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ブルックナーらしさを抑え、時代を捉えた6番の美しさ... [before 2005]

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改めて、ブルックナーという存在を見つめると、興味が尽きない。のは、ブルックナーが苦手だった過去があるからなのだと思う。遅ればせながのブルックナー・ファン?遅れている分、今さらながらに新鮮!何しろタダモノではないブルックナー、その音楽世界に触れれば、いつも途方も無いものを感じてしまうばかり... いや、だからこそ、知れば知るほど、おおっ!?と、なってしまう。そして、ブルックナーという際立った個性を生み出した時代、背景もまた興味深い。音楽史を度外視するようなブルックナーという存在を丁寧に見つめると、音楽史の真実の姿と言うべきか... 古典主義からロマン主義へ、という教科書的な展開では捉え切れない、19世紀というクラシックの核たる時代の多様さ、一筋縄には行かない展開が、とても刺激的に感じられる。
ということで、ブルックナー、絶対音楽、極まる、3番に続いて... スタニスラフ・スクロヴァチェフスキの指揮、ザールブリュッケン放送交響楽団(現在はドイツ放送フィルハーモニー管弦楽団... )の演奏で、ブルックナーの6番の交響曲(OEHMS/OC 215)を聴く。

3番に続いての、6番... ブルックナーの交響曲というと、4番5番、そして、7番8番が定番だけれど、あえて、4番、5番を飛び越して、6番を聴いてみる。すると、ブルックナーのイメージは、また違ったものになるよう... 定番が、"ブルックナーらしさ"の整った音楽を繰り広げて、安定的なのに対し、3番、6番、そして、未完の9番には、"ブルックナーらしさ"から逸脱する感覚がある。例えば、前回、聴いた、3番ならば、ブルックナーらしさが初めて表れながらも、ブルックナーらしさが定まらない、尖がった展開がインパクトを生み、時代を度外視したような音楽が繰り広げられ、刺激的... そこからの6番は、思いの外、時代を意識した音楽が流れ出すようで、とても印象深い。我が道を行くことを貫いた希有なシンフォニスト、ブルックナーのはずが、時代を意識した音楽を展開する?そもそもブルックナーは、自らの交響曲への批評や聴衆の反応を、もの凄く気にしていた。だからこそ、スコアに、度々、手を入れ、多くの版を生み出す。さらには弟子の手に委ねることも... というより、弟子の改訂が欠かせないくらいの自信の無さ... 我が道を行きながら、どうしようもなく周囲のリアクションを気にしてしまうブルックナーという性格は、厄介で、もどかしい。あれほどに峻厳なサウンドを刻みながらの、このギャップは何なのだろう?いや、そういう性格で、あの峻厳さを出現させるのだから、ブルックナーという作曲家の基底にあるものは、ただならないものなのだろう。で、6番は、そのただならなさに、より音楽的な感性が働き、一味違うのか...
1879年に作曲が始まった6番... それは、ブルックナーが55歳の誕生日を迎えた頃、ウィーン音楽院の教授を務め10年が過ぎた頃ではあったものの、まだくすぶっていた頃で、何より、前年の3番の初演が大失敗に終わって間もない頃... だからだろうか、聴き手を意識するような音楽が随所に感じられる。ブルックナーの交響曲にして、ブルックナーらしからぬやわらかさを見せる6番... ブルックナー休止で音楽に厳しい表情を刻むようなことはせず、全体が弛まなく流れてゆき、音楽ならではの魅力に溢れているから驚かされる。となると、同時代の作曲家たちの交響曲と変わり映えのしない音楽になる?いやいや、そう簡単に行かないのがブルックナーの凄いところ。作曲を始めた翌年、スイスを旅行し、そこからのインスピレーションも籠められただろう6番は、スイスの田舎を行く朗らかな印象が広がり、ブルックナーの「田園交響曲」とも呼ばれる。が、ベートーヴェンのように情景描写をすることは一切無く、絶対音楽であることを貫いていて、ブルックナーならでは... 一方で、マーラーを思わせる艶やかさ、『ばらの騎士』のような芳しさすら感じられ、驚かされる。特に2楽章(track.2)の、思い出の中をたゆたうような感覚は、完全にマーラーを先取りしている。でもって、ブルックナーの交響曲の白眉かと思わせる美しさ!花々が芳しい吐息を洩らすような最後など、ため息が... あのブルックナーがこんなにも美しい音楽を?!いや、あのブルックナーだからこそ、その美しさが強調されるのかもしれない。美しさに圧倒される6番。
というブルックナーにして、ブルックナーらしからぬ交響曲を、スクロヴァチェフスキ、ザールブリュッケン放送響の演奏で聴くのだけれど、やっぱり、スペシャリスト... ただ美しいのではない、美しさが活きている!スクロヴァチェフスキならではの明晰さが、全ての瞬間をすっきりとしたサウンドで捉え、ブルックナーにして軽やかなイメージを創り出す。一音、一音、しっかりと響かせながらも、ありのままを丁寧に捉えることで生まれる確かな軽やかさ... この軽やかさが心地良く、新鮮!それでいて、軽やかなあたりから、ふわーっと溢れ出す芳しさ!ザールブリュッケン放送響も、クリアかつ明朗なサウンドで彩って、一切、力むことなく、颯爽と全4楽章を弾き切る。この、そよ風が吹き抜けてゆくような演奏が、より6番の魅惑を引き出すようで、酔わされる。何だろう、花々が咲き渡る野原を、一歩、一歩、踏み進めて行くような雰囲気...

Stanislaw Skrowaczewski
Anton Bruckner: Symphony No.6


ブルックナー : 交響曲 第6番 イ長調

スタニスラフ・スクロヴァチェフスキ/ザールブリュッケン放送交響楽団

OEHMS/OC 215




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