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マンハイム楽派、集大成のオペラに浮かぶ、19世紀、ドイツ... [before 2005]

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マンハイム楽派というと、交響曲のイメージがあるのだけれど、マンハイムの宮廷では、オペラも欠かせなかった。1742年に、マンハイム城に劇場が完成して以後、オペラは宮廷音楽の重要な位置を占める。そして、プファルツ選帝侯のいとも豪華なる音楽生活は完成された!週に2回ほどのオペラ上演は、上演の後に夜食と室内楽のコンサートがあり、オペラの上演が無い時は、「アカデミー」と呼ばれた交響曲のコンサートがあって... 嗚呼、何と言う音楽三昧!で、さらにフランス語劇、バレエもあって... こうなって来ると、劇場とコンサート・ホールを併設した芸術センターで生活しているようなもの... 恐るべしマンハイム!一方で、オペラとコンサートのバランスがしっかり取れていることが、マンハイムの宮廷を際立たせている。それは、プファルツ選帝侯の音楽愛が、本物だった表れだろう。だからこそ、新しい挑戦を許容する度量を生み、マンハイムは輝いたわけだ。
ということで、マンハイムの交響曲に続き、マンハイムのオペラ!そのマンハイムのオペラを交響曲に負けず、盛り立てた宮廷楽長、ホルツバウアーに注目... ミヒャエル・シュナイダー率いる、ラ・スタジオーネの演奏とコーラス、ロベルト・ヴォルレ(テノール)のタイトル・ロールで、ホルツバウアーのオペラ『ギュンター・フォン・シュヴァルツブルク』(cpo/999 265-2)を聴く。

イグナツ・ヤコプ・ホルツバウアー(1711-83)。
1711年、ウィーンの皮革商人の家に生まれ、特に音楽が身近であったわけではなかったものの、音楽に強い関心を示したホルツバウアー少年... だったが、家業が傾き、息子に安定した仕事を望んでいた父の意向に沿い、法学の道に進むことに... しかし、音楽の道は諦め切れず、シュテファン大聖堂の聖歌隊のメンバーから音楽も学び始め、シュテファン大聖堂の楽長で、ウィーンの宮廷楽長、フックスが著した音楽理論書『パルナッソスへの階梯』を読み込み、独学で音楽の基礎を完成させたホルツバウアー青年。やがて、フックス、その人を訪ねるも、もはや教えるものは無いと言わしめたのだとか... 20代の初め、そのフックスの勧めで、ヴェネツィアへと渡るも、体調を崩し、道半ばで帰国を余儀なくされる。が、間もなく、モラヴィアの貴族、ロッタル伯の楽長のポストを得て、一角の音楽家として独り立ちを果たし、1741年、ウィーンのブルク劇場が開場すると、その音楽監督に招かれる。しかし、オーストリア継承戦争(1740-48)で、ウィーンはオペラどころではない状況... そこで、ホルツバウアーは、改めてイタリアを巡る許可を得て、3年もの間、イタリアの最新の音楽を吸収、その成果をウィーンへと持ち帰る。それからしばらくブルク劇場で活動した後、1751年、ヴュルテンベルク公の宮廷に招かれ、シュトゥットガルトに移る。1753年には、プファルツ選帝侯の夏の離宮、シュヴェツィンゲン城で上演するオペラの委嘱を受け、その成功により、マンハイムの宮廷楽長に就任。マンハイムのオペラの充実を図ることになる。
その、マンハイムのオペラの集大成、『ギュンター・フォン・シュヴァルツブルク』を聴くのだけれど... カール・テオドール候の宮廷が、ミュンヒェンへと移る前年、1777年、マンハイム城の劇場で初演されたこの作品は、パリへと向かう前、モーツァルトもこの上演に触れ、その音楽を称賛、大きな影響を受けている。それだけに、古典派のオペラとして、堂々たる風格を響かせて、見事!一方で、このオペラを特徴付けるのが、インターナショナルな古典主義の時代にあって、"ドイツ・オペラ"を意識させるところ。ドイツ語で歌われる『ギュンター・フォン・シュヴァルツブルク』の舞台は、中世のドイツ。対立王に選ばれたシュヴァルツブルク・ブランケンブルク伯、ギュンター(1304-49)の史実に基づく渋い物語は、古典派のオペラ(「古典」だけに、古代ギリシア、古代ローマの神話や史劇... )とは一線を画し、ドイツ・ロマン主義を予感させなくもない。それでいて、イタリア・オペラのように全編を歌い切り、18世紀のドイツ語によるオペラの定番、歌芝居=ジングシュピールを乗り越え、ワーグナーすら予見できてしまいそう。ドイツ語によるレチタティーヴォが、全てのナンバーを結び、またそこには、オペラ改革の影響も表れていて、ドラマティックなレチタティーヴォ・アッコンパニャート(オーケストラ伴奏付きのレチタティーヴォ)が、物語の密度を高め、重唱、合唱が巧みに綾なされ、バロック以降、陥りがちだった、スター主義のナンバー・オペラとは決別する雄弁さを秘めている。交響曲ばかりでない、マンハイムのオペラの先進性を聴かせてくれる。
という、マンハイムのオペラの集大成を、丁寧に描く、シュナイダー+ラ・スタジオーネ。3枚組の長丁場も、ひとつひとつのナンバーを隙無く奏でて、古典派ならではの端正さを引き立てつつ、その端正さにホルツバウアーの音楽の骨太感をそこはかとなしに引き出し、繊細さを伴った聴き応えが印象的。そこに、表情豊かな歌手たちが、手堅いドラマを紡ぎ出し... 悲劇の英雄、ギュンターを歌うヴォルレの真摯なテノール。そのギュンターを王に推す、プファルツ選帝侯、ルドルフを歌うショッパーの深いバス。その娘、アンナを歌うマクファーデンのお姫様なソプラノ。アンナに恋するギュンターのライヴァル、カールを歌うプレガルディエンの朗らかなテノール。カールの母で、息子を何とか王にと策を巡らすアスベルタを歌うバルタのマッドなソプラノ。見事にキャラが立つ5人の歌手が、絶妙なアンサンブルを成して、聴き入ってしまう。さらに、ドラマの要所で要所で活躍するヴォーカルアンサンブル・ラ・スタジオーネの真っ直ぐなコーラスも印象的で、安易なナンバー・オペラに留まらない『ギュンター・フォン・シュヴァルツブルク』の魅力をしっかりと引き立てる。

Ignaz Holzbauer ・ Günther von Schwarzburg
Prégardien ・ Schopper ・ Wörle ・ La Stagione Orchestra ・ Schneider

ホルツバウアー : オペラ 『ギュンター・フォン・シュヴァルツブルク』

ギュンター : ロベルト・ヴォルレ(テノール)
ルドルフ : ミヒャエル・ショッパー(バス)
アンナ : クロラン・マクファーデン(ソプラノ)
アスベルタ : クラリー・バルタ(ソプラノ)
カール : クリストフ・プレガルディエン(テノール)
ヴォーカルアンサンブル・ラ・スタジオーネ(コーラス)

ミヒャエル・シュナイダー/ラ・スタジオーネ

cpo/999 265-2




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