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シューベルト、シューマン、歌曲から見つめるロマン主義の深化。 [before 2005]

シューベルトからブルックナー、そしてまたシューベルトへと、19世紀、ロマン主義の時代を巡って来たのだけれど、ロマンっ気は薄かったか... 絶対音楽という観点から見つめると、ロマン主義の時代もまた違った表情を見せる。一方で、"ロマン主義の時代"と、わかり易く括ったとしても、実際の時代の姿は、そうわかり易いものではなく、様々な感性が混在し、一筋縄には行かない。そういう、混在を見つめていると、「ロマン主義」とは何んだろう?そんな疑問も湧いて来る。いや、普段、あまりに漠然と「ロマン主義」を捉えているのかもしれない。ということで、改めて考えてみる、ロマン主義の時代。それは、歌曲の時代、音楽全体に歌謡性が求められた時代であって... ロマン主義を象徴する要素としての"歌"に注目してみようかなと... 絶対音楽から、歌へ!
バーバラ・ボニー(ソプラノ)が歌う、シューベルトの歌曲の名作を集めたアルバム(TELDEC/4509-90873-2)に、ジェシー・ノーマン(ソプラノ)が歌う、シューマンの歌曲集『女の愛と生涯』(PHILIPS/420784-2)。ロマン派の歌曲を改めて聴いてみる。


シューベルト、ロマン主義の端緒としての"歌"... ボニーが歌う名歌曲集。

4509908732
古典主義からロマン主義へ、そこにどんな飛躍があっただろうか?ズバリ、メロディーだと思う。ロマン主義の要素に欠かせないものは、歌謡性... 交響曲にしたって、キャッチーなテーマが聴く者の心をガッツリ掴んで、大きな感動を生み出して行く(シューベルトやブルックナーには少ない要素だったけれど... )。そういう時代を象徴するものが歌曲なのかなと... ウィーン古典派を受け継ぐシューベルトが、ロマン派にカテゴライズされるのは、まさに「歌曲王」だからなのだろう。そうして、久々に聴く、ボニーが歌うシューベルトの名作の数々... 始まりは、アヴェ・マリア!そのメロディアスさと来たら、もう... 今さらながらとは言え、淀み無く、やわらかに紡がれるメロディーに惹き込まれる。そうして、改めて感じることは、メロディーが音楽を完結させていること。それだけ説得力を持つメロディーが生み出されていること。音楽作品のために書かれた詩ではなく、詩があって、そこに音楽が付けられて生まれる完結感とでも言おうか... 詩に彩色するようにメロディーが施される特有の感覚が、音楽ではなく"歌"を生み出す。ちなみに、アヴェ・マリアは、シューベルトの時代の人気作家、ウォルター・スコットの『湖上の美人』に登場する詩を歌うのだけれど... ロマン派の音楽が文学に刺激されて個性を確立して行った側面を考えると、詩の存在は実に大きい。で、詩に基づく歌曲は、ロマン主義の音楽の端緒とも言える形なのだと思う。
さて、ボニーが歌う、シューベルトの歌曲の名作を、ひとつひとつを丁寧に聴けば、ロマン主義と言い切れない部分も聴こえて来て... アヴェ・マリアに続く、ガニュメート(track.2)には、まだモーツァルトの面影が残るようで、印象的。そうしたあたりに、シューベルトの過渡期の作曲家という性格を再確認させられるのだけれど、それを際立たせるのが、ボニーの明快な歌声... ロマンティックというより古典主義の気分を漂わせていて、それぞれのナンバーをすっきりと捉え、軽さを生み、シューベルトにしてシューベルトらしくない?いや、よりイノセンスで、ロマン主義、古典主義、という枠組みではなく、詩と音楽、そのものを、ニュートラルに捉え、より広がりのある表情を掘り起こすよう。そこから聴こえて来るのは、シューベルトの生きた時代のリアルなサウンドだろうか... モーツァルトの残り香と、一世を風靡したロッシーニのオペラ... 今でこそ、ドイツ・リートとして祭り上げられているシューベルトの歌曲だけれど、そもそもは仲間内の集まり、シューベルティアーデの中で歌われたもの。若い音楽愛好家たちの、モードへの鋭敏さがあって紡ぎ出されたシューベルトの歌曲だったのだろう。ボニーのイノセンスさは、そうした場の瑞々しさを歌に乗せるようで、何とも言えない心地良さと気の置け無さも醸し出し、素敵。
そんなボニーに寄り添う、パーソンズのピアノがまた素敵!"歌"の後ろに控え、存在を主張するようなことは一切しないのだけれど、そのピアノからは、シューベルトならではの美しいピアニズムが随所でこぼれ出し、魅了される。主張しないからこそ、際立つシューベルトの美しさ。一方で、その美しさに、時折、ワーグナーを感じさせられるトーンが浮かび、ハッとさせられることも... 過渡期ならではの定まらなさが、思い掛けない先の時代を出現させてしまうのか?美しくも、スリリング...

SCHUBERT: LIEDER
BARBARA BONNEY ・ GEOFFREY PARSONS ・ SHARON KAM

シューベルト : アヴェ・マリア (エレンの歌 III) D.839
シューベルト : ガニュメート D.544
シューベルト : ごぞんじですか、レモンの花咲く国 (ミニョンの歌) D.321
シューベルト : 語らずともよい、黙っているがよい (ミニョンの歌) D.877-2
シューベルト : もうしばらくこのままの姿に (ミニョンの歌) D.877-3
シューベルト : ただ憧れを知るひとだけが (ミニョンの歌) D.877-4
シューベルト : 変貌自在な恋する男 D.558
シューベルト : 野ばら D.257
シューベルト : 恋人のそばに D.162
シューベルト : ます D.550
シューベルト : 水の上で歌う D.774
シューベルト : 夕映えのなかで D.799
シューベルト : 聴け聴け、ひばり (セレナード) D.889
シューベルト : きみは憩い D.776
シューベルト : 糸を紡ぐグレートヒェン D.118
シューベルト : グレートヒェンの祈り D.564
シューベルト : 岩の上の羊飼い D.965 *

バーバラ・ボニー(ソプラノ)
ジェフリー・パーソンズ(ソプラノ)
シャロン・カム(クラリネット) *

TELDEC/4509-90873-2




シューマンのマッドさがロマン主義を深めて... ノーマンが歌う連作歌曲。

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シューベルトの歌曲が作曲された頃からおよそ四半世紀を経た1840年、それは、シューマンの「歌の年」。ここで聴く『女の愛と生涯』(track.1-8)、『リーダークライス』(track.9-20)といった、シューマンの声楽作品の傑作が生まれた年で、何と言ってもシューマンとクララが結婚した年... クララへの愛が、シューマンを"歌"に向かわせ、あまりに多くの歌曲を作曲してしまったものだから、作曲者自身、不気味だと言わしめたほど... いや、それほどにクララを愛していたのだろう。結婚へと至るいばらの道、クララの父、かつての師、ヴィークの執拗さを乗り越えて結ばれた愛だけに、並々ならぬものがあったはず... にしても、その愛が"歌"へと向かい、不気味なくらいに作品を生み出すある種の異様さに、シューマンのマッドさを見出してしまう。そういうマッドさから、『女の愛と生涯』(track.1-8)という、ひとりの女性の生涯を、男性への愛でもって綴る連作歌曲を聴くと、ちょっと怖い気さえする。何だろう、美少女育成ゲーム的な感覚?そもそも、タイトルからして、結構、ドギツイものを感じてしまうのだけれど... 一方で、これが、19世紀、ロマン主義的な感覚でもあったのだろうなと... そして、その音楽には、ロマン主義が充ち満ちている。シューベルトから四半世紀という時間が、"歌"そのものを間違いなく成熟させていて、音楽として濃密。シューベルトの仲間内での音楽のシンプルさとは違う、しっかりと練られた音楽の揺ぎ無さは艶やかで、酔いそうなくらい... それは、マッドなほどの思いがあってこそ至れる境地なのかもしれない。
そんな『女の愛と生涯』に続いての『リーダークライス』(track.9-20)は、連作ではなく、ロマン主義の詩人、アイヒェンドルフの詩、12篇を選び、音楽を施した歌曲集で、もうひとつ、やはり「歌曲の年」に作曲された、ハイネの詩による、Op.24の『リーダークライス』があるのだけれど、よりロマンティックなのは、ここで聴く、Op.39の『リーダークライス』。アイヒェンドルフの深く自然に根差した詩が、まさにドイツ・ロマン主義であって、そういう詩の趣きもあってか、どこか厭世的で、クララとの愛が成就した年にしては、仄暗い... もちろん、その仄暗さこそ、シューマンではあるのだけれど... それくらいだから、ロマンティックもより深まりを感じさせ、「月の夜」(track.13)のリリカルさなど、魅了されずにいられない。一方で、「静けさ」(track.12)のような、諧謔的で楽しげな音楽もあり、表情の豊かさも、この歌曲集の魅力。そうした表情の豊かさの背景に、アイヒェンドルフならではの象徴的に書き籠められた自然の情景を見事に響かせ、作曲家、シューマンの力量も見事に聴かせる。
という、シューマンの「歌の年」を彩る2つの歌曲集を歌うのが、ディーヴァ、ノーマン。でもって、1975年の録音(うわー、当blogで取り上げるアルバムで、最も古いものかも... )。よって、ディーヴァが若い!何てピュアな歌声なのだろう!ディーヴァならではの懐の深さよりも、明朗さが際立って、不思議なくらい。けれど、ボニーのようなイノセンスさとは違い、しっかりとロマン主義を捉える歌声でもあって、シューマンの仄暗さも滲ませる。そんな表情の幅が、シューマンのマッドさをそこはかとなしに引き出し... またそこに、ロマン主義そのもののマッドさも見出したり... というノーマンの傍らで、さらなるポエジーを引き出すゲイジのピアノが見事!ノーマン、ゲイジ、相俟っての味わい深きシューマン、聴き入ってしまう。

SCHUMANN: FRAUENLIEBE UND -LEBEN ・ LIEDERKREIS
JESSYE NORMAN


シューマン : 歌曲集 『女の愛と生涯』 Op.42
シューマン : 歌曲集 『リーダークライス』 Op.39

ジェシー・ノーマン(ソプラノ)
アーヴィン・ゲイジ(ピアノ)

PHILIPS/420784-2




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