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ベルリオーズ、断片で捉えて輝く『ロメオとジュリエット』。 [before 2005]

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シェイクスピアの没後400年のメモリアルということで、シェイクスピアの戯曲から派生した作品を聴いている今月... そうした中、浮かび上がる、"シェイクスピア作曲家"とも言える存在... 『マクベス』、『オテロ』、『ファルスタッフ』の3つのオペラを書いたヴェルディ、「ロメオとジュリエット」、「テンペスト」、「ハムレット」の3つの幻想序曲を書いたチャイコフスキー... それぞれに、それぞれのやり方で表現されるシェイクスピアの多様さ、それを許し得るシェイクスピア作品の懐の大きさを改めて再確認させられる。そして、その懐の大きさを、最大限に利用したツワモノが、ベルリオーズ!オペラ、序曲、合唱曲に、交響曲までを作曲し、シェイクスピア女優とまで結婚した、そのインスパイアっぷりは、群を抜いている。まさしく"シェイクスピア作曲家"の代表...
そんな"シェイクスピア作曲家"の、奇作中の奇作... ジョン・エリオット・ガーディナー率いる、オルケストル・レヴォリュショネル・エ・ロマンティークの演奏、モンテヴェルディ合唱団のコーラス、キャサリン・ロビン(コントラルト)、ジャン・ポール・フシェクール(テノール)、ジル・カシュマイユ(バリトン)の歌で、ベルリオーズの劇的交響曲「ロメオとジュリエット」(PHILIPS/454 454-2)を聴く。

作曲家の思いの丈をぶつけて来るようなチャイコフスキーの幻想序曲、意外とポップでライトなプロコフィエフのバレエ、そして、ラグジュアリーなロマンス劇に仕上げたグノーのグランド・オペラ、様々な『ロミオとジュリエット』を聴いて来たのだけれど、その最後に、極めつけの奇作、交響曲となった『ロミオとジュリエット』!なのだけれど、これがまた、交響曲ですか?!というシロモノでして... 幻想交響曲で「交響曲」の抽象性を犯したベルリオーズが、さらにさらに、「交響曲」という絶対音楽の概念をブチ壊し、3人の歌手、コーラスを動員しての、『ロミオとジュリエット』の情景を印象的に描き出したのが、劇的交響曲「ロメオとジュリエット」。1838年、オペラ『ベンヴェヌート・チェリーニ』が失敗し、意気消沈していたところに、パガニーニから、「ベートーヴェンは死にました。再び彼に命を与える者はベルリオーズその人よりほかにありません」という称賛の手紙と、相当額の支援金(オペラの準備のため、妻の散財による借金などで、経済的に苦しい状況に置かれていた... )を受け取り、俄然、テンションが上がってしまったベルリオーズ。勢い作曲に挑んだのが、ここで聴く、劇的交響曲「ロメオとジュリエット」。
その音楽からは、まさに、その勢いを感じることができる。で、勢いのあまり、海の物とも山の物ともつかない作品が生み出されてしまったのだけれど、そういうわけのわからなさがありながらも、ベルリオーズの書いた音楽からは、とめどもない瑞々しさが溢れ出し... いや、わけがわからない、つまり従来の型にはまらないからこその、自由な在り様が、作曲家の筆致をより饒舌に、雄弁なものとし、新鮮な音像を出現させる。オペラのためのスケッチのようで、某かのオラトリオの一部のようで、『ロミオとジュリエット』の戯曲からすると、あまりに中途半端なものに思えて来るのだけれど、ベルリオーズが音楽で見せるのは、戯曲ではなく、ロミオとジュリエットという若いカップルを捉えたスナップであり、遠目に2人を見つめた映像のような、断片的なイメージ。断片なればこそ、一瞬、一瞬が輝き、不思議と愛おしく聴く者の胸に響いて来る。それは、ロミオとジュリエットという若いカップルのおぼろげな記憶を辿るような感覚で、戯曲として物語の全てを見据えてしまう以上に共感を呼ぶようなところがあって、興味深い。この感覚、鬼才ならではというか、鬼才でなければ至れないものかもしれない。そして、劇的交響曲「ロメオとジュリエット」は、『ベンヴェヌート・チェリーニ』の失敗の翌年、1839年に完成し、初演を迎えるのだけれど... 初演を聴いた聴衆も、最初こそ戸惑いがあったものの、曲が進むに連れて惹き込まれ、最後は大きな感動に包まれて、大成功!うん、わかる、この感じ。何だかわからんけど、知らず知らずに惹き込まれて行く感じ。
という劇的交響曲「ロメオとジュリエット」を、鮮やかに明晰に捉えるガーディナー... この録音では、ガーディナーらしい原典へのこだわりがふんだんに盛り込まれていて... 出版(1857)されるにあたり、初演後に手直しされた現行版とともに、初演時の原典も取り上げられ、2つの版の差異が興味深く響き出す。一方で、書き直された部分を繰り返すあたりが、まるでデジャヴュのように感じられ、劇的交響曲「ロメオとジュリエット」の断片的な性格をより際立たせて、おもしろい。しかし、何と言っても、ガーディナー+オルケストル・レヴォリュショネル・エ・ロマンティーク(以後、ORR... )のクリアさ、瑞々しいサウンド!ピリオド・オーケストラならではのトーンを活かしながら、情景を巧みに息衝かせつつ、交響曲として充実したサウンド!揺ぎ無く奏でられるそのサウンドの聴き応えたるや!なればこそ、この長大な交響曲にまったく隙を作らず、全ての瞬間が鮮やかに繰り広げられる。さすが、ORR... 研ぎ澄まされながらも、ベルリオーズの勢いを鮮やかに捉える器用さには、息を呑む。
そして、劇的交響曲の「劇」の部分を彩る3人の歌手たち... まず印象に残るのが、この劇的交響曲の前半の聴き所、詩節(disc.1, track.4)を歌うロビンの深い歌声!コントラルトの魅力を存分に発揮しながら、ベルリオーズのポエジーに溢れるメロディーを滔々と歌い上げる姿には、聴き入るばかり... 一方で、軽やかに歌い回るテノール、フシェクール。狂言回しのような役割を担って、物語を巧みに転がし、「劇」を息衝かせる。そして、唯一の役、ロランス神父を歌うカシュマイユのバスの大きな存在感!フィナーレでのコーラスを伴っての歌声は感動を呼ぶ。で、そのコーラス... ORR同様、ガーディナーの音楽性をしっかりと音にして行くモンテヴェルディ合唱団のクリアにして息衝く歌声は、表情に富み、ギアが入れば圧巻のコーラスを聴かせる巧みさ... そしうて描き出されるロミオとジュリエットのいる情景... ガーディナーが繰り出す劇的交響曲には、不思議な臨場感がある。まるで、ロミオとジュリエットの傍らにいるような... これが、魅力。

BERLIOZ ・ ROMÉO ET JULIETTE
JOHN ELIOT GARDINER


ベルリオーズ : 劇的交響曲 「ロメオとジュリエット」 Op.17

キャサリン・ロビン(コントラルト)
ジャン・ポール・フシェクール(テノール)
ジル・カシュマイユ(バス・バリトン)
モンテヴェルディ合唱団
ジョン・エリオット・ガーディナー/オルケストル・レヴォリュショネル・エ・ロマンティーク

PHILIPS/454 454-2

没後400年のメモリアル、シェイクスピアを音楽で聴く...
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