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早咲きロマンティック、グルック、パリ時代の疾風怒濤! [before 2005]

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さて、11月となりました。気が付けば、木々がしっかりと色付いて来ていて、目に見えて秋の深まりを感じる今日この頃... そんな秋の深まりの中、「ロマン主義」について、いろいろ見つめて来たのだけれど、その源流はどこにあるのだろう?ふと思う。18世紀、アンシャン・レジームの花やかな中で育まれた古典主義の延長線上に、ロマン主義は存在しないように感じる。ロマン派の音楽は革命世代の音楽であって、古典主義に対するカウンター・カルチャー。となると、その源流は、古典主義を飛び越して、その前の時代へと遡るか?例えば、ロマン主義の音楽に多大な影響を与えたゲーテ(1749-1832)が駆け出しだった頃、『若きウェルテルの悩み』(1773)を発表し、一大旋風を巻き起こした疾風怒濤の時代... ロマン派の作曲家たちがインスパイアされたゲーテの、その芸術性が育まれた時代に、19世紀、ロマン主義の音楽の源流を探ってみようかなと...
ということで、疾風怒濤を切り拓いた作曲家とも言える存在、グルック!マルク・ミンコフスキ率いる、レ・ミュジシャン・デュ・ルーヴルの演奏、コール・デ・ミュジシャン・デュ・ルーヴルの合唱、リチャード・クロフト(テノール)、ミレイユ・ドランシュ(ソプラノ)のタイトルロールで、グルックの代表作、オペラ『オルフェオとエウリディーチェ』のパリ版(ARCHIV/471 582-2)を聴く。

1762年、ウィーンで初演されたグルックの代表作、『オルフェオとエウリディーチェ』は、スター歌手が牽引するエンターテイメント化したイタリアのオペラへのアンチテーゼとして、オペラ誕生の理念に帰り、詩と音楽の高次元での融合を試みたオペラ改革の集大成... それから8年が経ち、1770年、グルックが楽長を務めていたウィーンのハプスブルク家の宮廷から、皇女、マリア・アントニアが、フランス、ブルボン家へと嫁ぎ、王太子妃、マリー・アントワネットとなる。これを切っ掛けに、1773年、かつての皇女の音楽教師、グルックが、音楽の都、パリ(18世紀、音楽の都は、ウィーンではなくパリ... )へと進出!1774年の春、早速、『オーリードのイフィジェニ』で、大成功。その勢いを駆って、旧作、『オルフェオとエウリディーチェ』を、フランス向けに仕立て直し、夏に上演したのが、ここで聴く、パリ版。イタリア語の台詞は、フランス語訳され、カストラートを嫌ったパリっ子たちの趣味に合わせ、オルフェオ(フランス語ではオルフェ)をテノールに変更、また、フランスのバレエ愛に応え、バレエ・シーンを拡充。そして、最も進化した部分が、パリ、オペラ座の大規模なオーケストラに合わせての、新たなオーケストレーション。リュリ以来のトラジェディ・リリクの伝統を踏襲し、物語全体がより劇的となり、ウィーンでのオリジナルとは一線を画す雄弁な音楽を生み出す。となると、もはや、別のオペラと考えるべきなのかもしれない...
『オルフェオとエウリディーチェ』がウィーンで初演された12年後、パリで生まれ変わった『オルフェとウリディス』。2つのオペラを聴き比べると、グルックの進化、時代のうつろいがしっかりと聴き取れて、とても興味深い。何より、疾風怒濤として、ヴァージョン・アップされた『オルフェとウリディス』のドラマティックさに目を見張る!古典美を極めて、取り澄ました印象のあるオリジナルが、見事に変身を遂げ、序曲から息をもつかせぬ劇的展開。その在り様は、ベルリオーズのオペラを予感させ、プレ・ロマン主義と呼びたくなるほど。特に、合唱の力強さは圧巻で、2幕、1場(disc.1, track.19-29)、冥府でオルフェに立ちはだかる亡霊たち、復讐の女神たち、悪魔たちの迫力は、18世紀のオペラのスケール感を完全に逸脱している。さらに印象的なのが、バレエ・シーン... 2幕、1場の終わり、復讐の女神のエール(disc.1, track.29)では、疾風怒濤の音楽の端緒とも言える、グルックのバレエ『ドン・ジュアン』(1961)のフィナーレが引用され、ボルテージは上がる!そして、大団円の後のバレエ・シーン(disc.2, track.11-17)では、ベートーヴェンの交響曲を思わせるパワフルさが現れ、まるで、モーツァルトの時代(1780年代)を飛び越してしまったかのような錯覚を覚えるほど... いや、驚かされる。
という先進性の一方で、同時代的な魅力も聴かせるウィーンの巨匠。パリのために新たに用意されたナンバー、オルフェが歌うアリエット(disc.1, track.18)の輝かしいコロラトゥーラは、まさに18世紀後半のイタリア風の華麗さ!オペラ改革からは後退しつつも、1幕のアリア・フィナーレを成すナンバーとしては最高!ナポリ楽派と人気を二分したパリのグルックは、したたかにライヴァルのスタイルも引き込んで、その魅力に幅を持たせている。で、忘れてならないのが、『オルフェオとエウリディーチェ』の名ナンバー、「エウディリーチェを失って」(disc.2, track.6)。当然ながらフランス語で歌われるのだけれど、これが効いていて、また違った表情を見せるのか... カウンタテナーではなく、テノールで歌われると、より人間味に溢れた表情を生み出していて、オリジナルのアルカイックさとは違い、メロディーが息衝き、聴く者に迫って来るよう。それがまた、ロマンティック... そんな変化がとても印象的で、疾風怒濤によるオペラがどういうものかを如実に示しているように感じる。
という、『オルフェとウリディス』を聴かせてくれたミンコフスキ+レミュジシャン・デュ・ルーヴル... 彼らが取り上げれば、当然、熱いものになるわけで、だからこそ、疾風怒濤は、まさに疾風のように、怒涛の物語を展開して、強く惹き込まれる。これは、『オルフェオとエウリディーチェ』では絶対に味わえない感覚であり、ミンコフスキ+レミュジシャン・デュ・ルーヴルだからこその活きて来る感覚。そして、ほぼ出ずっぱりなオルフェを歌うクロフト(テノール)、この人の存在がこのオペラのトーンを決めるのかもしれない... その伸びやかかつ艶やかな歌声は、どことなしにロマンティックさが滲み、魅惑的。冥府の住人たちも、虜になってしまったのも納得。さらに、このオペラに欠かせないのが、コーラス!コール・デ・ミュジシャン・デュ・ルーヴルの熱い歌声が、疾風怒濤を加速させるようで、圧巻!そうして、オーケストラ、歌手、コーラスが渾然一体となって、濃密なドラマが紡ぎ出される!オリジナルとは異なる聴き応えに驚かされ、惹き込まれる。

GLUCK: ORPHÉE ET EURYDICE
MARC MINKOWSKI


グルック : オペラ 『オルフェとウリディス』

オルフェ : リチャード・クロフト(テノール)
ウリディス : ミレイユ・ドランシュ(ソプラノ)
アムール : マリオン・アルソー(ソプラノ)
精霊 : クレール・デルガド・ボージュ(ソプラノ)
コール・デ・ミュジシャン・デュ・ルーヴル(コーラス)

マルク・ミンコフスキ/レ・ミュジシャン・デュ・ルーヴル

ARCHIV/471 582-2




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