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ブフォン論争を乗り越えて、ラモー、『ゾロアストル』の勝利! [before 2005]

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1747年、バッハは、フリードリヒ大王のいともロココな宮廷に乗り込んで、バロックの巨匠として対位法を駆使し、"時代遅れ"を逆手に取るような『音楽の捧げもの』をまとめ、気を吐いてみせた。18世紀半ばというのは、バロックの巨匠たちにとって厳しい局面であったと思う。迫り来る新しい時代に合わせるべきか?そもそも合わせられるのか?バッハが選んだ道は、実はラディカルで、時代を超越してみせて、結果、今、その音楽は、燦然と輝いているから、おもしろい。そして、『音楽の捧げもの』から2年後のパリ、1749年、フランス・バロックの巨匠、ラモーが初演したオペラが、またおもしろい変遷を辿り、さらに7年後の1756年、勝利する。
ということで、ウィリアム・クリスティ率いる、レザール・フロリサンの演奏と合唱、マーク・パドモア(テノール)のタイトルロールで、ラモーのオペラ『ゾロアストル』(ERATO/0927 43182-2)。新旧がせめぎ合う中、バロックを進化させ、驚くべき新しさを放ったオペラを聴く。

1749年に、パリ、オペラ座で初演された、ラモーのトラジェディ・リリク『ゾロアストル』。が、成功とは言えなかった。リュリ以来のトラジェディ・リリクも、かつての熱狂は薄れ、パリっ子たちは、すでに新しいオペラを求め始めていたのかもしれない。そうした中、突如、イタリアからやって来たペルゴレージのインテルメッゾ『奥様女中』!1752年、ひょんなことでオペラ座で上演されたナポリ楽派の幕間劇は、思い掛けなくセンセーショナルを巻き起こし、イタリアの軽快なスタイルが、フランス楽壇を大きく揺さぶることになる。ブフォン論争!フランス・バロックの伝統、荘重なる抒情悲劇=トラジェディ・リリクを重んじる国王派に対し、イタリアからの明快な新しい風に乗ろうとする王妃派による文化論争... それは、オペラの在り方ばかりでなく、思想まで巻き込み、時代を象徴するような広がりを見せる。そして、1753年、思想家、ルソー(百科全書派だけに、マルチな才能を発揮したわけだけれど、音楽の世界でも大活躍!ブフォン論争では王妃派として大きな役割を果たす... )が、イタリアのオペラ・ブッファに影響を受けて作曲したアンテルメード『村の占い師』が大成功!トラジェディ・リリクを背負って立つラモーは、槍玉に挙げられることに... そういう状況の中で、練り直された『ゾロアストル』が、1756年、再演される。
で、ここで聴くのは再演版... でもって、再演するにあたり、よく練られたことがわかるその音楽!トラジェディ・リリクでも、まだまだ新しいことはできるんだ!という思いが漲っていて、その思いの強さが、バロック・オペラの形を変化させ、オペラ改革や疾風怒濤を先取りするのか。レシタティフ(レチタティーヴォ)とエール(アリア)は融け合うようなところもあり、ナンバー・オペラを脱し、重唱や合唱を巧みに綾なして、グルックの『トーリードのイフィジェニ』(1779)を思わせる密度を実現している。いや、グルックが、如何にラモーのスタイルを継承していたかを思い知らされる。何より、イタリアの明快さに頼らず、新たな扉を開こうとしたラモーの挑戦に感心するばかり... そうした中で、印象的なのが、悪の勢力を描き出す音楽の荒ぶり!もはや、疾風怒濤... バロックの劇的な性格の力強さを、より大胆に解き放って描き出される情景は、疾風怒濤級のインパクトを生み、圧巻!それでいて、ドラマティックな音楽の表情を追っていると、ベルリオーズのオペラすら予感できそうな瞬間も... 新しい時代から突き上げにあったラモーだったが、『ゾロアストル』の再演版には、伝統を進化させることで、さらに先を予見する音楽を手繰り寄せ、見事。結果的に"新しさ"でまったく負けていない。そして、再演は、大成功となった。
さて、『ゾロアストル』の物語なのだけれど、古代ペルシアで信仰されたゾロアスター教の教祖、ゾロアスター=ゾロアストルを主役に、ゾロアスター教の教義、善悪二元論を反映して、善なるゾロアストルと、悪の神官、アブラマーヌの対決を軸に、バクトリア(現在のアフガニスタンにあった、古代のヘレニズム国家... )の王位継承争いがあり、王位継承者の王女、アメリートとゾロアストルの恋があり、ゾロアストルに恋するもうひとりの王女、エリニスもおり、気難しい倫理学、宗教学に陥るようなことは一切無し。というより、マジカルでスペクタクル!なのだけれど、ゾロアスターを登場させたあたりは、フリーメイソン(啓蒙主義を影ながら主導する... )の影響(よって、モーツァルトの『魔笛』と似ているところも!)があって、実は、『ゾロアストル』は、アンチ・バロック・セクターのオペラ?トラジェディ・リリクのお約束、プロローグ=王権のプロパガンダがカットされていて、思想的には、ブフォン論争の王妃派に共鳴する、異色のトラジェディ・リリクとも言えるのかも... で、この一筋縄では行かないポジションが、『ゾロアストル』をよりおもしろいものにしている気がする。二元論のようには行かない複雑さ...
そんな『ゾロアストル』を聴かせてくれるのが、クリスティ+レザール・フロリサン。いや、見事!このオペラの複雑さ、新旧の割り切れなさを乗り越えて、ラモーの意気込みをありのままにすくい上げる。クリスティの音楽作りは、明朗で、キラキラと輝くようなところがあるけれど、『ゾロアストル』では力強く荒ぶるようなドラマティックさも厭わず、強く惹き込まれずにいられない。いや、だからこそ疾風怒濤を思わせ、ロマンティックに響くところすらあるのか... 音楽史の壮大さを濃縮するような力強さに魅了される。そして、実に雄弁な歌手陣!パドモア(テノール)のヒロイックなゾロアストル、バーグ(バス)のパワフルなアブラマーヌの対置が鮮やかで、そこに、メシャリー(ソプラノ)の可憐なアメリート、パンザレッラ(ソプラノ)の劇的なエリニスが色を添え、ドラマを息衝かせる。さらに、レザール・フロリサンのコーラス部隊!勢いのある歌声が最高。それらが、渾然一体となって、ラモーの隠れた傑作に新たな魔法を掛ける!いや、これは凄いオペラ!

RAMEAU ZOROASTRE
Les Arts Florissants WILLIAM CHRISTIE

ラモー : オペラ 『ゾロアストル』

ゾロアストル : マーク・パドモア(オート・コントル)
アブラマーヌ : ネイサン・バーグ(バス)
アメリート : ガエル・メシャリー(ソプラノ)
エリニス : アンナ・マリア・パンザレッラ(ソプラノ)
ゾピール : マテュー・レクロアール(バス)
ナルバノール : フランソワ・バゾラ(バス)
オロマゼス : エリック・マルタン・ボネ(バス)
セフィー : ステファニー・レヴィダ(ソプラノ)

ウィリアム・クリスティ/レザール・フロリサン

ERATO/0927 43182-2




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