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ロマン主義を告げる人、ゲーテ... ファウストから広がる音楽。 [before 2005]

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音楽におけるロマン主義は、19世紀に入ってから、というイメージだけれど、「ロマン主義」というムーヴメントそのものは、18世紀に遡る。その始まりに、鮮烈に登場したのが、ゲーテ(1749-1832)の小説、『若きウェルテルの悩み』(1774)。この作品によって、ゲーテはロマン主義のアイコンに... と言いたいところなのだけれど、文学の世界では、ゲーテは古典主義にカテゴライズされるようで、調子が狂う。ま、モーツァルト(1756-91)より7つも年上となれば、18世紀後半、古典主義の時代を生きた人となるわけで、腑に落ちるものはある。が、ロマン派の作曲家たちに多くのインスピレーションを与えたゲーテの存在を音楽から見つめれば、やっぱりロマン主義の端緒だったかなと... そんなゲーテの役割を考えると、ロマン主義の音楽に文学は欠かせないなと...
ということで、ロマン派の作曲家たちの人気作?ゲーテがその人生を掛けて綴った代表作、戯曲『ファウスト』に注目!佐渡裕指揮、フランス放送フィルハーモニー管弦楽団の演奏で、リスト、ワーグナー、ベルリオーズ、ロマン派の大家による、『ファウスト』を題材とした作品を集めた実に興味深いアルバム、その名もズバリ、"FAUST"(ERATO/8573-80234-2)を聴く。

クラシックにおける『ファウスト』というと、まずグノーのオペラが思い浮かぶのだけれど、オペラに留まらず、様々なところに顔を出すファウスト博士... 改めて考えると、ファウスト博士は大人気のキャラクターと言えるのかもしれない。で、この人の人気はどこにあるのだろう?多くの知識を得た老学者が、悪魔の誘惑に乗ってしまい、破滅へと突き進む... 18世紀、古典主義の端正な世界から、19世紀、魔的な魅惑を孕むロマン主義に呑み込まれる。そんなイメージをファウスト博士の物語に重ねるならば、ロマン派の作曲家たちは、新たな表現の可能性をファウスト博士の姿に見ていたのかもしれない。いや、ファウスト博士こそロマン主義の象徴だったか... 1797年に、出発点となる『原ファウスト』が書かれてから、世紀をまたぎ、1808年に、第1部を発表したゲーテ。続く、第2部は、その死の間際まで書き続けられ、発表されたのは1833年、その死の翌年となる。古典主義の時代を経て、ロマン主義の時代が本格化する中、書き進められた『ファウスト』は、ロマン主義そのものを体現しているのかもしれない。そういう生々しいロマンティックさに、作曲家たちは刺激を受けたのかもしれない。
で、"FAUST"が取り上げるのは、メフィスト・ワルツを含む、リストのレーナウのファウストによる2つのエピソード(track.1, 2)、ワーグナーのファウスト序曲(track.3)、ベルリオーズのファウストからの8つの情景(track.4-11)の3作品。扉となるメフィスト・ワルツこそ定番だけれど、その後に続く作品は、なかなかマニアック... 特に、ベルリオーズのファウストからの8つの情景(track.4-11)は、後の大作、劇的物語『ファウストの劫罰』(1846)へと発展する作品で、その前段階に触れる、貴重な機会を与えてくれるもので... コンセルヴァトワールに入学した翌年、1824年、21歳のベルリオーズは、第1部のフランス語版を読み、すっかり『ファウスト』の虜に。勢い、作曲されたのが、この作品。で、完成すると、その総譜をゲーテに送ったらしいのだけれど、反応は今一。若きベルリオーズらしい猪突猛進のエピソードなのだけれど、その音楽は、思いの外、充実していて、『ファウストの劫罰』への道筋はしっかり示され、メッゾ・ソプラノが歌う名バラード、「トゥーレの王」(track.9)などは、すでに完成されている!同時期に作曲された荘厳ミサの若書きっぷりを思うと、なかなかの聴き応え!
そんなベルリオーズに次いで、マニアックなワーグナーのファウスト序曲(track.3)。まだ指揮者として仕事をしていたワーグナーが、借金を抱えながらリガの劇場をクビになり、1839年、逃げるようにパリへ出た、翌年、1840年に作曲されたのがこの作品。ワーグナーとしては、これを1楽章に、リストのような"ファウスト交響曲"を構想していたとのこと... 実現していたら、おもしろかったのに!とは思うものの、やはり劇場人、ワーグナーというべきか、そこに響く音楽は、あくまで序曲... いや、序曲としては、十分に魅力的!ワーグナーらしい重厚感はすでに表れ、魔的な不穏さが漂い、2年後に完成される『さまよえるオランダ人』を予感させる雰囲気に充ち満ちている。そして、リストのレーナウのファウストによる2つのエピソド(track.1, 2)。そう、ゲーテではなく、レーナウ(1802-50)の叙事詩『ファウスト』(1836)に基づくのだけれど、ベルリオーズに薦められて読んだゲーテの『ファウスト』からファウスト交響曲(1854)を作曲した後、レーナウの『ファウスト』から新たな作品を生み出したリスト。ゲーテの荘重さを活かした交響曲に、レーナウの魔的な魅力を響かせた2つのエピソード... この対比は、なかなか興味深い。リストのファウスト通っぷりに感心。見事に描き分けたリストの腕も大したもの。
という、19世紀、ロマン主義の風景を、ファウスト博士から切り取った佐渡、フランス放送フィル... 久々に"FAUST"を聴くと、刺激的。少し遅めのテンポで、何だか場面が歪むような感覚をもたらすメフィスト・ワルツから印象的で、続く、夜の行列(track.2)では、一転、「夜しじま」が広がり、静かなロマンティシズムを味わう。かと思うと、ワーグナー(track.3)では、不穏さが濃くなり、ベルリオーズ(track.4-11)では、俄然、活き活きと情景を描き出し、何が出て来るかわからない、お化け屋敷のよう。いや、ファウスト博士の禍々しさを巧みに強調して、まるでテーマパークのアトラクションを楽しむかのように聴かせる佐渡さんのサービスっぷりが、絶妙。ファウスト博士、おもしろいやろ?みたいのが、ジワジワ伝わって来る。そんな、佐渡さんに応えるフランス放送フィル... フランスのオーケストラならではの色彩感を活かしつつ、ドイツ的な瑞々しさもあり、ファウスト博士の世界をフレキシブルに鳴らして、楽しませてくれる。そうして、19世紀、ロマン主義のパノラマは、イリュージョンのように浮かび上がるのか... 実に興味深く、それでいて、魅惑的。

FAUST / Yutaka Sado

リスト : レーナウのファウストによる2つのエピソード
ワーグナー : ファウスト序曲
ベルリオーズ : ファウストからの8つの情景 Op.1 *****

佐渡 裕/フランス放送フィルハーモニー管弦楽団
アンゲリカ・キルヒシュラーガー(メッゾ・ソプラノ) *
ジャン・ポール・フシェクール(テノール) *
フレデリック・カトン(バス) *
クロード・ビジ(ギター) *
フランス放送合唱団 *

ERATO/8573-80234-2




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