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グノー、ラグジュアリーな『ロメオとジュリエット』。 [before 2005]

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ロミオとジュリエットの物語を、改めて見つめると、その"若さ"に中てられる。中てられるというより、若過ぎる行動の"青さ"に、気恥しさを感じてしまう。一方で、その"若さ"に、妙なリアリティを覚えたりして... でもって、そういう"若さ"を描き出せたシェイクスピアが凄いと思う。英文学史に燦然と輝くアイコンが、素直に、向こう見ずな若いカップルを、瑞々しく描き出すのだから... どうやらシェイクスピアにとっても若書きだったらしい... けれど、作者たるシェイクスピアも若かったことが、この物語のミソになっている気がする。若いカップルの悲劇が、大人たちの硬直した社会を炙り出し、そこに、若い世代の反抗を感じ取る(いつの時代にも共通する感覚か... )。すると、これは、ルネサンス期のイギリスにおける、カウンターカルチャーだった?シェイクスピア劇は、今でこそ、どこか勿体ぶったイメージがあるけれど、初演された当初は、また違った表情を見せていたのかもしれない。
そんなイギリス生まれの『ロミオとジュリエット』を、豪華、グランド・オペラに仕立てたフランス... 大人の側で昇華され、また違った魅力を放つ若い2人の物語... ロベルト・アラーニャ(テノール)、アンジェラ・ゲオルギュー(ソプラノ)のタイトルロール、ミシェル・プラッソンが率いたトゥールーズ・カピトール劇場による、グノーのオペラ『ロメオとジュリエット』(EMI/5 56123 2)を聴く。

ワーグナー、ヴェルディの5歳年下となるグノー(1818-93)は、パリに生まれ、ピアニストだった母の下、早くからピアノの手解きを受け、やがてコンセルヴァトワールへと進み、ローマ賞を受賞(1839)。ローマへと留学し、さらに、ウィーン、ベルリンも巡り、当時の最先端にあったドイツ語圏の音楽に触れて、パリへと戻る(1843)。こうした国際感覚が、グノーに、フランス人にして、より広がりのある感性を育んだか?グノーに最初の成功をもたらしたのが、ドイツ文学の巨匠、ゲーテによる『ファウスト』(1859)だった。そして、この代表作以上に成功したのが、1865年に作曲が始められた、ここで聴く、『ロメオとジュリエット』... 当初、歌と台詞によるオペラ・コミックの形を採っていた(シェイクスピア劇の瑞々しさを保つには、それがベストのように感じる... )ものの、初演のリハーサルが始まると、台詞はレチタティーヴォに置き換えられ、1867年、完全なオペラとして、パリ、リリック座で初演を迎える。そして、大成功!パリでは、ちょうど万博(幕府と薩摩藩が参加した、第2回万国博覧会!)が開催されており、ヨーロッパ中から観光客が集まる中、『ロメオとジュリエット』の大成功は、その人気をヨーロッパ中に広めることとなり、瞬く間に、国境を越えて、各地のオペラハウスで上演される人気演目に!1873年には、オペラ・コミック座に場所を移し再演され、1888年には、伝統と格式を誇る、オペラ座でも取り上げられる... で、当時のオペラ座は、5幕立て、バレエ付きのグランド・オペラの専用劇場... グノーは、『ロメオとジュリエット』をヴァージョン・アップ!現在、各地のオペラハウスで上演される、ゴージャスな『ロメオとジュリエット』が誕生する。
久々にグノーの『ロメオとジュリエット』を聴くと、手堅さに圧倒される。そして、その手堅さに、シェイクスピアが籠めた"若い"からこその青さは、微塵も感じさせない。堂々としたアリアに、コーラスに、そしてバレエ・シーン!どれも、見事で、これが、当時のオペラ座クウォリティなのだろう。フランス料理の手の込んだ濃厚さを思わせる充実ぶりに、フィッシュ・アンド・チップスのイギリス料理なんて吹っ飛んでしまう?いや、このフランス流が、シェイクスピアにして、シェイクスピアとは違う魅力を生み出している。そこには、グノーの国際感覚も効いているようで、序曲は、どことなしにワーグナーっぽさを感じ... 若いカップルの悲恋を盛り上げるトーンには、ヴェルディを思わせるところも... こういうフランスに留まらない広がりが、グノーの『ロメオとジュリエット』のグランド・オペラ感を、上っ面でなく、ある種の迫力を以って、成り立たせているのだろう。いや、立派!もちろん、ジュリエットのワルツ「私は夢に生きたい!」(disc.1, track.11)のような、フランスらしい明朗なナンバーもあって... あの軽やかなワルツを聴いていると、ジュリエットのみならず、聴いている方も、気分は上がる!そして、4幕のバレエ・シーン(disc.3, track.1-7)... 『ファウスト』のバレエ・シーンのようなパンチは無いものの、華麗な音楽が展開され、隙が無い。いや、シェイクスピアの青さを徹底して補強し、堂々たるものに変身させ、最上級のロマンス劇に仕立て上げるフランス人のセンス!その善し悪しはさて置き、当時のオペラ座のラグジュアリー感がふんだんに盛り込まれたサウンドは、19世紀におけるオペラの最高級を見せつけられる思いがする。日本人にとって、音楽の都というと、すぐにウィーンとなってしまうわけだが、音楽史からすれば、音楽の都は圧倒的にパリであって、その頂点を極めたオペラ座の存在は、ワーグナーも、ヴェルディも目指した殿堂。なればこその、オペラ座仕様のグランド・オペラ、『ロメオとジュリエット』は、生半可ではない。よく練られ、徹底してリッチなサウンドが流れ出す。
という、グノーの『ロメオとジュリエット』を、今は別々の道を歩んでいる、かつてのオシドリ・スター、アラーニャ(テノール)、ゲオルギュー(ソプラノ)で聴くのだけれど... 結婚前年の録音だけに、しっくりと来る、ロメオとジュリエット。個性と個性がぶつかり合うのではなく、巧く引き立て合っているのが、若いカップルの初々しさを思わせて、印象的。他のキャストも、アンサンブルこそ大切に、実直に物語を描き出し、トゥールーズ・カピトール劇場のコーラスもしっかりと加わって、声により、グランド・オペラのどっしりとした構えを見事に築けている。一方、プラッソン、トゥールーズ・カピトール国立管の演奏は、丁寧な演奏を繰り広げ、きちんとした伴奏を務め上げ、歌を引き立てることに徹する。徹しつつ、グランド・オペラの「グランド」なあたりを、卒なく響かせる器用さ... そうして、全てが相俟って、中身の詰まった「グランド」に仕上がる!

GOUNOD: ROMÉO ET JULIETTE
ALAGNA, GHEORGHIU & PLASSON

グノー : オペラ 『ロメオとジュリエット』

ロメオ : ロベルト・アラーニャ(テノール)
ジュリエット : アンジェラ・ゲオルギュー(ソプラノ)
ローラン神父 : ホセ・ファン・ダム(バリトン)
ステファノ : マリー・アンジュ・トドロウィッチ(メッゾ・ソプラノ)
メルキューシオ : サイモン・キーンリーサイド(バリトン)
キャピレ : アラン・フォンダリー(バリトン)
ジェルトリュード : クレール・ラルシェ(メッゾ・ソプラノ)
ティバルト : ダニエル・ガルヴェス・ヴァレーヨ(テノール)
ベンヴォーリオ : ガイ・フレッチャー(テノール)
パリス : ディディエ・アンリー(バリトン)
グレゴーリオ : ティル・フェッシュナー(バリトン)
ヴェローナ公 : アラン・ヴァーンズ(バス)
ジャン修道士 : クリストフ・フェル(バス)
トゥールーズ・カピトール合唱団

ミシェル・プラッソン/トゥールーズ・カピトール国立管弦楽団

EMI/5 56123 2

没後400年のメモリアル、シェイクスピアを音楽で聴く...
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dezire

こんにちは、
私もオペラ『ロメオとジュリエット』を見てきましたので、ブログを興味深く読ませていただきました。ロメオとジュリエットの美しいアリアや愛の2重唱が音楽の中核をなしていますが、重厚な音楽、激しい音楽、悲劇的な音楽も組み込まれていて、非常に変化に富んだ厚みのある音楽構成の作品だと感じました。すばらしいアリアがたくさんありましたが、特にロメオとジュリエットの死の直前に情熱的に歌う愛の二重唱は特にすばらしく、物語の悲劇的印象を打ち消し美しい恋物語としての余韻を感じさせてくれました。

私もバレエ『コッペリア』を観て、このバレエや音楽の魅力を整理してみました。読んでいただけると嬉しいです。ご意見・ご感想などコメントをいただけると感謝いたします。



by dezire (2017-03-10 12:56) 

carrelage_phonique

dezireさん、コメント、ありがとうございます。

変化に富んだ厚みのある音楽構成... ですよね。いや、グノーって、凄いなと、つくづく感じてしまいます。ドリーヴもそうですが、19世紀のフランス音楽は侮れませんね... ウーン、魅了されます。
by carrelage_phonique (2017-03-11 19:07) 

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