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音楽人生、空騒ぎ、ベルリオーズが最後に至った境地のナチュラル! [before 2005]

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本日、秋分の日。秋が始まります。で、ふと気付くと、秋めいている...
この間、すでに紅葉が始まっている木を見つけて、びっくりする。紅葉って、まだ先の話しじゃないの?!まだ夏の気分を引き摺っているものだから、衝撃を受けてしまう。が、あっと言う間に秋は深まって、すっかり「芸術の秋」を味わうような空気に包まれてしまうのだろうなァ。季節が巡るのは、当たり前のことだけれど、季節がうつろうことに、ちょっとセンチメンタルな思いがしてしまう。って、そういうのが、まさに秋か... さて、「芸術の秋」に先駆けて、シェイクスピア劇から派生した音楽を聴いて来た今月なのだけれど、クラシックにおけるシェイクスピアというのは、思いの外、息衝いておりまして、ちょっと秋の気分には遠い?作曲家にとってのシェイクスピアは、滾々と湧き出でる創意の泉... それは、秋よりも春のイメージに近いかもしれない。
ということで、秋の始まりに、春を思わせる爽やかなオペラ... コリン・デイヴィスが率いたロンドン交響楽団の演奏、同交響楽団合唱団のコーラス、エンケレイダ・シュコサ(メッゾ・ソプラノ)と、ケネス・ターヴァー(テノール)のタイトルロールで、クラシックを代表する"シェイクスピア作曲家"、ベルリオーズのオペラ『ベアトリスとベネディクト』(LSO LIVE/LSO 0004)を聴く。

ベルリオーズの人生は、どうもいつも落ち着かない。成功したかと思うと、経済的に苦しい状況がやって来て、仕事の面でも思うように事が進まず、フラストレーションを溜めてしまいがち... 世渡りは器用な方ではなかっただろうけれど、強かに政府から仕事を引っ張って来たり、思い掛けない支援を受けたりと、ラッキーだったり、人の縁に救われるところもあり、上がったり、下がったり、まるでジェットコースターのような人生... だからこそ、その音楽のロマン主義的な性格は、誰よりも水際立ったものを感じさせるのかもしれない。そんなベルリオーズも、巨匠として楽壇で存在感を示していた頃、すでに晩年にあたる1860年、ドイツ、バーデン・バーデン(歴史ある温泉リゾート... )の新しい劇場の柿落としのために委嘱されたのが、シェイクスピアの『空騒ぎ』に基づくオペラ『ベアトリスとベネディクト』。翌、1861年、パリ、オペラ座で、自作、『トロイアの人々』を上演するため、ワーグナーと熾烈な競争を繰り広げるも、上演されたのは『タンホイザー』... 結局、その上演は、様々な思惑が絡み合い、大失敗。その結果に、ベルリオーズの悔しさも、多少は紛れたかもしれないが、ベルリオーズはパリに嫌気が差したように、バーデン・バーデンのための新しいオペラに取り組み、翌、1862年に完成。その年のバーデン・バーデンの夏の音楽祭で初演。そして、このオペラが、ベルリオーズにとって最後の規模の大きな作品となった。
という『ベアトリスとベネディクト』、びっくりするぐらい肩の力が抜けていて、驚かされる!いや、伏魔殿的なパリのオペラ座から解放された響きを思わせて、オペラ座仕様、グランド・オペラの反動とも言える飾らない音楽に魅了されずにいられない。何より、鬼才、ベルリオーズも、こんな風に素直に、ナチュラルな音楽を書けるのか?!と、ちょっと衝撃的。鬼才も晩年を迎え、いい具合に角が取れたか?いや、つまらない競争から解脱してしまった印象すら受ける。周りを意識せずに、我が道だけを見つめ、前へと進む音楽... そこには新たな境地も広がり、幻想交響曲など、若い頃の向こう見ずな音楽とは違う、確かな成熟と洗練を経て至ったナチュラルさが、とても興味深く感じられる。同時代のオペラでは味わえないナチュラルさ... ロマン主義から少し距離を置き、古典派を思わせる端正さ、瑞々しさへと還るようなところがあるのか、19世紀のオペラにある、ある種の力みから解き放たれ、丁寧にドラマをすくい上げるような姿勢が印象的。またそうしたスタンスが、シェイクスピアが書いた軽妙な恋模様をスムーズに音楽として紡ぎ出せていて、唸ってしまう。音楽が一歩引いて、最高のバランスを形作る... そんな『ベアトリスとベネディクト』には、ベルリオーズの同時代のオペラへの拒否感のようなものを感じなくもない。だからだろうか、音楽劇として時代を超越するような瑞々しさが生まれ、今を以ってしても新鮮に感じられる。で、これが、ベルリオーズの最後のオペラというから、感慨深い。肩の力が抜けての集大成。鬼才の至った境地。
一方で、すばらしいアリア、二重唱に彩られ、オペラとしての醍醐味もしっかりと味合わせてくれる。1幕、ベアトリスに愛されていると知ったベネディクトのロンド「嗚呼、彼女を愛そう」(disc.1, track.8)の、何とも言えないハッピー感!颯爽とした心地良さに包まれながら、心の機微を丁寧に捉え豊かな表情を生み出すメロディー... ベルリオーズは、オペラでも確かな腕を持っていたことを思い知らされる。続く、1幕の幕切れ、ベアトリスとその従妹、エロの二重唱「澄み切った静かな夜よ」(disc.1, track.9)の、得も言えない美しさ!エロの婚礼の前の不安な表情を、静かに、ソプラノとメッゾ・ソプラノが歌い上げるのだけれど、こういう抒情的な展開はベルリオーズの真骨頂!息を呑む音楽が展開される。さて、このオペラの舞台はシチリアなのだけれど、2幕、エロとクラウディオの婚礼の宴(disc.2, track.2)では、ベルリオーズのローマ留学の経験が活かされたイタリアのフォークロワを思わせる音楽が盛り込まれ、オペラ的なイタリアではない、よりリアルなイタリア、のどかなシチリアが活き活きと描き出され、魅惑的。この飾らなさというか、音楽に対しても、メロディーに対しても、イタリアに対しても、シェイクスピアに対しても、率直であることが、とても気持ちのいいオペラを生み出し得ている。
というベルリオーズ、最後のオペラを、颯爽と響かせるベルリオーズのスペシャリスト、デイヴィス。スペシャリストならではのツボを押さえた瑞々しくも生気に満ちた音楽は、ベルリオーズという作曲家の魅力を再確認させられるようで、発見も多い。それでいて、序曲からフィナーレまで、とにかく心地良い!そんなマエストロに応えるロンドン響も、このオーケストラならではのすっきりとしたサウンドがオペラでも活かされ、まるでそよ風のよう。その風に乗って、軽やかな歌を聴かせてくれる、充実の歌手陣!軽妙なやり取りを繰り広げる、シュコサ(メッゾ・ソプラノ)のベアトリス、ターヴァー(テノール)のベネディクトを軸に、みな表情豊かに歌い、軽やかなアンサンブルを織り成して、魅了。で、ライヴ録音ならではの、途切れなく続く勢いというのか、活きたドラマが強く感じられ、シェイクスピア劇を見るようなテンポの良さが見事に繰り出され、惹き込まれる。オペラとしての楽しみを味わいながらも、また違う輝きがそこに生まれ、魅了されるばかり。

LONDON SYMPHONY ORCHESTRA Berlioz Béatrice et Bénédict

ベルリオーズ : オペラ 『ベアトリスとベネディクト』

ベアトリス : エンケレイダ・シュコサ(メッゾ・ソプラノ)
ベネディクト : ケネス・ターヴァー(テノール)
エロ : スーザン・グリットン(ソプラノ)
ウルスラ : サラ・ミンガルド(メッゾ・ソプラノ)
クラウディオ : ローラン・ナウリ(バリトン)
ソマローネ : ディヴィッド・ウィルソン・ジョンソン(バス)
ドン・ペドロ : ディーン・ロビンソン(バリトン)
ロンドン交響楽団合唱団

コリン・デイヴィス/ロンドン交響楽団

LSO LIVE/LSO 0004

没後400年のメモリアル、シェイクスピアを音楽で聴く...
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