ぶヴァイルに、ピリオドならではの個性を活かし、古典主義の明晰さにも癖のある物語の味わいを引き立たせるターフェルムジーク・バロック管... 彼らの演奏は、1760年代のウィーンの新しいムーヴメントを勢いを以って聴かせてくれる。

GLUCK: DON JUAN・SENIRAMIS ・ TAFELMUSIK・BRUNO WEIL

グルック : バレエ 『ドン・ジュアン』
グルック : バレエ 『セミラミス』

ブルーノ・ヴァイル/ターフェルムジーク・バロック管弦楽団

SONY CLASSICAL/SK 53119




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