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ロマン主義の偶像、ワーグナー... 新たなる世界。 [before 2005]

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19世紀、ロマン主義の時代、ゲーテ(1749-1822)は表現の垣根を越えて、文学から広く芸術に大きな影響を与えた。さて、音楽からはどうだったろう?ワーグナー(1813-83)!この人の存在感は、音楽史を見渡しても抜きん出ている。その影響は、まるで伝染病のように広がり、みな熱に浮かされた後で、アンチ・ワーグナーをも生み、ポジティヴにも、ネガティヴにも、芸術界に大きな波紋を広げる。そして、その波紋の大きさに、ロマン主義の頂点を見る思いがする。が、その頂点に在って、ワーグナー、当の本人は、ロマン主義を昇華し、すでに象徴主義を出現させてすらいて... それを受けた後期ロマン主義の様相は、どんどん一筋縄には行かないものに変容し... その変容の中に、近代音楽は準備され... すると、ワーグナーは、ロマン主義の頂点にして近代音楽の母だったのかもしれない。それまで、と、それから、の結節点としてのワーグナー。過去と未来が同時に存在したその音楽は、19世紀後半のヨーロッパに驚くべき光を放っていたのだろう。そして、今もなお...
という、19世紀、ロマン主義の時代のアイコン、ワーグナーを見つめる。ダニエル・バレンボイム率いるベルリン国立歌劇場、ペーター・ザイフェルト(テノール)のタイトルロールで、ワーグナーのオペラ『ローエングリン』(TELDEC/3984-21484-2)を聴く。

1842年、ドレスデンの宮廷歌劇場で初演された『リエンツィ』が成功し、とうとうブレイクを果たしたワーグナー。この成功により、ザクセン王国の宮廷指揮者(1843-49)のポストを得て、やっと順調な音楽人生を歩み出した頃に作曲されたのが、ここで聴く、『ローエングリン』。典型的なロマン主義オペラ、『さまよえるオランダ人』(1842)、ワーグナー的な壮大さへと踏み出して行った『タンホイザー』(1845)を経て、1848年に完成した『ローエングリン』は、後の大作へと至る過程のターニング・ポイントとも言える作品。いや、まさにこれからという作品なのだけれど、『ローエングリン』の初演が翌年に決まった頃、パリで二月革命が起こり、ヨーロッパは大きく揺れる。間もなく革命の波はワーグナーの下にも到達し、1849年、ドレスデンで三月革命が勃発。ワーグナーは、この革命に加わるも、間もなくプロイセン軍の介入で革命は潰え、当然ながら『ローエングリン』の初演は流れてしまい、せっかく得たポストも失い、それどころか指名手配犯となり、スイスへの亡命を余儀なくされる。それでも、友人であり、後に義父となるリストが、1850年に、自らが宮廷楽長を務めるヴァイマルで『ローエングリン』の初演に漕ぎ付け、作品は人々に知られるところとなり、やがて多くの人々を魅了し、ワーグナー自身を救う切っ掛けを作る。
という『ローエングリン』、多くの人々を魅了したものは何だろう?まず、その音楽... ワーグナー独自の音楽が息衝き始めていることが印象深い。それは、1幕の前奏曲から決定付けられていて、物語の予告編としての序曲は過去のものとなっており、独立した楽曲としても存在し得る充実した音楽を響かせる。で、その音楽は抽象的にすら感じられ、ロマン主義の次へと踏み出されたことを意識させられる。何より、得も言えずアンビエント!次なる時代どころか、現代的にすら感じられるサウンドは、突き抜けた美しさで、聴く者をのっけから惹き込む。また、ライトモティーフがこの作品からしっかりと用いられ、1幕の前奏曲のテーマも、聖杯の騎士、ローエングリンの登場で用いられ、この後に続く大作のひな型はできあがったようにも感じられる。そうして紡ぎ出される、大きな音楽の流れ... それは、ロマン主義オペラのわかり易い劇的な展開とは一線を画し、壮麗で、まさにワーグナー・ワールドを出現させる。ここに魅了されるのだろうなァ。輝かしい3幕への前奏曲(disc.3, track.1)や、結婚式の定番、婚礼の合唱(disc.3, track.2)など、お馴染みのテーマはありながらも、あくまで全編がひとつの大きな音楽の流れを作り、ナンバー・オペラには無い密度を生み出す。その密度が、聖杯の騎士の神秘さを強調する。
で、何と言ってもローエングリンの存在!バイエルン国王、ルートヴィヒ2世(在位 : 1864-86)が、メロメロになってしまい(そして、ワーグナーを救う!)、チャコフスキーも熱を上げて、あのバレエを生み出すに至る... 白鳥に引かれ小舟に乗ってやって来るミステリアスな騎士。実は、聖杯を守る騎士にして、その長であるアンフォルタス王の王子。キリスト教神秘主義に彩られながらも、実は典型的な白馬の王子様の物語でして... 作曲家は意図しなかったとしても、乙女(って、誰よ!?)のツボは押さえている。で、恋は成就しないのがミソ。白鳥の騎士と結ばれる目前で、エルザ姫は大失態。愛する人は天へと帰って行く(そうよ、どうせ叶わないんだわ!そこに共感したのかしら、ルートヴィヒも、ピョートルも... 白鳥の騎士は叶わぬ恋のアレゴリーなのね... )。で、それを邪魔したオルトルートの、エルザ姫いびりが、橋田寿賀子バリって、もう... 『ローエングリン』は、下手すると冗長な印象すらあるのだけれど、よくよく見つめると下世話感も漂い、なかなかキャッチー。壮麗な音楽(次なる時代)と、若干の下世話感(ロマン主義)、ここにワーグナーの過渡期を見出せて、興味深く、独特の魅力を放つ。
さて、バレンボイム+ベルリン・シュターツカペレによる演奏なのだけれど... 手堅くも瑞々しく、引き締まりつつ力強い。冗長さなど微塵も感じさせず、一気に聴かせてしまう、ある意味、ノリの良さを感じるもの。そして、聖杯の騎士の浮世離れしたピュアさを歌い上げるザイフェルト(テノール)と、窮地に追い込まれながら、白鳥の騎士に恋し、ある意味、人間臭いエルザ姫を丁寧に歌うマギー(ソプラノ)の対比がおもしろい。この物語のすれ違い感を巧みに表現。さらに、オルトルートを歌うポラスキ(ソプラノ)の魔女っぷり、ハインリヒ王を歌うパーペ(バス)の王様っぷりも見事で、ドラマに立体感をもたらす。そんなキャラの立った歌手たちを盛り立てるのが、息衝くベルリン国立歌劇場合唱団!要所、要所で決まるその歌いっぷりは、気持ちいいぐらい。そうして、編まれるアンサンブルの一体感!バレンボイムの凄いところは、肥大しがちなワーグナー・ワールドに隙を与えずわかり易く展開できるところ... だからこそ、その魅力が詳らかとなる。

BARENBOIM/STAATSKAPELLE BERLIN
WARGNER : LOHENGRIN


ワーグナー : オペラ 『ローエングリン』

ドイツ王、ハインリヒ : ルネ・パーペ(バス)
ローエングリン : ペーター・ザイフェルト(テノール)
エルザ : エミリー・マギー(ソプラノ)
テルムラント伯、フリードリヒ : ファルク・シュトルックマン(バリトン)
オルトルート : デボラ・ポラスキ(ソプラノ)
伝令 : ローマン・トレーケル(バリトン)
ベルリン国立歌劇場合唱団

ダニエル・バレンボイム/ベルリン・シュターツカペレ

TELDEC/3984-21484-2




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